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冤罪で死の山へ追放されたけど、なんか文明的に大変なものを見つけてしまった  作者: 光彦 マイナスドライバー 仮設トイレ 澪 ハギス 神戸天皇杯優勝おめでとう
2/13

1-2 話は聞かせて貰った。が人類は既に滅亡していた

 

 俺は北の王国ベルゴから死の山へと冤罪で追放された。

 しかし洞窟の奥で朽ち果てる瞬間、日本語で書かれた文字を見つけた事で前世の記憶が蘇り、突如として目の前の壁が開き道が現れる。


『どうぞお入り下さい』


 促すのは無機質な機械の声。


 唖然呆然とはこの事だ。

 剣と魔法のファンタジー世界の奥地にこんな科学文明が眠っていたなど、誰が信じよう。


「いやそもそも“剣と魔法のファンタジー”って言葉がもう……俺は一体どうなってるんだ?」


 思考というか記憶が混乱している。

 まずは思い出した記憶を整理する。


 俺の名はハレルド・シン。ベルゴ王国の騎士学校に通う騎士見習いだ。


 これに間違いはない。

 しかし同時に日本人としての記憶が蘇っている。神埼真一という現代日本に暮らす人間としての記憶。それが生まれ変わって剣と魔法の世界に転生した?


 たぶん魂は同じなのだろう。記憶は二つあるが連続性もある。別人になったという感じもない。つまりはハレルド・シンと神埼真一、両者は記憶は違えど同一なのだ。


 さて、ここまではいい。

 全ては実際に今体験している事だ。無茶苦茶でも受け入れられる。問題は――。


『脳波認証による確認が取れております。どうぞお入り下さいませ』


 目の前にある日本語でアナウンスする近未来感溢れる施設である。


 なにこれ?

 ここは現代日本とは異なる異世界じゃないのか?

 なんでアジアとかエレベーターとか日本語がある?


「ッ、さむっ」


 しかし答えなんか出るはずもなく、このままでは凍死する。

 俺は兎にも角にもこの施設に入る事にした。










 そして開かれた通路の先にあったのは一つのエレベーター。


 特にアナウンスはないが、他に何もない以上はこれに乗るしかない。正直この通路も暖かいが、人もいなければ食料もない。乗らないという選択肢はなかった。

 一つだけある『↓』というボタンを押して中に入ると、突如として周りの景色が変化した。


「っ、水!? いやこれは……立体映像か?」


 海の中そのもの。周囲や足元が水に変化した。

 本物としか思えない魚やクラゲ、亀などが俺の周りを優雅に泳いでいる。

 ただどう考えてもおかしなモノが二つ。BGMとして流れる聞いた事のあるクラシック、右上の宙に浮かぶ液晶パネルだ。


 パネルに表示されるボタンは三つ。それぞれ。


 地上。

 緊急時中継点。

 ワープゲート。


 一番下の文字を見たとき、日本語の意味を思い出しきれてないのかと考えたが、やっぱりSFに出てきそうな単語としか思えなかった。

 しかし行き先はそこしかない。意を決してそのボタンを押す。


 海底へと景色が沈みだす。

 周囲の魚もマグロの大群やイカ、クジラなどが現れ、やがて深海魚の様な魚達に変わっていく。

 恐ろしい技術だ。VRの極地とはこんなだろう。


 ……あれ?


 ふと、乗ってそこそこ時間が経つのに気圧の変化を感じていない事にも気付いた。耳がつーんとする感じが一切ない。それだけでこの施設は俺の知ってる現代日本の技術を圧倒的に凌駕している事が分かる。


