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冤罪で死の山へ追放されたけど、なんか文明的に大変なものを見つけてしまった  作者: 光彦 マイナスドライバー 仮設トイレ 澪 ハギス 神戸天皇杯優勝おめでとう
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1-11 大和の血

リュウセラ・ロウとハレルド・シンの邂逅シーンに戻ります。


 

【リュウセラ・ロウ】


 天変地異。


 雪山にいたと思えば島に、島にいたと思えば漆黒の部屋に、理解も把握もする暇もなく世界が変化して我らは王を名乗る男の前に引きずり出された。


 しかしカンザキ シンイチと名乗った柱の上に立ち、こちらを見下ろす仮面の男は間違いなくハレルド・シン本人。


「――」


 言葉すら出ない。何が起きたのか分からない。

 どうやった? なにをした? これは幻想か?

 だが彼らやあの鋼鉄の兵達はまさしく目の前に存在し――。


「神前でございます…………平伏せ」


「え――なッ!?」


 七つの柱のうちの一つに立つ、黒い騎士らしき正装をした鉄仮面をつける金髪の女が命じた瞬間、全身に押し潰される様な圧力が掛かった。


 ――なっ、なんだこの圧力!?


 重い。

 何も触れていないにも関わらず私を含め全員がその場に倒れた。

 まるで見えない手に押さえつけられるかの様な重さ。


 杖は持っていない。魔術ではない。なんだこの力は。彼らは言葉一つで我々を掌握できるのかっ?


「軍曹。やめて差し上げろ」


「――失礼致しました、陛下」


 一番高い柱の上に座る男が彼女を止めた。すると途端に体が軽くなる。


「あらためて二日ぶりだなリュウセラ卿。仮面の認識阻害は発動させていないから声や風体で分ると思うが?」


「っ……貴方は……これはっ」


 穏やかな気遣う様な声を掛けたのは他でもない。一番高い柱の上に立つ黒尽くめの仮面の男。


「……本当にハレルド、シン殿なのか?」


「如何にも。王国での顔はハレルド・シン……またの名を神埼真一。この秘密国家である大和、その国主だ」


 嘘か誠か。

 眼の前の仮面の人物は自分を秘密国家大和その国主であると名乗りあげた。


 ――秘密国家とは如何なる形態の国家か。

 ――大和などという国はこの大陸に存在しない。

 ――我々はいったい何処に連れて来られたのか。

 ――彼らは我々をどうするつもりか。


 いくつもの疑問が浮かんでは消える。

 分かるのはただ、眼の前の彼らが理解不能な何ならかの強大な力を有する事だけ。


「リュウセラ卿。まずは無事で何よりだ。食事は問題なく食べれたか?」

「っ!」


 かけられた言葉に頭を殴られた気がした。


 眼の前の彼らは確かに正体不明、目的不明。魔族でもない。

 だが命の恩人に他ならないのだ。


「っ、この度は命を救って頂いただけでなく、食事に寝床まで与えて下さり感謝の言葉もございません」


「助けを求められた。私はそれに応えただけだ」


 簡単に言う。

 けれどそれを平然と成せる者こそが真の強者といえよう。

 だからこそ、聞かねばならない。


「……正直に申しまして我々は混乱しております。ここまで起きた奇跡の数々、聞いた事のない国家、そしてもう一つの名前……あなた様方はいったい、何者であらせられるのですか?」


「先も言った様に我らは秘密国家大和。そして私はその国主。大和とはかつて失われた、この身に流れる血の祖先達が作り上げた国家、その礎となった始まりの国。その存在意義は大和の血が流れる臣民を救い、保護し、その敵を討ち果たす事にある」


 臣民を救い保護する? ならば大和の血とは一体なんだ? 王国民の事か?


「それにそもそもここは北国などではないぞ。ましてや大陸ですらない」


 彼が手を上げる。

 直後、地面が消え上空にいた。


「なっ、落ち――!」


「案じるな。それは映像、まやかしだ……今諸君らが見ているのが、我々がいる場所を上空から見た景色だ」


 島だ。

 いくつもの島が集まっている。諸島と言った方が正しい。


「これはメガフロートと呼ばれる、人間の手で作られた移動可能な人工の島だ。今もこの場所は大陸の東の海を回遊している」


 作った? この巨大な島々を?

