1-1 死の山の奥地には何故か日本語の案内がありました
一話は微妙にヘイト。二話は説明。だいたい主人公が本気出して無双し始めるのは六話からになります。
また人物名は西洋風ですが順番が異なり苗字 名前の順になってます。
「ハレルド・シン、貴様を宝玉を盗んだ大罪により永久追放とする!」
その日、俺の人生は終わった。
北の王国、ベルゴ。
その王城の謁見場にて押さえつけられる俺は、周りに有力貴族達が立ち並び御座より王が見下ろす中、死罪に等しい宣告を受ける。
「お待ち下さい宰相閣下! 私は決して宝玉を盗んだのではありません! この力は幼少の頃より持ち合わせていた――」
それでも俺は必死に訴える。
これは冤罪なのだと。全て仕組まれていたと。例えどれだけ叫んでも覆らない状況でも、身近な者には知っていてほしかったから。
けれど宰相はそれを一蹴する。
「戯言を抜かすな! 恩寵魔術は王族、すなわち神人類にのみ扱える神聖な力。それを王族の血を引いていない貴様が使えたのは、盗んだ宝玉の力であろう!?」
「違うのです! 誓ってそんな事はありません!」
「では貴様の屋敷にある地下室から見つかった盗まれた宝玉はどう説明する! なにより恩寵魔術を再現する機会を与えられたにも関わらず、それができなかったではないか。それこそ宝玉を使い奇跡を起こした事の動かぬ証拠であろう!」
「屋敷で見つかった宝玉は本当に何も知らないのです! 再現の機会も何者かに魔術を封殺されたのでございます! 十日、いや、七日後にもう一度だけチャンスを! そうすれば再び魔術が使え――」
「愚か者が! 貴様は再現の機会を与えた公爵、そして涙を流し友である貴様を断罪した王子をも侮辱する気か! もうよい、貴様のこれまでの功績に免じて斬首にはしないが、二度とこの地に戻る事を許さん! ――この愚か者を死雪山脈へ追放せよ!!」
それを合図に俺は騎士達に身体を持ち上げられ謁見場から連れ出される。
「宝玉を盗むなんて恐れ多い。王家、ひいては偉大なる神人類様への敵対。なんと罪深い」
「恐ろしくなかったのかしら? もしかしてあの男、神人類様の敵である魔族なんじゃ」
「ありえるぞ。実はな、最近辺境の村が丸々魔族だった事が分かって討伐隊が組まれたらしい」
「まさかっ。ならばなぜ宰相はあの男を拷問に掛けないっ!?」
周りの貴族からは憐憫、侮蔑、好奇心と様々な視線を向けられる。中には人を神人類の敵である魔族などと好き勝手に言う者達もいた。
「兄さん……っ!」
「どうしてアンタが……なんでっ……なんでよ!?」
一方、参列していた中にいた妹のフィーネと幼馴染のリリスが悲壮な声を漏らしてこちらを見ていた。
しかしそれに応える事も出来ない。
「…………ああ、どうしてお前はこんな事を」
ただ、その後ろで同じく悲壮な声を絞り出した男の口元が、一瞬嗤ったのを俺は見逃さなかった。
間違いようのない俺の親友。
そう、俺が一人で思い込んでいた相手。
――お前は騙されていた事も気付かない間抜けなんだよ。
俺の無実を証明する機会に魔術の発動を阻害させる杖を渡した張本人。盗まれた宝玉が見つかった俺の隠し地下室を、唯一知っていた人物。
俺を裏切った男、第三王子フェリペ。
「……」
そしてもう一人関わったであろう老人もいた。
東の公爵。再現の為の仕組まれた舞台を用意した張本人。
彼は一瞥もしなければ俺の事を見もしなかった。それが逆に俺の中でヤツの関与が確信に変わる。
そしてこれが全て冤罪だと知っているだろう王様が立ち上がり命じる。
「皆の者、良く見ておけ! これが王家の恩寵魔術を盗みし罪人、魔族に匹敵する許し難き者の末路だ!」
こうして俺の人生は終わる。
言いようのない無力感に打ちのめされながら俺は家族と幼馴染、友人たちを残し、罪人として雪に閉ざされた山脈へと連れて行かれる。
――なぜこんな事になってしまった。
……全ての始まりは王家にのみ伝わる恩寵魔術を封じた宝玉の盗難事件だった。
宝玉とは恩寵魔術を封じ込めた、王族不在の際に使用される国宝である。これが盗まれた事が発覚した際には、大変な騒ぎとなり騎士見習いである俺も駆り出された。
神人類の力を欲する他国の陰謀か?
