1-12 伯爵領の惨劇
【ダノン伯爵】
「――生きているか、ボージャン」
ワシは隣で馬に揺られる男に声を掛けた。
返答はない。
ただ静かに雪だけが降り続いている。積もる様な雪ではないがそれが徐々に体力を奪う。
「……ボージャン!」
体力を振り絞り声を荒げると男が反応したのが分かった。
「すみません……主に警戒を委ねる時点で護衛失格です」
「交互に仮眠を取ると言う話だったろう。お前は何日寝てないんだ。二人しかいないのだから仕方ない」
そうフォローするとボージャンは頭を下げる。
会話もなくしばらく森の中を進む。もう西の伯爵領は近い。
「……リュウセラ家の倅は無事だろうか」
ふと途中で逸れてしまった同じ魔族の男を思い出した。
かつて王国に逃れた魔族を束ね匿っているのはワシと彼の血筋だった。その当主であった父親も死に、息子も生死不明。
「彼らはきっと北へ逃げたと思います」
「それは」
西や東ならともかく希望のない話だ。
「おそらく死んでいると思います。あそこからは死雪山脈へしか逃げ道はなく、大した装備もなく死の山に入れば……三日と持たないでしょう」
「……彼はリュウセラ家唯一の倅なんだぞ。父親のハイネは我々を逃す為に捨て石となったのに、彼までもが死ねば」
「伯爵、我々とて明日は我が身です。食料も最早ない。追っ手は振り切りましたが、もし敵と遭遇すればもう逃げ切れもしません」
装備はボロボロ。
馬は疲弊し死に掛けている。護衛はボージャンただ一人。彼も不眠不休でようやく仮眠が取れた状況だ。
「そうだな……すまん」
「いえ、自分も言葉が過ぎました。……ただもし彼らが森の中で追手をやり過ごせていれば、死の山に入らず伯爵領へ別ルートから向かっているかもしれません」
「そうだな。せめて祈ろう、彼が生きてこちらに向かっている事を」
「もしかしたら先に着いているかもしれませんよ」
二人で笑いそれっきり会話は途切れた。
――そんな事は絶対に有り得ない。
分かっている。どれだけ幻想染みた希望的な観測か。
彼らを追っていたのは山賊の様な風体のフェリペ王子直属の部隊。
悪名高い追撃兵。それが半数が女子供である彼らを取り逃がすはずがない。
――死の山に入ったら最後、彼らも数多の人間が辿ったのと同じ運命を辿るだろう。
けれどそうでも言わなければ、ワシらは正気を保てない。
そうやって希望に縋りながらでなければ前へと進む事も出来ないのだ。
「おいっ、あんたら大丈夫か!?」
それから半日程度して突然、山師と出くわした。
「すまんが……ここは何処だ」
満身創痍のボージャンが尋ねる。
「伯都の近くにある村の裏山です」
「ああ、そうか。シジ村か」
「ご存知なのですか?」
「ああ、村に連れて行ってくれないか? 遭難してしまったらしい」
「え、ええ。商人の方ですか?」
「ああ。崖崩れにあったんだ。我々と荷物以外は全滅した」
そう話すと男はえらく同情的になり村に案内してくれた。
そこで干し肉と白湯を貰うと疲れからそのまま倒れそうになった。
しかしそんな時間はない。
「ボージャン。村人はワシの顔が分かっとらん。ならばこのまま正体を隠して都に入る。都に既に間者が潜んでいる可能性も高いからな。そこでまずワシの倅である代官と逢う」
「分かりました」
その後、我々は至急荷物を届ける必要があると言い山師の男に都まで案内して貰う。
「商人殿、こちらです」
伯爵領の中心にして、魔族達がその住民のほぼ全てである西の都に着く。
「門番を通して倅と連絡を取ろう」
「分かりました」
けれど門番は見た事のない男に変わっていた。
なんでも兵士達は食料の確保に手一杯で、臨時で市民が駄賃で代行しているらしい。
――なんだそれは。それ程までに酷いのか。
事実、門番の件もそうだが都市の中も浮浪者で溢れ、食料もロクに食べられないのか痩せ細った者達ばかりだ。
「冬の食料がもう尽き掛けているのか」
「百年近くも降らなかった雪のせいで、冬に収穫を見込んでいた芋もないのです。この国の何処で暴動が起きてもおかしくありませんよ」
山師の男に連れられて自分の都を歩いているのに、まるで別世界に来た気にさせられる。これで国庫から大量の食料が他国に売り捌かれていると言うのだ。
――王国は本当に大丈夫なのか?
