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冤罪で死の山へ追放されたけど、なんか文明的に大変なものを見つけてしまった  作者: 光彦 マイナスドライバー 仮設トイレ 澪 ハギス 神戸天皇杯優勝おめでとう
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1-4 そんな装備で大丈夫か?

 

 殆どが山に覆われた島、工業エリア。


 ワープゲートのある駅から出て、山肌にある入り口を通りエレベーターを降りると中には巨大な工場が広がっていた。

 俺は工業エリアに秘書に頼まれた視察に来ていた。

 待っていたのは腕を組んで仁王立ちする一人の男とアンドロイド達。男が威風堂々と叫ぶ。


『――大将、俺はアンタを千年待っていた!』





 その日の前日。

 人工都市楽園その居住区ならぬ、モン・サン=ミシェルやらラスベガスが組み合わさった観光エリアに連れて行かれた俺は、他のエリアも視察する様に頼まれた。


 しかし気付くとホテルそのスイートルームで何故か寝ていた。

 俺は立ち上がった時に倒れかけたらしい。スイートルームに運ばれ二十時間も寝ていたそうだ。


 よく考えれば不眠不休で気を張りながら歩いていたのだ。当然の結果だろう。

 起きると土下座したドクターがいて、自決しそうな勢いで泣きながら謝られた。何でもホテルに行くのでそのまま寝るのだと勘違いしたらしい。

 けれど処方された薬が効きすぎて体調が麻痺しており、限界が分からなくなり俺は倒れたと。


 そんなこんなで一日の療養日が設けられ、スイートルームにてドクターに付きっ切りで看病された。ベッドからも出して貰えず食事は食べさせられ尿の処理も彼女にされ、着替えから身体のタオル拭きまで介護された。つらい。


 その翌日。

 嘘の様に身体が軽くなった俺は、庭で演奏される楽団による交響曲演奏で目を覚ました。

 ベルゴ王国の王族でさえ寝た事のなさそうなふかふかのベッドから起き上がり、バルコニーから朝日が輝く湖を見ながらコーヒーを飲んでいると、異世界に旅行に来た様な気になる。


 それから温泉で朝風呂を堪能し、王国のライ麦のパンが木片だったのかと思える日本風の柔らかいパンとビュッフェの朝食を堪能した。


 服もボロボロのものから用意してくれたタキシードに着替えた。ついでに髪も長くなっていたのでジェルで固めてオールバックにする。

 食後、庭園のカフェで秘書とドクターの二人と待ち合わせ、挨拶するとなぜか二人揃って小さくガッツポーズされた。真意はよく分からない。


 俺は心配してべたべたと身体を触るドクターを落ち着かせ、自動運転の車でワープゲートに移動しこの工業エリアに来たのだが……。


『オレの名は『工場長』。この工業エリアの統括責任者だ。よく来てくれたぜ大将!』


 目の前の人物はやたら長い前髪を横に流す、昭和にでも流行った髪型をした青い作業着姿の青年だった。その顔を活力に溢れ力強さすら感じる。


「よろしく。俺はハレルド・シンだ」


 そういって握手すると彼はニッコリと人懐っこい笑みを浮かべた。


『おう! ところで秘書は一緒じゃないのか大将?』


「ああ、彼女には俺の居住地の選定と、外部へと繋がる残りの十三のワープゲートについて調査を頼んだ」


 秘書とは現在、別行動している。

 ふと思ったのだ。俺が戻れる場所があの洞窟しかないのは危険だと。出てすぐ、俺の死亡を確認しに来た刺客と鉢合わせても目も当てられない。

 そこで別なワープゲート基地で、何処かいけるところがないか調べてもらっている。


『ふーん。秘書は本来システム上、大将から離れる訳にはいかないらしいが、それも問題なくなったとはねぇ。魔術ってすげぇな……まさかオレも“こんな風になれる”なんて思っても見なかったぜ!』