国を滅ぼされた魔族達の生き残りの仕業か?
ただ当時は義憤を抱きながらも、何処か他人事の様に感じていたのを覚えている。
宝玉があれば確かに誰でも恩寵魔術は使える。それは本来、王族のみが持つ事を許された力であり、一度使えば立ち所に重傷者も治す人外の力がある。
しかし。
――幼少の頃より俺にはそれと同等の回復魔術が備わっていたから。
それを知った父には、厳重に二度と使ってはならないと釘を刺された。以来俺はずっとその力を隠し生きてきた。
だがそれも姫様が賊に襲われるまでの話。
同じ騎士であり、同時にお仕えすべき王族でもあった姫様が襲撃され重症を負った際、どうしてもあの力を使う以外に救う手立てがなく、俺は迂闊にも衆人環視の中で使ってしまった。
それがこの結果だ。
やはり俺が使ったのは通常の回復魔術ではなく、紛れもなく王家にも継承される恩寵魔術だったらしい。これがなぜ俺に使えたのか分からない。
しかし恩寵魔術こそ王家、ひいては神人類の血が流れている証。
ましてや今現在、その尊い血がなくとも使用可能な宝玉が盗まれている。話は立ち所に拡散し、俺に嫌疑の目が向けられ実演の機会を与えられた。
そこで宝玉なしに再現できれば全ては収まっただろう。けれど。
『シン、この杖を使え。公爵がお前の杖に細工をしたらしい』
第三王子フェリペ。
俺の親友であり付添人として、その再現に立ち会った男はそういって俺に別の杖を与えた。
実際に俺の杖を使ってみると本当に魔力が通らなくなっていた。魔術に杖は必要不可欠。あの時、俺は何の疑いもなくその杖を受け取った。
「すまない。お前のお陰で助かった」
心から感謝した。もし知らずに使っていたら大変な事になっていただろう。俺は舞台に上がり、己の潔白を証明しようとする。
『皆の者、静かに。これよりハレルド・シンの審問を始める』
舞台を用意した東の公爵が手をあげる。
観客は一斉に静かになり、重症者が運ばれてきた。なんでも鉱山で落石事故に巻き込まれた男らしい。
『お願いします! どうかっ、どうか主人をお救い下さい!』
隣にはその妻が縋り付いている。
「分かりました。お任せ下さい」
そう伝えると彼女は何度も『ありがとうございます! ありがとうございます!』と泣きながら頭を下げる。
『では始め給え』
公爵に促され俺は恩寵魔術を発動させる。
杖に魔力を宿し、それを相手に流し込む。
『おおっ!』
『これは!?』
重傷者の身体が光る。
そうして彼の身体が治っていく。
「――え?」
……はずが、光はそこで消えた。
魔力が霧散したのだ。杖が魔力を受け止めてくれないのだ。これでは俺の魔術は発動しない。
なぜ?
どうして?
