前
冷蔵庫を開けて聞く。
「何飲む?」
「・・・・・・。」
「ウーロンでいい?」
「・・・」
「ウーロンでいい?」
「・・・ん~・・・」
取り敢えず返事は返ってきたけど、いつものこと。どうせ聞いてない。
出そうになるため息をグッと堪え、冷蔵庫からウーロン茶を出し、グラスを持ってテーブルまで運んだ。
「この間ね───」
いつものように最近合ったことや友達のこと、どこそこのお店が美味しかったとか、思い付いたことを止めどなく話していく。
「・・・へー。」
時折思い出したように呟かれる返事が、聞かれても無い話に添えられる。それもいつものこと。
何度注意しても止めやしないから、もう注意するのも止めた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
話すのを止めれば部屋に広がる沈黙。
溶けた氷がカランと響いた。
ウーロン茶の入ったグラスの汗をぼんやりと眺めた。
『二番目でもかまわないから。』
断られたけど、どうしても諦められなくて、好きな人がいると言う彼にそう言った。
私を好きにさせてみせるって自信があったから。
あの時の私は、根拠のない自信に溢れてた。今思えば恥ずかしい以外の何でもない。
私を見てほしくて、好きになってほしくて、いろいろしたり言ってみたり。でも結局は・・・結局は・・・・・・・
時だけが過ぎていく。
彼の心だけ置き去りにして。
スマホをいじり始めたら、私の話なんて聞きもしない。
ねぇ、LINEの相手が誰だか気付いてないと思ってるの?
気付かれても構わないと、そう思ってるから続けてるの?
口許に笑みが浮かんでるから、きっと何か良い話でもあったんだろう。
「・・・・・・ピエロ」
「ん?」
スマホを置いた彼が不思議そうに私を見る。
「何でもない。」
冷えたウーロン茶を一気に飲めば顔が歪む。
「ハハッ、一気に飲むからキーンてなったんだろ。」
「・・・まぁね。そろそろ帰ろっかな。」
送ろうと立ち上がった彼を制止し、何となくギュッと抱きついた。
「おう、どうした?」
見上げれば、どことなく優しげな微笑みとキスのプレゼント。
どうやら余程嬉しいことがあったらしい。素敵な大人のあの人だから、きっとグッとくるようなことを言ったんだろうね。
いったいどんな言葉を貴方にくれたの?・・・貴方を喜ばせることが私にも出来たら、私のこと少しは好きになってくれてたのかな?
「まだ明るいし送ってくれなくて大丈夫。」
「気をつけて帰れよ。」
「うん。」
玄関先で見送ってくれてる彼に、何となく微笑む。
いつもの決まり文句の、またねって言おうとしてやっぱり止めた。
「さよなら。」
別れ際、今まで一度もさよならって言ったこと無いって、貴方は気付いてるだろうか。