 ……人間が作った移動可能な島。そんなものが存在している時点で世界が引っくり返る。こんな未知の技術を所有しているのは――。


 思わず頭を上げて彼を見た。


「気づいたか」


 そうだ。

 やはりこの御方、いやこの男は間違いない。


「し、神人類……」


「如何にも。そして俺は旧文明こと現大陸をかつて支配した国家日本、その正当なる末裔である神崎真一である」


 全てに合点がいく。

 この超常の力の数々、それはこの大陸の正当なる支配者である神人類ならば可能なのかもしれない。


 その目的は臣民の救出と保護、そして敵を討つこと。


 つまり彼の言う敵とは――我々、魔族。


 身体が一瞬震える。

 悟られない様に顔を下げる。もし、今我々の正体が露見したら確実に……。

 けれど彼の無情なる一言が放たれた。


「そう、君たち『魔族』と呼ばれる存在の敵――」


 その言葉が終わるより早く、背後で何人かが立ち上がったのが分かる。


「お逃げ下さい坊っちゃん!!」

「おいッ、やめろ!? やめるんだ!」


 生き残った魔族の男達が剣を抜き俺の前に躍り出ると、すぐさま壁となる。


「ここは命に変えても俺達が――」

「――およしなさい」


 が、あの鉄仮面の女が踵を鳴らした瞬間、鋼鉄の巨人が数十体音もなく空から現れる。


「ぐっ――!?」


 瞬時に狂いなく彼らに何らかの武器と思わしき巨大な筒が、四方から突き付けられた。動けば死ぬ。それが嫌と言う程に分る。


「ッ、ベンソン!?」

「失礼遊ばせ。玩具をただ置いただけですわ。まだ王のお話は終わっておりませんゆえ」


 ――勝てない。


 指一本で制圧されたのだ。全員の心が絶望感に囚われる。

 それでも抗わねば我々は殺される。男達は武器を向けられ震えながらも剣を持ち、女達は後ろで子供達を守る。


「……軍曹、彼らを下げてくれ」

「イエスマイロード」


 その言葉で巨人達が一歩下がる。


「――勘違いしないでくれ。話の途中だ。こちらは諸君らに危害を加える気はないし、その気ならそもそも雪山で見捨てている」


 緊張の中で全員がハレルド・シンを見た。


「むしろ卿に聞きたい。魔族は神人類の敵とは言うが……果たして敵とは何だ? リュウセラ卿。魔族は神人類の敵と呼ばれているが、なぜその様な関係になったと思う?」


 問われた私は膝が震えぬ様に立ち上がり彼を見上げる。

 周囲を囲む巨大な鋼鉄の兵たちと中央で我々を見下ろす王。恐怖で足が震えた。答え方一つで、ここにいる全員の命が消える。

 それでも怖気づく訳にはいかない。


「……神人類にとって、我々はかつて争った相手です。だから許せないのではないですか? だから我々は神人類から狙われ」


「本当に? 一度敵対したから、未だに許せないと? 勝ったのは神人類なのに? 逆に聞くがかつての君達は神人類にとって正しく脅威だったのか?」


「――え?」


「この大陸を支配する神人類が見つけ次第に殺す程の脅威が、果たして君達にかつてあったと? それも弱小となった今になっても、念入りに殺し続ける程の?」


「そ、それは」


「断言しよう――ない。君達はたかだか角が生えているだけの人間である」


 ――。

 言葉を失う。物言いは悪いが眼の前の男は今、我々を人と呼んだのだ。正体を知られた上で人として扱われたのは初めてだった。


「なのになぜ神人類はこんなにも君達を敵視し殺そうとする?」


「っ……」


 今度は言葉に詰まる。


 ――ただ角があるだけのに、なぜ神人類様たちは僕らを害虫と呼びこんなにも憎まれるの?


