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冤罪で死の山へ追放されたけど、なんか文明的に大変なものを見つけてしまった  作者: 光彦 マイナスドライバー 仮設トイレ 澪 ハギス 神戸天皇杯優勝おめでとう
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1-3 家が観光名所でした


「なんだ、ここ……」


 王国を追放された俺は洞窟の奥にあった日本語の文字に誘われ、謎の地下施設に行くとワープゲートに辿り着いた。

 その後、旧文明の滅亡の経緯を知りそのゲートに足を踏み入れたのだが……。


「有り得ないだろ。これが同じ地球なのか?」


 ゲートを出た先にあった光景は想定とは大きく掛け離れていた。


「なにが居住区だ。ここは……南国の高級リゾート地か!?」


 照りつける太陽。


 エメラルドブルーの海。


 整備され美しい街道。


 海に浮かぶコテージ。


 汚れ一つないビーチ。


 橋で繋がれ離れ小島の数々。


 さらに遠くに見える港には巨大な豪華客船やらフェリー等が見える。


 内陸を見ると黄金の巨大な宮殿に高級ホテルと思わしきエキゾチックなデザインのビル群。

 さらには劇場のようなものやアリーナ。カジノや飲食店街、デパート。

 そして観覧車やジェットコースターらしきものが見えるアミューズメントパークまである。


 トドメにこれらの中央に君臨するのは、大きな湖に浮かぶ白亜の巨城。


「避難所と居住区? これが?」


 今、俺がいるのはワープゲートを中心とした駅の様な建物の玄関口だ。

 ゲートは駅や空港の役割を果たしているのだろう。ここは島の高台と言うこともあり島全域が見渡せる。


「ビーチは……ワイキキっぽいな。テーマパークは某大阪のやつに見える。カジノはラスベガスで、湖上の城はあのモン・サン=ミシェルか? さらにヨットの帆みたいなのホテルはドバイの7つ星。その隣はシンガポールの例の植物園。パリのオペラ座みたいな劇場の周りはベネチアの水路みたいだし……温泉くらいしか、ないものはなさそうだ……」


『日本式温泉も、フィンランド式のサウナも各ホテルにございます。温泉の効能は疲労回復、神経痛、筋肉痛、肩こり、高血圧、動脈硬化、きりきず、やけど、切り傷、やけど、慢性皮膚病、美肌作用、冷え性、切り傷、やけど、関節痛、動脈硬化症、切り傷、やけど、慢性皮膚病……』


「わ、分かったもういい。と言うかここ、高級リゾート地だよな? 避難所じゃないよな?」


『楽園でございますゆえ。娯楽施設を充実させたリゾート地も、避難のストレス解消の為に併設されております。食事も贅を尽したもので世界中の最高級料理を楽しめます』


 目が回った。


 この世界の城なんて要塞かつ防寒の意味があればいいようなもの。

 娯楽施設なんてものもサーカスや娼館くらいだ。

 食事も大抵は硬すぎるパンに干し肉。飲み物も水も綺麗ではないので甘みも渋みもない味の無いワインばかり。

 貴族の食事も煮込み料理ばかりでロクなものじゃない。

 ましてベルゴ王国は北国だ。


「天国かよ」


『楽園にございます』


 しかしだ。


「どうしてこんなに綺麗に残ってるんだ? 災害とかあるだろうし老朽化もするだろう」


『ここは太平洋沖の人工島、移動式のメガフロートでございます。気象兵器による天候管理、地震動緩急大地、波消失堤防等により天変地異のあらゆる影響を受けません。魔力を除いて』


「な、なるほど」


『また魔物に関してもこの楽園の領域は人工的な霧と海流により外からの侵入は不可能。都市内でかつて発生した魔物も防衛機構により既に排除され安全が確保されております』


「それなら……って千年前は住むはずの人間が魔物になってしまったのだから、その防衛機構も意味はなかったのか」


『はい。また老朽化についても数十年ごとに建替え工事が行われております。これはアンドロイド及びAIやサーバー、全機械機器及び施設の人工物に至るまで、それぞれ定められた年数で取り壊され新規に製造されております』


「流石に千年この風景が劣化せず残ってるなんて有り得ないよな。と言うかアンドロイドが建物とかも作っているのか?」


『工業地区の地下にて建物ごと製造。完成次第、移動式ワープゲートにて設置致しております』


「建物を工場内で作って転移させるなら確かに簡単か……」


『複雑な建造物もワープゲートと超大型プリンターを組み合わせた装置により、危険なく完全なものを製造可能です。また残されている3DT2データにあるものでしたら、ご命令一つであらゆる物を作れます』