もはや正体が発覚した以上、関係ない話かもしれない。
しかし神人類以外からすれば我らが魔族と言っても実感すらないだろう。彼らが破滅する姿を見たいと思わなかった。
ただ道の反対側から芋や麦らしきものを抱えた者達が段々と現れた事に気づく。
「……なぁ、彼らはなぜ食料を持っている?」
「さぁ? みんな広場から来てますね。行ってみますか?」
「ああ……」
ワシとボージャン、そして山師の男は流れに逆らい都の中心である広場に入る。かなりの数の人間達が集まっていた。
周りの者達はみな嬉しそうな顔をしている。
「良かったな、これでまともな食事にありつける」
「子供達にご飯を食べさせられるわ。本当に代官様様よ」
代官様?
ワシの倅がやっているのか?
ボージャンを見ると彼は頷き、近くの男に声を掛けた。
「すまんが、今来たところなのだがこれは一体なんだ?」
「ん? それが代官様の要請で王都の国庫から大量の食料が運ばれてきたらしい。今ちょうど配給が行われてるんだ」
――王都?
ボージャンを見ると彼も緊張した顔でこちらを見た。王都からの食料配給など有り得はしない。
「皆の者、慌てるな。まだまだある。それを持ち帰り必ず全員に行き渡らせるのだぞ」
声をする方を見る。くすんだ金髪に国のエンブレムが入った赤いマント。
やたら派手な金縁のメガネを掛けた男が広場のお立ち台の上にいた。
「馬鹿な……なぜあの御方が?」
ここにいるはずのない――ベルゴ王家の第一王子、ベルゴ・ティーチ様だ。
なぜ第一王子がこんな場所で……。
「これからは毎日食料を配給するのだ。神人類であらせられる我ら王家に感謝する様に」
住民達が歓喜の声を上げる。
正体は魔族である者達が殆どだが空腹の前には相手が誰であろうと関係ないのだろう。
「さぁ追加もあるぞ! ちゃんと残り全員に行き渡るだけ用意した。好きに喰うがいい」
さらにスープが入っているらしき鍋が幾つも出てくる。確かに全員が今日食べる分には困らないだろう。
「ありがとうございます、これで子供が飢えずにすみます!」
「助かった! このままじゃ家族みんな死んじまうとこだった!」
暖かいスープに住民達が嬉々として集まろうとする。
ワシはボージャンを見た。彼の考えは手に取る様に分かる。
「――行け。ワシが注意を逸らす。その間に確かめてこい」
「しかし護衛は……」
「もしワシらの考えが正しければ、このままでは取り返しのつかない事になる。行けっ!」
――有り得ないのだ。こんな辺境に王子が、しかも食料の配給など。
わずかに躊躇したあとボージャンはすぐさま人混みに消えた。
それを見送りしばらくしたあとワシは力の限り叫んだ。
「待たれよティーチ殿! 代官様は、代官様は何処におられる!」
周りの人間が一斉にワシを見る。
配給をしているテントの連中や王子もこちらに注意が逸れる。
「ん? なんだご老体……代官は今、運搬者の代表と城にて会談中で忙しい。それとも何か、配給はいらないと申すか?」
その言葉に住民達がこちらに文句のありそうな顔で見る。
「おいやめろ爺さん! お前のせいで――え?」
近い男がワシを咎めようとするが、ローブから覗いた顔を見て固まる。
きっとワシのことを知っていたのだろう。
「ではなぜこの都市だけ配給されるのだ? 他の都市にこの様な配給はなかった!」
「っ……違う! 各都市にも行う。だが時間の問題で遅れているだけだッ。――貴様、たかだか下民の分際でこうして私が表に立って指示をしてやっているのに、その言い草は許さんぞ!」
「勝手にすればいい。それより各都市に配給? 国庫には今、他国の商人が食料を買い漁りむしろ尽き掛けていると言うのにか!?」
ハレルド・シン追放後、権力を手にした第三王子フェリペの手で国の食料庫は瞬く間に消えている。
それをこんな辺境に配っている余裕など絶対にない。
「爺、その話どこで――」
「っ!? おいなんだ貴様は!? それに触るな!!」
その時、食料配給の準備をしていたテントが騒がしくなる。
ボージャンがやったか?