 ――チン。


 その割にステレオタイプな到着を知らせる音が鳴る。止まった衝撃さえ感じさせず、海が溶けて消え再び目の前にドアが現れる。

 開くと同時に目の前の暗闇がライトアップされ、通路と正面にあるまた別の扉が浮かび上がった。

 俺はおそるおそるエレベーターを降りて扉に近づく。


「第12ワープゲート……」


 間違いなくワープゲートと書いてある。

 緊張しながらその扉に手を伸ばすと解除音がして左右にスライドした。


 ――中は思った以上に質素だった。


 ガラス張りの周囲の外には黒い箱が十個ほど並んでいる。サーバーか何かに見えなくもない。

 そして中央には大きめな円形の台座が一つ。

 台座には淡い緑の発光した輪が一定周期で浮かんでは消えるということを繰り返している。


『ワープゲートの解除認証を致しますか?』


「え? あ、はい」


 呆然としているとアナウンスが流れ頷く。


『脳波認証による確認が取れました。問題なくご使用頂けます。また現在、ワープゲートは管理権限が設定されておりません。管理者としてご登録いたしますか?』


「……はい」


『ワープゲートの管理権限が仮設定より1067年3ヵ月振りに正式設定に更新されました。

 登録者名は神埼真一ならびに77×あe=陣――言語上、設定不可。

「神埼真一」でのご登録となります。

 以後、地球衛星ネットワーク及び二点間粒子投影により、全ワープゲート基地のご使用が可能となり、今後は自由に衛星を介して二点間転移が可能となります。

 続けて当施設の権限もご登録いたしますか?』


「あ、ああ?」


『アジア北方部第12区地下基地の管理権限を設定。

 地上部の防衛施設及び気象兵器の正式稼動を確認。

 現在、周辺地域の気象設定が『不良』『雪』『ランダム』に設定されております。

 またご登録されている脳波パターンを持つ神埼真一様ご自身にも『良好』『晴天』『ランダム』が個別設定されており、コンフリクトが生じております。

 どちらを優先なさいますか?』


「え?」


 さっきから流れるアナウンスは分かった様な分からない様な話が続いてた。


 脳波認証とやらはまぁ指紋認証や網膜認証とかの、その類の最先端なのだろう。

 ワープゲートも衛星ネットワークだとか粒子二点間投影とか、分かる様な分からない様な単語は別にして、ワープが出来るらしいのは何となく分かった。


 一方でどう考えても、この施設は日本語でありながら現代日本人の俺の知る科学文明の先を行っている。特に。


「気象、兵器?」


 擬似科学というかトンデモ兵器というか、この施設に対してそれが発動しているらしい。

 だからこの死雪山脈と呼ばれるこの地域は永遠に雪が降っているのか。そこは納得したが……。


「人を対象にしている? ――そうか。だからベルゴ王国の王家は、この北の大地であっても雪が降らないように出来ているのか!」


 ベルゴ王国は王家の力で雪がやんでいる。

 今なお語られる話だ。確かに異様に不自然なのだ。周りは雪だらけなのに、王国は極端に雪が降らない。だからあの国は生活が成り立っている。


 つまりこの気象兵器は王家の誰かに対しても働いている。ただそうなると神人類の正体とは……この施設を扱っていた文明人。つまりは日本人の子孫?


「しかし俺もその対象になっていると言う事は、俺にもその血が流れている?」


『お答えします。衛星より脳波認証を行った結果、貴方様が該当者として特定されておりました』


「やはりそうか。旧文明の血筋である王家のみに扱える恩寵魔術が使え、気象兵器の対象にも指定されている……どう考えても俺の出自って、王家に関わってるよな」


 予想外の形で自分は両親の子ではなく王家の血を持つ存在だったという可能性が浮上し困惑する。


『いかが致しますか?』


「……今は雪でいい。天候が不自然に晴れて兵を差し向けられても困る」


『かしこまりました。気象兵器は当施設の設定に準じます』


 まさか天候を自在に操れるとは。この施設の周りだけだろうがなんて恐ろしい。


「それとワープと言ってたが、やはりあのワープだよな? 一体どこに繋がっているんだ」


『転移可能先を確認致します。

 ……酸素濃度・空間猶予・温度・有害物質・外敵生物・一月の環境変化……チェック完了。現在、転移可能なのは地上部では第7ゲート基地のみ。【楽園】では全エリア可能です』


「らくえん? いやそれより居住区だと!? 人は、人はいるのか!」


 この施設を使っている誰かがいるかもしれない。そんな希望を持ち尋ねたのだが……。


『【楽園】のうち居住エリア、畜産エリア、農業エリア、漁港エリアは全て未稼働。維持管理の為のアンドロイド及びバイオロイドのみ稼動しております。また【楽園】の維持管理を行う為に工業エリアと軍事エリアは現在も正規稼動されております』


「では人間は?」


『おりません』


「そうか……ところでさっきから出てきてる【楽園】とは一体なんだ?」


『【楽園】とは、魔力汚染にて地上部が生活困難に陥った際、避難する為の都市開発予定地にございます。第1から14まで設置されたワープゲートは全てこの【楽園】へ通じております』


「待て。魔力汚染とはなんだ?」


『地上にて発生した魔力と呼ばれる新エネルギーにより、生物が身体及び精神を維持できなくなる病の総称です。

 地球上の全地域で発生した魔力により野生動物、家畜、人間、植物……果ては鉱物に至るまでが巨大化・変異・凶暴化し、地上文明に回復不能な大打撃を与えた大災害です』


 現代世界に魔力が発生した? それにより世界がおかしくなったと?