「えと? それはどういう――」


『それに例の話も聞いてるぜ。大将には助けに戻らなきゃならない女がいるんだろ?』


 工場長はわざとなのか無意識かこちらの疑問を答えず逆に質問してニヤリと笑う。


「それは……そうなんだが。というかなんで女性だと分かった?」


『そりゃ男が助けに行くのは女と相場が決まってるじゃねぇか。ハハハッ』


 この人間にしか見えない男はそう断言して大声で笑う。

 その偏った知識は一体、何処から……。


『――で、勝算はどうなんだい大将?』


 しかしすぐ笑みを消して真剣な顔で問う。


 自分の表情が厳しくなったのが分かる。今までは生き残る事に必死で気付かなかったが、確かに今の俺には何の力もない。


 まず武器。

 あるのは玩具の杖。だがこんなものでは戦う事も出来ない。

 欲しいのは魔剣だ。剣としても近接戦闘でき、同時に杖として魔術を使える特殊な剣。


 ただし一本で白金貨数枚掛かるとんでもない額の武器でもある。

 ここ楽園は科学技術に優れても、魔術にはそこまで精通していない。期待は出来ないだろう


 そして戦力。

 かつて俺が騎士見習いとして所属していた北の公爵率いる銀狼騎士団。彼らの協力を仰げれば、一気に目処は立つが俺は大罪人だ。


 北の公爵なら無罪を信じてくれるかもしれないが、外聞的に危険なのは間違いない。

 それにフェリペは銀狼を敵視していた。俺はここに連れてこられる際、馬車の中でフェリペが今回の件で王都を守る最大武力、憲兵隊長に出世すると耳に挟んでもいる。

 国家転覆を目論むアイツが王都を管理する存在になるのだ。難癖をつけて邪魔な人間達を排除している事は想像に難しくない。


 最後に協力者だ。

 このまま王都に舞い戻っても犯罪者として憲兵隊も銀狼騎士団も敵となる。王都には筆頭魔術師殿や東の公爵もいる。真正面から入っても即座に殺されるのがオチだろう。

 それにリリス達が今どうなっているのかまずその情報すらないのだ。


『その顔を見るに……まぁ絶望的だな』


 否定しようのない事実だった。


『俺は軍事担当じゃねぇから、兵に関しては無理だ。『軍曹』も迎撃ならお手の物だが、そもそもAIやアンドロイド、バイオロイドは自分達からの人間への攻撃は原則禁止されている。一応、大陸弾道ミサイル、原子力潜水艦、衛星軌道砲、無人機の類――戦闘機やヘリ、戦車やドローンも存在しているから、大将が手動操作で攻撃するなら使えるが、まぁ救出には向かなさ過ぎる。事故ったら救出対象までバラバラだ』


「待て。つまり君達は人間を攻撃できないのか?」


『ああ。AI、アンドロイドやバイオロイドは誤作動で人間を無差別に殺害する可能性を無くす為、殺傷目的の攻撃は一切禁止。さらにこの都市の防衛以外では制圧行動すら禁止されている。軍事エリアも全て迎撃の為の軍事力だ。管理者権限のある大将でも弄れねぇだろうなそこは……ただ』


「ただ?」


『バイオロイドは禁止されている。すなわちバイオロイドでなくなれば、手動だが使える訳だ』


 と、何故かウィンクをしてくる工場長。


「……すまない。なにを言ってるのかよく分からないのだけれど」


『生物と科学の進化の話だよ。まぁあくまで可能性の話だから気にすんな大将、ハハハッ!』


「そ、そうか?」


 ……時折、バイオロイド達が物凄く意味深な言葉を発するのは、全て聞き流した方がいいのだろうか。


『ま、つまり今の大将には愛する者を助けに行く力はない。――だがしかーしッ! その為に俺達がいるッ!』


 工場長は嬉しそうに指を鳴らすと、控えていた四速歩行のアンドロイドが近づいてきて、俺に何かを渡した。


「ベルト?」


『ズバリ、この世界でも違和感のない様な見た目をした、科学技術の粋を結集した鎧型パワードスーツ換装ベルトだ!』


「は?」


 鎧への換装ベルト。

 それはあれだろうか、昔よくやっていたヒーローとかがやるアレの類だろうか。


『とは言っても、実はまだ電力供給の問題で稼動は数分しか出来ねぇんだ。だが数分ならちゃんと動くから物は試しに装着してみるといいぜ。ドクターから送られてきたデータで着け心地もバッチリ。着け方も脳波認証と音声認証だから、意思を持って装着と言えばいい』