 それはまさに私もずっと疑問に思っていた事だから。

 異常なまでの嫌悪。魔族は存在が罪と言わんばかりに迫害する理由。それは父ですら知らなかった。つまり――誰もその理由を知らないのだ。


「答えられないか。ではもし、逆だったとしたら?」


「逆?」


「この大陸を支配する神人類の方が、本当は偽者の人間であったとしたら?」


「は?」


 今この男はなんと言った?

 周りの者達もあまりにも不遜かつぶっ飛んだ言葉に、武器を構える事も忘れ彼を見た。


「この大陸を支配しているのがもし、外から来た偽りの神人類だったとして逆に――君達が消えたはずの本当の文明の末裔だとしたら?」


 ――い、意味が分からない。


 考えたことすらない話だ。世界は神人類を中心に回っている。我々は人と違い角がある。

 なのに彼らこそが偽りで、迫害され粛清されようとしている我らこそが、本物だと。そもそも本物と偽者とはなんだ?


「フィーネ」

「はい」


 彼が名を呼ぶと離れたいた中から、一人の少女が出てくる。

 見間違いようのない、ここまで協力して逃げてきたフィーネ嬢その人である。


「リュウセラ卿。お久しぶりですね」


「……ご無事でしたか」


「はい。全ての事情は兄さん、いえ陛下から聞きました。ゆえに私もあなた方に白状しなければならない事があります」


 白状?


「あなた方には最後まで告げませんでしたが、実は私も本当は魔族なのです」


 そう言って彼女は黒い長い髪をどかし、その隠れた角の根を見せた。


「なっ、まさか王国に我々以外にも魔族がいたのか!?」


「はい。ただ私とあなた方で立場が異なっていたのです。ですが同じ魔族。フェリペに狙われ正体が露見したあなた方の王都脱出をお手伝いしたのはその為です」


「なら最初から言って下されば!」


「かもしれませんが、私の一族は使命がありました。それは本物の神人類様をお守りし付き従うこと」


「本物の神人類を守り、つき従う?」


「兄さんの祖先である大和の血族。それこそが本物の神人類様なのです。そしてその血は我々魔族にも流れている」


「――ぇ」

「なに、を」


 その衝撃的な言葉に全員がたじろいだ。それに捕捉する様にシン殿が口を開く。


「私に角はないがな。けれど私の祖先である本物の神人類と、君達やフィーネの様な魔族は元を辿ると同じ国、大和の人間なのだ」


 思わずベンソンと顔を見合わせる。

 そんな話はかつて聞いた事がない。父も伯爵もそんな話は知らない。

 ましてや本物の神人類に大和の血。いくらなんでも突然そんな事を言われても混乱しかない。

 しかし。


「……卿。私も君達と同じなんだよ」


「え?」


「私の祖先である大和王家も、その血族が治める正しき歴史も、かつての君達と同じく偽りの神人類、簒奪者達によって改竄され、奪われ、根絶やしにされたのだ。私はその血を継ぐおそらく最後の一人」


 息を呑まされた。

 その声色は本物の哀しみと憤りに満ちている。真実ならば彼も我々と同じく神人類によって狙われ続けている立場。

 しかも彼の場合、我々と違い本当に最後の一人。


 ――だからなのか?


 同時に腑に落ちる。

 恩寵魔術を使った姿を見ている以上、彼が追放されたのは冤罪だ。王家がそれを見抜けなかったとは思えない。つまり王家はシン殿を疑い意図的に殺そうとしていた可能性が高い。


「あなたは、本当に」


 彼は我々と同じく虐げられた存在なのか?