「そ、そうか」


 それって銃を始めとした兵器も出来るって事だよな。いや軍事エリアがある時点であれか……むしろそれよりもだ。


 ……。


 ふと、とんでもない事に気付いた。


「――腹、減った」


 そうだ。

 ショッキングな話が続き過ぎて忘れていたが、俺は死にかけである。


『施設運営のアンドロイド及び統括責任者となるバイオロイドを全機起動させ、当エリアを正式稼動致します。まずは希望する料理を選択して下さい。フレンチ、日本食、中華、イタリアン、スペイン、インド、ベトナム、韓国……』


「日本食だ! 日本食で!」


『かしこまりました。ホテルまでご案内致します』


 同時に車輪のないホバーの様なリムジンが突如、俺の前の走り込んで来て止まった。

 ドアが真上に向かって開く。


 そして運転席から一人のスーツを着た、長い黒髪をパッツンにした日本風な美女が現れた。


「なっ!? 日本人?」


『いいえ。私です』


「はぁ!?」


 その声は今まさに、まんま後ろの駅の様な建物から聞こえていたアナウンスさんの声そのものであった。


『アナウンスを務めさせて頂いております、アシスタントAIの『秘書』でございます』


「……途中からずっと気になっていたけど、やはりAIだったのか」


『はい。これは専用ボディですので、今後はこの姿でご案内させて頂きます。まずはお乗り下さい。中に簡単な軽食と飲み物もご用意されております』


「あ、ああ……………」


 なんだか現実感のなさが凄いが、食べ物に釣られた俺はリムジンに乗り込んだ。










 そしてもう死んでもいいと思った。


「……旨いっ……! 旨すぎる……!! こんな旨いものを現代人は食ってたのか……!」


 食が未発達なこの世界に十七年も生きたからこそ分かる、現代人の食事のレベルの高さ。


「普通に食えるのは貰った薬のおかげだろうな」


 あの後、俺はまず病院に連れて行かれた。

 そこには『ドクター』と呼ばれる、ボサボサした髪の眼鏡を掛けた女性のバイオロイドがいた。


『どうも。医療機関の総責任者の医者ドクターです。私がいる限り貴方は老衰以外で、絶対に死なせないので宜しくマスター』


 と、妙に怖いことを言われた。しかも。


『……ドクター貴方、音声での会話するんですね』


『…………』


『いやデータ通信で済まさないで下さい。私とも会話して下さい』


 秘書となんか漫才の様なやり取りをしていた。

 正直、俺はこの二人が、いやバイオロイドと言うものがよく分からない。だがそんな疑問を他所に大きなスキャナーの様な機器で全身をスキャンされると、粉末の薬を渡された。


『マスター。その状態で何か食べると胃痙攣起こして吐く。これ呑んで』


「分かった」


『……なんでマスターとは会話するんですか? ……いやですからデータ通信で済まさないで下さい』


 これが立ち所に効いた。

 中身が何なのかわからないが活力が凄い。凍傷を治す代わりに治療できなかった傷や、弱った胃の粘膜を保護。さらに栄養失調状態も改善されたらしい。


「助かったよ。ありがとうドクター」


『礼を言うのはこちら。マスター、貴方の力で私達は…………ごめんなさい、今のはなんでもない。それより皆に会ってあげて。そうすれば皆も“同じ様”になるから』


「どういう意味だ?」


『会えば分かる』


 最後にドクターはよく分からない事を言ったが、彼女はそのまま仕事に戻ってしまった。


 その後、やや不機嫌そうに見える秘書に湖畔に浮かぶ城の様なホテルに連れて行かれた俺は、豪華絢爛な内装を眺めつつカフェテラスに案内された。


 最初は最上階のスイーツへの案内をすると言われたが、とにもかくにも腹が減っていたので広々とした噴水やオブジェのある庭のカフェにて、湖を眺めながら味噌汁とおにぎりを食べている。