「……装着」


 俺はベルトを巻いて宣言する。

 視界が少しだけ上がる。全身にまるで甲冑を着たかの様な感覚になる。


 だが甲冑と比べて中は快適そのもの。温度調整も消臭機能もありそうだ。

 さらに視界には360度開け、甲冑の難点である視野狭窄がない。

 しかも見えている画面には様々なパラメーターが見える。


「おおっ、すごっ!?」


『探索用ドローンが肩に収納されているから、念じて呼び出して自分を見てみるといい――どうだ大将! これが俺達が作り上げた最強の鎧! 今のアンタの姿だぜ!』


 念じると視界の右下一部分に別な映像が浮かび上がる。映るのは一体の騎士。


 ――白銀の竜騎士。


 プラチナの様に輝くボディ。

 竜を模した鎧の造詣。重厚にしてスマート。めちゃくちゃ強そうだ。

 なによりクソ格好いい。


『コイツはパワードスーツだからな、筋力は通常の百五十倍。全身は超合金と衝撃吸収構造で保護。さらに『博士』の作った広域展開可能な対物(アンチマテリアル)対魔力(アンチマジック)(シールド)ことAMMシールドを左手に内臓。右手は簡易転移装置になっておりいつでも、盾と同じ仕組みの対物(アンチマテリアル)対魔力(アンチマジック)(ソード)ことAMMソードを筆頭に、グレネードランチャーやエネルギーライフルなんかも即座に装備可能だ。……最高だろ?』


「あ、ああ、うん?」


『さらにだッ。足には空中ホバー用の噴射機と、背中には高速移動用の翼型ブースターで空も自由自在。肩には今大将を映している、小型の戦闘及び索敵用ドローンに広域レーダー完備。トドメに背中に垂直発射型地対空ミイサルを収納! パワー、耐久、火力、機動力、索敵全てにおいてこの世界で最高の鎧だぜ!』


 凄い。

 本当は良く分からないが字面だけであらゆる敵を倒せそうだ。


『……ただすまねぇが、稼働時間の問題以外にも、対魔力に関しては鎧全体に行き渡せられなかった。拡張可能な盾にするのが精一杯だから、大将たちが使える魔術とやらには十分注意を払ってくれ』


「分かった。……とりあえず飛んでみよかな」


『あっ、ま』


 そう願った瞬間、背面に粒子の翼が羽ばたく。その美しさに気を取られた瞬間。


『全員退避ィ――!』


 工場長の絶叫と共に逃げ惑うアンドロイド達の映像を置き去りに、謎の振動が体を襲った。

 一瞬の暗闇のあと気付くと視界は島の上空にあった。


「――え?」


 下を見ると、山の一部に穴が開いていた。

 軽く飛び上がるつもりがここまで貫通してしまったらしい。どんな推進力だ。


 すると脳内に直接誰かの声が響いた。


【工場長】『大将、無事か!?』


【ドクター】『お前ッ、工場長! もしマスターに何かあったら直接、私が死というものを教えてやる……ッ!』


【軍曹】『一応、緊急連絡致します。工業エリアの上空にて高速飛翔し現在、浮遊状態にある熱源を発見致しましたわ。……ふふっ』


【管理人】『え、なに? また施設ぶっ壊したの!? 誰だよ一週間連続だぞ!? 毎度直すの僕なんだけど、君ら初の人体にどんだけ舞い上がってるのさっ!』


 工場長とドクターと、知らない声の男女二人が喋っている。

 また視界の端にメッセージと書かれた項目が浮かび、名前と喋った内容がログとして表示されている。知らない声の二人は『軍曹』と『管理人』と書いてあった。


【神埼真一】『……これは?』


【ドクター】『っ!?』


 直後、ドクターの名前が表示される一覧から消えた。なぜ?


 さらに『ふふっ、貴方様はお会いする度に麗しくあらせられますわね』『えっ、誰今の通信? は? う、うそでしょ? あ、あはは……』と言う声を残し、軍曹と管理人の名前も消えた。