 だが……だとしたらなんだ。

 全ては遅すぎた。

 今更なにを言うのか。我々がその正当なる歴史の民、大和の血だと言われても、我々は人間の出来損ない。かつて愚かにも神に挑み破れた敗戦国の――。


「リュウセラ卿。いや、臣民よ」


 臣民。

 そう呼ばれた事で顔を上げる。


「私が諸君らをここに呼び、島の全容を見せ秘密国家大和の名を伝え、さらには私の生い立ちを含む全てを明かしたのは諸君らに礼を言いたかったからだ」


「なにを」


 同時に彼が頭を下げた。


「王っ!?」

「おやめ下さい!!」


 他の者達が悲壮な声を上げる中、彼は頭を下げたまま続ける。


「大和の王として、そして同じ大和民族の生き残りとして、君達に会えたことに感謝する。ありがとう、私の元まで失われた大和の血を繋いできてくれて。私を守る臣民もいない虚空の王にしないでくれて。ここまで生きていてくれて――ありがとう」


 愕然とした。

 感謝など今まで生きてきて我らが聞いた事のない世界の言葉だった。


『生きていてくれて、ありがとう』


 耳に残った言葉が甦る。目頭が熱くなった。

 誰もが我々を虐げ、誰からも求められない中、それでも幾多の犠牲と辛酸の上に繋いだ我らの血脈を心から喜ぶ男がいたのだ。


「ありがとう。君達がいなければあの簒奪者共に歴史を修正され、大和の血は滅ぼされていた。もはやこの世界にその血は私だけだったかもしれない。――けれどっ、ここにいる私の部下である彼らが失われた文明を繋いでくれた様にッ! 今度は君達がその血を繋いでくれたのだ!!

 お陰で大和は滅亡しなかった。亡国とはならなかった。王として今まで数千年と続いたその大切な血を繋いでくれて、生きていてくれて、同じ血を持つ生き残りとして誇りに思う!」


 身体が震えた。


 大和の滅亡。

 そんなものは知らない国の事かもしれない。その血が今更自分に流れている等言われても困惑しかない。

 ……けれど迫害され続けて数百年。私達は初めて誰かに受け入れられた。その事実に理屈もなくただ、救われた気がした。


「いや……本当に……我々は――ただ――ずっと生きていてはいけない者達だと、人間の出来損ないの、害虫だと……」


「違うッ! 断じて違う! そんなものは征服者たちの刷り込んだ偽りの価値観だッ! 二度と自らを害虫などと貶めてはいけないッ!

 生きていい!

 なり損ねなんかじゃない!

 君たちは誰よりも平和を愛し、数千年の文明を紡いだ誇り高い大和の民なのだ!!

 誇れ! この文明を築き上げた己に流れる大和の血を誇るのだっ!

 その気高さは大和の歴史を知るこの神崎真一の名の下に保証する!!」


 “生きて次へと繋ぐのだ、ロウ”


 言葉が出ない。視界が霞む。


「っ……」


 ベンソンすら困惑していた。

 分っている。彼の言葉には何の保証もない。全てが嘘。罠かもしれない。


 けれどそんな何の保障も信頼のない言葉が――嬉しかったのだ。


 心から、どうしようもない程に嬉しかったのだ。

 この虐げられ息を潜める様に、虫けらの様に生きてきた我ら一族がやっと、やっと報われた気がしてしまったのだ。

 それ程までに今の言葉に私は救われてしまった。


「ぼっ、ちゃん……ですがそれでも」

「分っているベンソン。大丈夫。それに」


 ――しかしこれが真実であったとしても、もう遅いのだ。


 今、王国西部に隠れ潜む魔族達には王国軍が迫っている。例え今の彼の話がすべて真実でもそれを救う術はもはやない。


「ありがとうございます。その言葉を聞けただけで我らは本物です…………ですがっ! もう遅いのです。既に我らの同胞の拠点は王国軍に知れました。もはや残された者達も滅ぼされる運命に――」


「――否だッ! それを阻止する為に俺は立ち上がったのだッ!!」


「っ!?」


 絶望を否定する力強い言葉だった。

 まるで心を鼓舞する様な、駆り立てる様な、不思議な熱さが込み上げる。


「リュウセラ卿、いや大和の臣民よ。再び諸君らに名乗ろう!」


 さらに一歩前に出た事で仰ぎ奉る様な存在感が放たれる。


「我らは秘密国家大和ッ!

 その目的はただ一つ!