 そう。ただの味噌汁とおにぎりだ。


 他にもあったが俺はどうしてもこれが食べたかった。実際、顔と景観にも限りなく合わないが一口食べてから涙が止まらない。


 旨い。本当に旨い。


 今まで自分が食べていたものがゴミにしか思えない。


「旨いよ……本当に……この都市を、この文化を保存してきてくれてありがとう」


『……光栄に思います』


 思わず感謝を述べる。

 これほど俺の元いた文明は優れていたのだ。それが本当に失われていたとしたら、ゾッとしてしまう。


『マスター、食後のお茶とデザートよ』


「ありがとう……ええと?」


 その後、メイドの格好をした長い銀髪を後ろでまとめた、サバサバ印象を受ける少女がやってきて追加のあんみつとお茶を置いた。


『私も挨拶しとくわね。――お初にお目にかかります、家事給仕の統括責任者の『メイド長』と申します。どうかよしなに。ところで、マスターってゲイじゃないわよね?』


『やめなさい違いますから。脳波認証で確認したではありませんか』


『そっか。良かったわ』


「……なにが?」


 しかし俺の問に答えず彼女は手をヒラヒラさせて帰って行った。

 彼女もバイオロイドという奴なのだろう。やはり人にしか見えない。


「なぁ、もしかしてバイオロイドという奴はみんな女性なのか?」


『いいえ。それぞれの希望によって異なります。『工場長』や『料理長』は男性でした。なぜか『船長』と『軍曹』は女性でしたが。お嫌でしたか?』


「いやむしろ女性ばかりの方が辛いし、違和感がある。それに希望があるならいいじゃないか」


 AIに性別の希望って、それもう人格あるよな? とか思ったが口にはださなかった。

 それよりデザートだ。俺はこちらも夢心地のまま食べ終えると、ようやく一息つけた。


「…………ほんと、なにがどうなってんだろうなこれ」


 しばらく意味もなく太平洋のど真ん中から青い空を見上げる。

 庭園から望める湖は光を乱反射させ美しい。時折、白鳥の様な鳥達が波紋を残して飛び立って行く。


 まるで追放されたあの日が嘘みたいな穏やかさだ。


「にしてもよく料理が出てきたな。リムジンにあったナッツ類は分かるが、この米に味噌は何処から?」


『農業及び畜産、漁港エリアは未稼働ですが、現状維持の為に少量ながら全品目を地下研究施設にて継続生産しております。それが各ショッピングセンターやコンビニ、ホテルのキッチンに自動供給される仕組みです。また少量と言っても数百人であれば食料が枯渇する事はありません』


「なるほど。ちなみに調理はどうなってるんた?」


『各施設のキッチンには、調理担当のアンドロイドがおります。こちらにお連れする事が決まったので、ここに優先して配置致しました。お呼びしますか?』


「……いや、大丈夫だ。それにしても」


 オーバースペック過ぎるな。


 俺はモン・サン=ミシェルが元ネタであろうこのホテルを見る。


 湖畔に浮かぶ白亜の城。今まで見てきたどの城よりも美しい。

 さらに湖のあるこの台地はワープゲートの駅とも繋がっており、そこより高いためさらに島全体がよく見える。


「……どう見ても文明レベルが違い過ぎる」


 海岸沿いはやはりハワイのワイキキビーチが元ネタで間違いないだろう。

 近くにあるヨットの帆みたいなのはドバイの7つ星高級ホテルがモチーフなはず。その隣にはラスベガスの様な色鮮やかなネオンが点いた施設たち。


 左右にはシンガポールの名前は知らないが有名なハイテク植物園をモチーフにしたであろうショッピングセンター。

 その裏手には大阪のやつの系列に見えるテーマパーク。

 逆側には水路が流れヴェネチアとパリのオペラ座を合わせた様な一群がある。

 海岸沿いの巨大な豪華客船も存在感が凄まじい。そもそもあのサイズの船でこの時代の港に行こうものなら、国がひっくり返った様な騒ぎになる。


 各国の王族を招待したら懐柔できるかな?


 さらに軍事エリア、農業エリア、畜産エリア、漁港エリアなどがある訳だ。しかし。


「ここで暮らすのは問題というか、この時代の人間をここに入れるのは難しいな。説明のしようがないし、見せるだけで危険な可能性もある。…………一ついいか?」


『なんでしょうか?』


「俺には助けたい人達がいる。今後、ここが俺の住処になるのなら信頼出来る者や、交渉などの為にも外の人間をここに入れる可能性がある」


『セキュリティは万全です。現在は対魔術用の技術も進歩しており、対象者の魔術の使用を阻害する機器を開発中です』


「それは頼もしい。ただ信頼する者と共に暮らせるような、今の時代の人間が見ても違和感のない住居も欲しいんだ。いくら何でもここは刺激が強過ぎる。頼めるか?」


『お任せを。建築物のスペアはあります。半日で稼動させれます。ただ……』


「ただ?」


『それまで各エリアの視察をお願いしても宜しいでしょうか?』


「分かった。俺も文明の乖離は確認しておきたい」


『ありがとうございます』


 お茶も一息に俺は立ち上がる。

 ただやはり、そう優雅に一礼するスーツ姿の美女は、どう見ても人間にしか見えなかった。






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