今までできていたはずなのに。そんな思いとは裏腹に用意された重傷者は一向に回復しない。
「お、おかしい」
俺は必死に魔術を掛ける。だが光はするが治せない。
『そんなっ……どうして、治らないのですか! 主人は助からないのですか!?』
やがて俺の魔術が効果を発揮しない事に気付き患者の妻が叫ぶ。それに合わせて周囲も段々と騒がしくなる。まさか、やっばり、本当に……そんな言葉が躍りだす。
「ま、待って下さい。出来るはずなんです。今までも出来ていたんですっ」
そして思い当たる。
きっとこの杖が合わないのだ。
公爵はフェリペが用意してくれたこの杖にも工作をしていたのだろう。
フェリペ、別な杖を――そう縋る思いで親友を見た。
――え?
だが彼は、いやヤツはその瞬間、おぞましい笑みを浮かべた。そして立ち上がり叫ぶ。
『これ以上は、私も黙っていられません……この男は、ハレルド・シンは本当は恩寵魔術など使えないのです!』
衝撃の告白に観衆の視線がヤツに一身に集まる。
『このベルゴの子であるフェリペがここに告発します! ハレルド・シンこそが宝玉を盗んだ罪人であると! その証拠に私はこの男が有する隠し部屋から、この宝玉が見つかったのです!』
そうして掲げられた盗まれた宝玉。
驚愕し騒然となる観衆。騎士達が慌てふためき、俺の親しい者たちでさえ、俺を信じられないと言った顔で見た。
『私は悲しい! 親友だと思っていたこの男は私を、ひいては国を裏切り王家に取り入ろうとしていた! よりにも寄ってこの男は、この再現の際に私に対し、杖に工作をしろと持ち掛けてきたのです!』
裏工作をしようとしていた暴露。
それは人々の義憤に火をつける。その中心たるヤツは涙を流し悔しそうに訴える。
『聞けば、我が妹を襲った賊とこの男は繋がっていたと言う! 全ては王家に取り入る為のこの男の自作自演! そして隣国と協力し次の王座に私をつけてやると持ち掛けてきました! それを聞かされて来た時は本当に悔しかった……やるせなかった! 親友だと思っていた男が、私の妹に重症を負わせ、全て己を利用する為に繋がっていたなんて! 私は賊を引き込んだ王家の恥さらしだったのです!? けれど王家に連なる者として、これ以上は許しておけない! ゆえに私はここにこの男の罪を告発します! それが親友と信じていた男であったとしても!!』
感動の演説。
友に裏切られ、利用され、それでも王家として泣く泣く断罪を道を選んだ王子の物語。
なんだ、これは。
フェリペは何を言っている。
姫様を襲わせた賊とはなんだ。
なんでお前はそんな蔑んだ目で俺を見る。
お前は俺の……。
「フェリペ――」
親友の当然の言葉にただ混乱する俺に、気付くとやつが眼の前にいて、俺から杖を奪いながら耳打ちした。
『……待てシン。実はこれはな、お前を守る為にわざと』
そう優しい音色で言った後。
『――などと言うとでも思ったか? ここは王家が用意した恩寵魔術を持つお前を排除する為の舞台なんだよ。俺にずっと騙されていた事も気付かない間抜けめ。ああ、だが安心しろ。俺は全てを利用してでもお前を踏み台にして王位を得る。そしてゴミ共を殺しこの国の王となる。その時、お前の妹と幼馴染も俺が代わりにたっぷり可愛がってやるよ』
そう悪辣に嗤った。
「お前、まさかこの国を乗っ取る気じゃ――」
『さぁ、この男を捕らえなさい! 全ての罪を暴き立てるのです!』
直後、呆然とする俺は騎士達に取り押さえられた。
一瞬、怒りで抵抗しようともしたが、俺はいつの間にか魔力を乱す薬を盛られたらしく、魔術すら使えなくなっていた。
こうして俺は罪人として裁かれ死雪山脈――雪が決して止むことのない死の山への追放が決まったのだ。
――俺はどうすれば良かったのか。あの時、フェリペに襲い掛かれば? それとも姫を見捨てれば良かったのか?