「っ――やはりハイドラのか! このクソ野郎どもが!!」
「やめろ貴様ッ!? その男を捕まえろ!!」
テントが倒れ騒ぎ立つ中、抜け出したボージャンが民衆の前に現れるとビンを地面に叩きつける。
――ジュゥゥゥゥゥッッ。
地面に流れた液体がそんな音を立て緑がかった異様な煙を上げる。
「毒だ! これはハイドラ種の毒だ! コイツらは食料の中に遅効性の毒が入れてやがる!!」
「ちっ、違う! それは……薬だ! 決して食料に混ぜてなどいない!」
広場が立ち所に騒然となる。
兵士達が必死に否定するも混乱は大きくなっていく。
「どっ、毒!?」
「配給に毒が入ってるのか!?」
「嘘だ……王家がそんなことする訳ないっ」
「俺も子供も、もう食っちまったぞ!?」
やがて広場は大混乱となりボージャンもその隙きに民衆に紛れ込むのが見えた。
その様子を見た王子は冷静に、むしろつまらなそうに吐き捨てる。
「――チッ。あの騎士は確か伯爵家の手だれ……そうかご老体。お前はこの領の主、ダノン伯爵か!」
王子の言葉に民衆の注意が再びワシに戻った。ローブを取り王子を睨み返す。
「そうだ! 神人類は我らを毒で皆殺しにする気だな!?」
ワシの言葉に広場の人間達にどよめきが起きる。
「……ああ。それが一番楽だったからな。まぁいいさ。致死量には届かんがある程度は喰わせた――おいっ、ハイドラを起こせ! 毒を『目覚め』させるんだ!」
「ハっ! おい召喚術師達、やつを起こせ!」
ハイドラの毒。
それは魔術的な特性の強いかなり異端な毒だ。
薄めれば食事に混ざっても気付かない。しかもその毒は体内に入っても刺激物ではあるが無毒に近い。
ではなぜ毒であるかというと……。
――KYRRRRRRRRRR。
甲高い音が鳴り響く。ハイドラの声を真似た魔導具。
同族の声に縄張り意識の高いハイドラは敵意と共に目覚める。すなわち。
「――うっ!? うぐっ、がはっ!?」
「っ……な、なん……おごっ!? ぐっ、ぐるじっ!?」
何人かの住民達が倒れ、顔の色が変わる程に苦しみのたうち回る。
女も子供も老人も関係ない。何人もの人間が目を血走らせ、喉と腹を掻き毟る。
「ひっ!? ユリハっ、しっかりするんだユリハっ!?」
「毒だ! 本当に毒が入っていたんだっ!?」
毒はハイドラが目覚めている間しか、力を発揮しない。
さらには本体が近くにいる上に、取り込んだ者の魔力が低いという条件でしか、致死性にならない特殊なもの。
けれど……。
「だっ、だすげ――ごええええええッ!?」
「マっ、ママぁぁ……いだ……ぐるじ……っ」