 桜花煌く旗の下、魔族と生き残った旧文明の人間を庇護下におき、偽り歴史を作り上げた簒奪者を討ち果たし……そして必ずや失われた国と血筋、文明を奪還する者達なりッッ!!」


『Yes, My Lord!』


 王の言葉に周囲の者達も敬礼をする。


「刮目せよ、大和の臣民よ!


 我ら大和数千年の歴史は諸君らの味方である!

 その紡がれた力を以て如何なる悪意もこの我らが討ち果たすッ! もはや隠れ潜むこともなしッ! 己の存在を卑下することもなしッ! 偽りの神人類を恐れることすら無用ッ!

 その為に彼らは千年の時を待ち続け、私は千年の時を超えてこの世界に蘇ったのだッ!!」


 言葉一つ一つに感情が湧き上がる。頬を流れるものがある。拳は自然と握られる。

 彼こそが本物だと理屈でもなく、ただその血が理解した。

 この御方なのだ。この御方こそ、我らを導きその命を捧げるべき本物の王なのだ。


「卿よッ! いるのだろう、今この瞬間にも危機に瀕する大和の民が!?」


「っ」


「告げよ! さすれば千年の歴史が作り上げた大和の叡智を以って全員救い出すまで!」


 無意識だった。

 口が勝手に開いた。頭を地べたにつけ、願いを乞う様に。


「ならば……」


 すべてを吐き出した。


「ならばどうか罪無き同胞達をお救い下さいませッ! このままでは自らに流れる血の意味も知らず、無残に殺される運命にある同胞達がいるのです! どうか西に残された我々の数千人の家族をお救い下ざいまぜ!!」


 涙でまともな言葉にならない私の陳情を聞くと王は他の柱の者達へと叫ぶ。


「――軍曹ッ!」


「ハッ」


「敵勢力制圧可能な戦力は如何に!」


「一言やれと命じて頂ければ国一つ消し飛ばしてご覧に入れましょう」


「工場長ッ! 支援機及び供給可能な武器の配備は!」


「千人に対して武器及びドローンでのバックアップが可能でさぁ!」


「ドクターッ! 救護者への薬や医療の準備は!」


「問題ない。この名に賭けて万事抜かりなく」


「秘書ッ! 臣民の場所までの移動と時間は!」


「転移場所がありませんゆえ飛行艇を出撃させます。すぐにでも飛び立てます」


「諸君、良い仕事だ……ならば秘密国家大和の盟主たる神崎真一が総員に命ずる。

 桜花史伝騎士団よ!

 西の臣民達をその手で救いこの大陸に桜花の名を示す――出陣だッ!!」


 ――全て王の御心のままにッ!!


 鋼鉄の兵と生身の人間達が敬礼と共に応え、同時に背後から光が差し込む。


「外の光っ!?」

「眩しい!」


 背後の壁が上下へと開閉されていく。灯りがあるとはいえ薄暗い空間を太陽が照らし出す。そこで我々がいた場所が見た事もないくらい、鉄と光で覆われた摩訶不思議な空間だと分る。


『改造空母 蒼鷲。出るぞ!』


 男の声と共に背後に見える光景そのものが動き出す。遅れてそれが先程、我々に王が足元で見せた者と同じだと気付く。

 直後、その景色は崖に向かい落ちる寸前――空へと舞い上がった。


「――」

「――」


 飛んでいた。

 何が起きているのかまたしても理解できないまま、景色が空へと上がっていく。

 まるで夢でも見ているかの様な状況に私やベンソン、同胞達はただ呆然とする他になかった。


「無論、卿にも多少なり手伝って貰うぞ」

「……えっ」


 そしていつの間にか柱が下がっており、眼の前に仮面を被った王がいた。彼は先程と打って変わって口元を綻ばせると、すれ違いざまに私の肩を叩いた。


「安心しろ。――ハレルド・シンの名に賭けてこっから先は大和の血は何人足りとも流させやしねぇ」


 振り返ると黒いジャケットコートを靡かせ、他の者達と共に外の景色が映し出される場所へと進む彼の背中が見える。


 その姿はまさに、雪山で私の叫びに応え現れてくれた英雄そのものだった。




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