それは騎士である事に誇りを持っていた俺自身を否定するもの。
ではどうすれば良かったのか。答えも出ず、真の目的を明かし俺を追い落とした親友も恨めず、ただ俺は虚空を見つめるしかなかった。
「ついたぞ。あとは自由だ」
それから六日後。
俺は目隠しをされたまま馬車から降ろされ雪の中で開放された。
目を開けると方角も分からない銀世界だった。
「ハレルド・シン。もし仮にお前が再び、こちら側に来ようとしたら俺達はお前を斬り殺す」
「……はい」
死雪山脈は王国のある南方面に行かない限り、西も東も北も全て雪山だ。その先はない。追放とは名ばかりの自然の処刑場である。
「……最後に本来なら私の後輩騎士になるはずだったお前に一つ言っておく。ここから真っ直ぐ進むと洞窟がある。運が良ければ助かるかもしれん」
驚き振り返ると、その騎士は既に馬車に乗り込んでいた。
「…………伯爵家の坊っちゃん騎士など道楽かと思っていたが、姫を救ったお前は間違いなく、立派な騎士だったよ」
彼はそう言うと馬車の扉を閉める際、さり気なく小さな枝の様な物を落とした。
杖だ。小さい子供の練習用の。
俺はそれを馬車の中にいる他の騎士にバレないように即座に抱え込んだ。
「……ご忠告、ありがとうございます」
「構わん。もう会うことはないだろう」
やがて馬車は雪の中に消えて見えなくなった。残っていたソリとなっている馬車の移動跡さえ消える。
白銀に俺一人。
だが不思議と活力は湧いた。
「……死んで、たまるか」
ヤツはあのとき俺に『妹と幼馴染みは俺が代わりに可愛がってやるよ』と。確かにそういった。このままでは俺の両親も貴族として潰されるかもしれない。
ならば生きて必ず戻らねば。家族と幼馴染みを守る為にも。
俺は杖を握りしめて、洞窟がある北へと雪の中を歩き始めた。
――半日か。一日か。ニ日か。或いはもっとか。太陽が雲で見えず、永遠に雪が降り注ぐ銀世界を俺は彷徨い歩いていた。
身体は冷え切り手足の感覚がない。手足の指が無くなっていないのは、鍛えた身体と全身に行き渡らせている魔力のお陰だろう。ただ、それも時間の問題。
死。
もはやそれ以外に考えが浮かばない。無意識に全身はガタガタと震え、意識が飛びかける。
けれど進むしかない。
自然と頭に浮かぶのは妹や幼馴染、父上や母上。そして仕える主と騎士学校の友人たちの顔。
幸せだった。
神人類である王族の力で雪が降らないベルゴ王国だが、決して豊かでもない。むしろ資源が限られるゆえに、貴族の懐事情も戦も厳しいものだ。
けれど父や母、妹に愛され、幼馴染とも切磋琢磨し友人たちとも出会えた。生涯、お仕えしようという主も見出だせた。
俺は確かに幸せだった。
なのに。
なのに俺がアイツの本性を見抜けなかったばっかりに。俺が安易に魔術を使った為に――。
「………………ぁぁ」
かすれた声が出た。
気づくと、眼の前に暗い暗い洞窟があった。
ここが最後の場所。
ゆっくりと、震える身体を引きずって洞窟を進む。
どうやら六日間移動している間に魔力を阻害する毒は消えたらしく、指くらいの短さの杖を使い魔術を灯す。
それを頼りに少しでも暖かい場所を探して一歩一歩確実に進む。
だが魔力は既に重症化した手足の凍傷を治しただけでかなり消費してしまった。残り少ない分は灯り以外に使えないだろう。
せめて暖かい場所さえあれば何とかなる。食料でもいい。
この先に何かしら生きる為の可能性があれば俺はまだ。
――カシャン。
しばらくして足が何かを踏み付け、砕いた。
「…………人、骨」
それは人の残滓。
地面を照らす。すると周りには何人かの骨があった。
どれも目立った欠損はない。皆等しく綺麗である。そしてここが、この洞窟の行き止まりだった。
ここが終着点。