空腹から大量に喰った者達は断末魔やら嗚咽やらを上げ、毒と消化物の混じった液体を撒き散らし倒れる。
それが広場の少なくない場所で起きる。
全てではない。けれど大多数の者達が死には至らないが苦しみ膝を突く。
「なんてことを――っ!!」
「フフッ。魔力の多い貴族や騎士、兵士なんかの暗殺には向かないが、貴様らの様な『害虫』を駆除するのにはちょうど良いだろう?」
「王子、やはり貴様は知って――」
「そうさ! 貴様らこの都市にいる者が魔族! 人間の皮を被った薄汚い害虫であると、今やこの国の人間は皆知っている!」
その言葉に苦しむ住民達が信じられないと王子を見て、縋る様にワシを見た。
「まっ、待ってくれ伯爵!? ならまさか王子達は本当に俺達を――」
「そうだっ! 王国の神人類はワシらをこの都市ごと根絶やしにするつもりだっ!」
恐怖に染まる住民達の顔。
それを見て何が面白いのか王子が笑う。
「ははっ。本当はもっと手早く駆除する予定だったが、なかなか口を割らなくてなぁ。面倒だからまとめて殺す事にした。どうやら正解だったようだが……いやぁ、父上が必ず助けに来る! 貴様らは地獄に落ちる! とか喚いて頑張っていたぞ? せっかくだ、返してやろう」
ティーチは一度、垂れ幕に手を入れると何かを広間に向け無造作に放り投げた。
「まさか」
他でもない――苦悶と憎悪に歪んだ最愛の息子の生首であった。
「――ティーチ貴様ァァァァィッ!」
「ふははははっ、さぁ兵共! 予定より早いが駆除を始めるぞッ!」
奴が真っ赤なマントを翻して騎士達の後ろに消える。
直後に爆発が起きる。
町中や広間に火の手が上がった。
さらに民衆に紛れ込んでいた数人の者達が剣を抜き、苦しむ周りの者達を次々と斬り殺していく。
「あらかじめ兵も火薬も仕込んでいたのか……ッ!」
燃え盛る炎と断末魔。広場以外も含めこの都市の各地で地獄が始まった。群集の中の誰かが叫ぶ。
「逃げろ」
毒にのたうち苦しむ者。
炎に生きたまま焼かれる者。
兵士にその剣で蹂躙される者。
「みんな逃げろおおおお!!」
突然、地獄に堕とされた住民達がパニックとなり叫びながら一斉に騎士のいない西門へ駆け出す。
「待てっ! 罠だ! 落ち着くんだ!? ――っ、あれは」
この都市の入り口は二つ。
東と西。
ワシらが来た東門を見るとその奥には巨大な四速歩行の魔物。その背には飾りと籠。動きは遅いが王族等の拠点代わりに使われる移動式本陣だ。
その足元の荒野には千を越える兵士達。
――いつの間にあんな数っ、いや、あれが主力か!?