「……すまない情報が多い。一つずつ聞かせてくれ。まず、やはりここは地球なのか?」


『はい。太陽系に存在する惑星地球です』


「そうか」


 この瞬間、俺は異世界に転生したのでなく未来の地球で前世の記憶が蘇った事が確定した。

 同時に少し心臓が締め付けられる思いがした。


 それは俺の知る、俺や皆が繋いでいたあの現代日本にあった全ての文明は潰えてしまったということだから。

 残してきた家族や友人も死んでしまった事は心の何処かで覚悟していた。けど、そうしてまで紡いで来たはずのものが、今この地球に何もなかったのだ。


「それで……その魔力汚染とやらで、地上がどうなったのか分かるか?」


『かつて各国による複数の戦略兵器の起動が確認されております。

 それ以降も地形を変形させる程の巨大エネルギーが地上部で数十回発生したのを観測いたしました。

 なおそれから1067年3ヵ月以降、一切そういったものは観測されておりません』


「その後は誰もここに来なかったのか?」


『はい。当施設の魔力遮断は失敗していたのです。

 むしろ【楽園】の内部も魔力によって汚染され、人間が住める環境ではありませんでした。

 それが発覚すると入植予定者達は稼動前の当施設を維持管理状態に切り替え、ワープゲートを使い別な場所を目指しました。

 その際に登録された数百年経過した場合の当施設の権限委譲の条件は、日本人の脳波データを持つ者と設定されており、このたび該当致しました神埼真一様に全ての権限が引き継がれた次第です』


「なぜその脳波データ? とやらは俺だけが持っていたんだ?」


『脳波データとはその人物の持つ記憶・言語・DNAなど幾多の情報が集約されております。

 ゆえに個人の正確な特定はもちろん、国籍や血筋だけではなく包括的な判断が出来るデータです。

 これまでもDNAのみ一致する人物が当施設への入場を求めたことがありましたが、その人物を日本人と断定するには至りませんでした』


「なるほど。あと……その魔力汚染というのは、もしかして今も続いているんじゃないか?」


『はい。現在も地球上の全てで魔力汚染は続いております』


「………………そうか」


 俺は思わず天井を仰いだ。

 なんで俺がここへと入れたのかと、俺のいた地球の科学文明が辿った末路が分かった。


 ――恐らくかつての地球文明は『魔力』により滅んだ。


 現代日本の記憶がある俺からすれば魔力なんて創作物において憧れの存在とも言える。だが実際にそれが発生してみると、魔力は人間にとって害でしかなかった。


 巨大化、変異、凶暴化……。


 考えてみればモンスターと呼ばれる空想の存在はどれも魔力によってその姿になったとされている。

 それが現実として人間にも当てはまってしまった。

 汚染とは言うが地球が魔力を生み出す惑星に変化したのなら逃げ場などない。全てが狂気に飲まれ凶悪なモンスターとなっていく。

 そして変質した生物達と理性を失った人間達により文明は滅んだ。


 俺達現代人が繋いで来た科学文明は死んでしまったのだ。


 ではなぜベルゴ王国をはじめとするこの大陸の人間、つまり俺達は魔力に汚染されながら、それを逆に魔術として駆使して生きてこられたのか。


「――きっとこの千年で生き残った人間たちは魔力を扱える存在へと進化したんだ」


 旧文明の人類に生き残りがいたのだろう。魔力に多少なりと耐性を持つ者達が。

 それが再び文明を築き、段々と魔力を制御することに成功していく。そして中世へと逆行する形で新たな文明が生まれ、それが今の俺達となった。


 きっと大陸各所にもこういった場所は存在しているかもしれない。

 けれど決して開くことや起動する事はない。俺がここに辿り着けた要因はあまりにもイレギュラーすぎる。


 ――鍵は前世の記憶だろうな。


 突如として俺が思い出した記憶。

 それが俺の脳波とやらに影響した。俺の知っている脳波はただの電気信号だが、アナウンスの言う脳波データ或いは認証は使う言語やDNA、記憶といって部分まで解析できると見える。


 つまり旧文明の『血』、旧文明の『記憶』、そして旧文明の『言語』が揃わなければ、脳波認証は突破できず超科学文明への道は開かない。

 俺は唯一その全てを持つ存在。

 同時におそらく現代を、かつての俺や家族、友人や同僚達、その先祖や子供達が紡いで来た科学文明の歴史があった事をただ一人知る人間。


 イレギュラー的に生まれた、全て滅び去った科学文明の存在を知るの最後の人間なのだ。








『――【楽園】の居住区へ行かれますか?』


 しばらく静かに哀愁、望郷、使命感、決意と様々な考えに思いを巡らせたあと、ふと無機質にアナウンスが語りかけた。


「……ああ。行こう。科学文明の最後の一人である神崎真一として。そして騎士ハレルド・シンとして」


 不思議と恐怖や戸惑いは消えていた。


 このアナウンスの話からすればもう文明を継承できる者は誰もいない。

 フェリペも俺に『妹と幼馴染みは可愛がってやる』と言っていた。やつは他国の協力を得て恐らく王や第一王子たち、そして姫様をも殺しこの国の王になる気なのだ。


 ならば生きねば。

 かつての文明を知る唯一の現代人として。また俺を裏切った男から残してきた二人と家族、そして国を守る騎士として。


 生きてこの文明を繋ぎ、彼らを救いにいかねばならない。俺は、空腹と喉の渇きを癒すべく光を発する台へと足を踏み入れた。




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