「……………」
さらに踏んだ骨が餓死者達だと気付いた瞬間、俺の心は萎んだ。
――そうか。
皆、同じなのだ。
彼らも同じく国に追放され、ここに迷い込み、食料も暖もなく衰弱して死んだのだ。
「…………はは。はははは」
笑えた。散らばっている彼らが自分の未来なのだと分かったから。
周りを見ても死体が持っているのは服装やナイフだけ。中には宝石を大事そうに持つ者もいた。
この空洞には他に何もない。
あとはただ、壁にこの中の誰かが書いた遺言であろう、見た事もない解読不能な文字が書かれるのみ。
「ちくしょう……」
涙が込み上げた。外はいずれ吹雪く。戻っても殺される。先はひたすらに雪。生き物も食べ物もない不毛の地。
自然と寒さと空腹で膝から崩れ、仰向けに倒れた。
ぼんやりとする意識。見上げると誰かの遺言であろう壁の文字が目に入った。
不思議な言語である。見た事もない。
けれど俺と同じ境遇の誰かの残した、最後の言葉なのだろう。
「これは、どんな思いなのだろうな…………恨みか……嘆きか……或いは懺悔か……」
思わず考えない様にしていた怒りが込み上げてくる。
“この盗人が!”
“魔族なんじゃないの?”
“だからお前は俺にずっと騙されていた事も気付かない間抜けなんだよ”
俺がいったい何をしたと言うのか。
お前はずっとそんな風に俺のことを見下していたのか。
なぜ騎士としても役に立たず家も残せず、こんな所で死ななくてはならないのか。
王国はこれからどうなってしまうのだろう。奴のバックには他国がいる。このままフェリペの手に落ちてしまうのか。
堪えていた涙が、行き場のないやるせなさが俺の心から溢れ出してくる。
「すまないっ……父上、母上……フィーネ、リリス……俺があんな男を信じたばかりに! 俺が迂闊だったばかりに!」
届きはしない。そんな言葉をここでいくら吐いても誰にも届かない。
だからこそ壁に残った誰かの言葉を見た。
少しでも誰かの心に触れたくて、読めもしない文字をゆっくりと追う。
「………………………アジア」
気付くとそう口に出し。
「アジア……北方部……第12区……地下基地……南エレベーター…………」
そう自然と読めていた。
――ああ、ここはアジアだったんだ。
それは十七年ベルゴ王国で生きてきて初めて知った事実だった。
しかもまさか剣と魔術の世界でエレベーターなんて物があったのは驚きである。
こんな時に何を考えているのだか。
俺は悔しさと辛さと情けなさを呑み込み、そんな事を思う自分に苦笑しながら、最後に静かに目をを閉じ……。
……。
……。
……。
――は?
直後、あまりの意味の分からなさに死に掛けていた意識がフル覚醒した。
「は? ……え?」
寒さも疲れも吹っ飛んで、這うようにして起き上がり書かれた文字を見た。
「あ、アジア? 北方部、第12区、地下基地、南…………エレベーターァ???」
もう一度、見る。何度でも見る。
しかしやはり目の前の文字は生まれてこの方、一度も見た事もないはずの文字だった。
アジア北方部第12区地下基地南エレベーター。
でも読める。すらすら読める。意味まで分かる。
そして気付く。
「――これ日本語だわ」
その瞬間、俺は思い出した。
前世の記憶、日本人として生きた半生を全て思い出した。
同時に。
『日本人の生存者を確認。地下転移装置と降下エレベーターを可動。ゲートを展開します』
無機質な音声、それも日本語が聞こえた。
直後、目の前の壁だと思っていた物が左右に分かれて開き、SFの様な通路が現れる。まるで最新鋭の秘密基地。
「……………」
吹き付ける暖房の効いた暖かな風。言葉が出ない俺に、無機質な天の声が掛かった。
『――お帰りなさいませ。アジア北方部第12区地下基地へ』