一方で逆の西門への道だけが無防備に開けられている。その先には何もないのが見える。
だが間違いなく罠。見落としな訳がない。
けれどそれを理解していない。理解していたとしても、そこにしか逃げ場はない群集はそちらに走り出す。
「ダメだ! そちらに――」
――ビュンと、風きり音がする。
と同時にぐっと後ろに引かれた。顔の前を矢が霞めると逃げる老女の頭に矢が突き刺さった。
「っ、ボージャン!」
「逃げますっ! ここは危険です」
老女の容態を確認する暇もなく人混みとボージャンに引き摺られる。
「止まれボージャン! 彼らを止めねば! あの西門の先には!」
「もはや無理です!! 生き残る事だけ考えて下さい!」
「しかし――!」
――KYRRRRR。
だがワシの願いは最悪の形で叶う。鳴き声と共に騒いでいた人々が一瞬で沈黙する。民に紛れ切り殺していた兵士でさえその凶行を止める。
腹の底から冷える様な怖気が襲う。
先程の笛よりもおぞましく、まるで鳥の鳴き声の様に愛らしい甲高い声が都市に反響する。
だがそれは間違いない最悪の化物の声。
ふと、沈黙と共に人の波も止まる。
誰も彼もが硬直している。彼らの見ている方へとワシとボージャンもゆっくりと振り返る。
――扇の影。
城の様に巨大な花の様に天へと伸び広がる漆黒の影が西門にいた。影に映るは八つの頭と赤眼。
――KYRRRRR。
黒いモヤで身体を覆った八首の蛇が鳴き餌である我らを見た。
『常夜のハイドラ』
巨大な八首の蛇ハイドラ。
その中でも知らぬ者はいない、常夜を纏う変異種。かつて三つの都市の人間を喰い尽くした悪魔。いつの間に神人類はあれを手懐けたのかそれが視線の先にいた。
絶望の化身が我らを前に舌を舐めずる。
――KYRRRRR。
直感的な死の理解。
恐怖で誰も動けない。八つの頭が我らを肉としか見ていないのは明白。けれどそれを知ってなお足は動かないのだ。
――やめろ。
声が出ない。
迫る扇の影が西門へと逃げ出していた魔族達を包み込む。
――やめろ。
何度叫んでも声が出ない。無意識に自分の足に忍ばせていたナイフを突き刺す。
痛みで体がようやく声帯が動く。
「や……やめろおおおおおおおお!!」
だが遅い。
――KYRRRRRUUUUUUUUUU!!
晩餐が始まる。
餌である恐怖で動けない魔族を生きたまま捕食すべく悪魔は八つの口を開き。
『――虫にすら劣る悪漢共が』
彼らを捕食する直前……天より吐き捨てる様な声が轟いた。
「ぇ?」
直後、細い光の柱が立つ。
まるで天から流れる川の様なそれは常夜の悪魔をピタリと合わさり――。
『撃滅せよッッ!!』
――KYRRRRRRRRRRGUUUUU!?!?
カッと光り輝く。
大気が轟く。
あまりの眩しさと風圧に誰もが顔を背けた直後、生暖かい風と爆発した様な轟音が唸る。
「っ!? なんだっ! なにがおき――なっ!?」
視線を戻すと悪魔が溶けていた。
身体に纏う常夜は稲光に薙ぎ払われ、体はマグマの如く赤に染まり瞬く間に常夜は崩れ落ちた。
即死。城ほどの巨体を持つ悪魔が一瞬で滅せられた。
『伯爵領にいる全魔族に告ぐ』
「っ!?」
言葉を失っている暇もなく空から降る声の正体をワシらは見た。
船だ。
巨大な軍船が呪いの様な黒天を切り開き降臨する。
「…………馬鹿な……夢でも見てるのか」
空を行く巨大軍船。超常の光景を目の当たりにした我らは、ただ燃え朽ちた悪魔の頭上に現れた軍船を見上げる他にない。
その間にも男の声が再びもたらされる。
『聞け、魔族達よ』
同時に王国兵、魔族、全ての者達が見上げる空に、黒く長い特徴的なコートとエンジ色のスーツを着て、顔の上半分を白い仮面で隠す男が現れる。
「な、なんだ!?」
「人が空に現れたぞ!」
男が仮面の隙間から見える目を見開き誰よりも轟く声で叫んだ。
『我らは改竄された歴史の修正者、名を桜花史伝騎士団。
諸君を簒奪者の魔の手より救うため馳せ参じた。……我ら桜花が来たからにはこれ以上、何人足りとも死なせやしないッッ!!』
状況を理解できた者はおそらくいない。
けれどその言葉は浸透する。
なぜか皆の感情が、心臓が、熱気が言葉だけで揺り動かされたのが分かった。
それはまるで使徒の御力――ベルゴ王家の持つあの特異な魔術の様に、白面の男の声は都市に強く共鳴した。