【工場長】『おい! 脅すだけ脅して通信切るんじゃねぇよメンヘラ女! あ、無事か大将。まぁその鎧なら山を貫通したくらいじゃ大丈夫だろう?』


【神埼真一】『ああ、今は普通に飛行できている。羽ばたき一つでこの推進力と速度はオーバースペックだな……ところでこのメッセージってなんだ?』


【工場長】『それはまぁ衛星通信みたいなもんだと思ってくれ。チャット欄的な? これ着ている間はいつも俺達が使ってる通信内容も聞こえる様にしてあるんだ』


【神埼真一】『そうか。……ところで武器の呼び出しはどうすればいい?』


【工場長】『音声コマンドはオン・オフ自在だが、初期仕様では武器のイメージと一緒に“来い”と言えば転送される』


 俺は言われるがまま「来い」と発すると手に片刃かつそれが光っている近未来的なイメージの剣が現れた。

 これが例の対物対魔力剣、AMMソードだろう。


 さらに別なものを呼び出す。


 今度は異様に銃身の長いデザートイーグルの様な銃が手に現れた。


【工場長】『そのエネルギーライフルは一発しか撃てないが、その一撃であらかた片付くとんでもない威力がある。あ、その為にも必ず上か下に向けて撃ってくれ。水平に撃つと数キロ近く真っ直ぐ進む熱線があらゆる物を蒸発させる事になる』


【神埼真一】『あぶなっ。それ、もうロマン武器じゃないか』


【工場長】『………………………………………………い、嫌だった?』


 指摘するとめちゃくちゃビビッていた。


【神埼真一】『いや――完璧だ工場長』


【工場長】『恐悦至極だ大将!! 分かるかやっぱり!? 女の博士とドクターと秘書からは散々「馬鹿じゃないの?」と詰られたが、やっぱり大将は男ってものを良く分かってる! 俺はアンタに一生ついてく!』


 そんな大げさなと思ったが、工場長の喜び様はすごい。

 たぶん殺戮目的ならマシンガンやショットガンの類が一番いい。なのにこの一発限りのオーバーキル兵器だ。

 そもそも鎧もこんなデザインにする必要もなかったはずだ。

 千年も待っていたと言うし、ハードを変えながらAIとしての人格?を持ち続けた結果、相当拗らせたのだろうな……。


 ただ国家危機の災害指定クラスの魔物と戦うのなら、これは案外役に立つかもしれないとは思った。

 この大陸には出現したら逃げる以外に選択肢のない魔物が存在している。女帝蜘蛛。タイタン。ジャバウォック。我捨髑髏……そういえばこいつらは、殆どがかつてこの世界にあった幻想の類だよな?


 ――発音からしてこれは英語と日本語を元にしている?


【工場長】『どうした大将。何か問題か?』


【神埼真一】『ん? ああいや、しばらく飛行していいか?』


【工場長】『ああ! と言いたいんだがそろそろ……』


 そのときだ。

 ウィンウィンと画面が赤く点滅し警告音が鳴り出した。


【神埼真一】『えっ』


【工場長】『じゅ、充電がフルじゃなかったから、そろそろやばいんだ……その、パワーに機動力と火力、防御全てに力を入れたから……それでも本来はこれの倍は使えるんだが、すまん大将』


【神崎真一】『ああ、いいさ。ただ稼働時間はもう少し頑張ってくれ……』


 俺は仕方なく足のホバーを調整し山に空いた穴の中へと舞い戻った。ただこれは数分間であれば、どんな敵にも負けない鎧だという確信も持てた。


【神崎真一】『ありがとう工場長。俺は最高の切り札を一つ手に入れた』


【工場長】『っ!? お、おうよ! へへっ』


 通信を切り戻ってみると工場長が赤い顔で鼻を啜っているのを見て少し笑ってしまった。


 これで一つ武器が出来た。それも飛びっきり強い武器が。

 ただ味方を増やす事は難しいようだ。彼らは自分から人間を攻撃できない。やはり戦闘は俺単騎となる。なら王国にいる味方となってくれる人物を捜すべきだ。


 くわえて軍事エリアにもこの後に行くべきだろう。防衛は最強だが攻撃には適さない事も含め、知っておくべきだな。


「ところで工場長。さっき軍事エリアを統括しているらしい軍曹と呼ばれる女性の声が聞こえたんだが、彼女はどんな人物なんだ?」


 俺は装着を解除しながら気軽に聞いたつもりだった。

 けれど。


『……………………そうだ。まだあの女に会ってないんだった。最悪その、なんだ。楽園の敵性対象と見なされたら……射殺される、かも』


「――え?」


『すまんが例え大将であっても。いや大将だからこそ、あの女にはアンタを殺す権限があるんだ』


 気まずそうな顔を逸らしながら返ってきた内容はかなりヤバイなものであった。




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