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第5話 妹喰いシスコ

 次の日の朝────

 妹を迎えての最初の日が始まった。最高の一日になりそうだ。

 そう思った矢先、不運なことが早速起きてしまった。金縛りだ、これ。身体の身動きが上手く出来ない。

 いや、違う。俺の身体の上には何か重いものが身体の上に何かが乗っかっているんだ。

 ………お、重い。

 俺の頭は柔らかい何かによって挟まれていた。なんだ、これ。

 俺は手でそれを掴む。相も変わらず柔らかい。

 ……あれ? もしかしたらこれラノベとかアニメでありがちな朝起きたらくんずほぐれつ状態みたいな、そう言う事なのでは?

 つまりこれは七罪(なつみ)の…………いややめよう。兄として妹にこういう感情を抱くのが良くないと言うことは分かっている。

 分かってはいるが柔らかいそれを掴む俺の手が離されることはなかった。

 柔らかいそれはただ柔らかいだけじゃない。ほどよい柔らかさと言うかなんと言うか。

 とにかく俺はそれを揉みまくった。俺の理性はとっくのとうになくなっていた。

 すると女神兼俺の妹、七罪の声が聞こえた。声は何故か自分の下腹部のあたりから聞こえる。


「んむにゃ……………はっ! ちょっとお兄さんどこ触ってるんですか!?」


 そう言って七罪は足を引っ込めた。

 そう、さっきまで俺が触れていたのは太ももで俺の頭は足に挟まれていたのだ。

 決して胸ではない。その辺は俺でも流石に弁えてるからさ。残念なんてぜんぜん、これっぽっちも思ってない。


「太ももだけど」


「何ですかその俺何か悪いことしましたかみたいな無垢な顔は!」


「一緒に寝ようって言ったのは七罪の方だろ? それより七罪の寝相の方に俺はツッコミを入れたい」


「神聖な女神の太ももに触れておいてその言い草はなんですか! 寝ようとは言いましたがそういう場所に触れて良いなんて一言も言ってませんよ! お兄さんには絶対に天罰下りますから!」


「妹のいる今、俺は無敵だぜ? 神の裁きも全く恐ろしくないな」


「はー、言いましたね。それならこうです」


 七罪は俺の額に向けて人差し指を向けた。

 ま、まさか本当に女神の力で俺に天罰とやらを下すのでは。いや具体的に何が出来るのかは全く分かんないけど。


「えいっ」


 七罪の指が弾かれ俺の額に当たる。要するにデコピンだ。正直なところ全く痛くはなかった。


「これが今の私に出来る最大威力の攻撃です。どうです? 恐れ入りました?」


「ぐぁッ!」


 俺はベッドから転げ落ちて床に身を投げ出した。

 七罪は床に倒れる俺の肩に触れて健気にも安否を確認した。


「えっ、えっ。私そんなに強くやってないんですけど」


「俺の負けだ、七罪よ。お前は可愛すぎる」


「な、何言ってるんですか突然」


「覚悟しろ七罪、俺は毎日のように、いや毎秒のように可愛いと言い続けるぞ」


「どうぞお好きに」


 俺は可愛いを連呼し始めた。しかし、二十回くらい言ったあたりで七罪が俺の口を両手で押さえてしまった。


「ちょ、ちょっとやっぱやめてください。今までそんなこと言われたことないので、なんかすごく恥ずかしいです」


「嘘だろ、こんなに可愛いのに」


「だから恥ずかしいからやめてって………まぁいいです。そもそも今までこんな話せる相手がいなかったものですから」


「なるほどな。女神の世界でぼっちだったってことか」


「ち、違いますよ。私の役柄上、仕方なかったんです。お兄さんと一緒にしないでください」


「う、うるせぇな。俺だって友達の一人や二人くらい………」


「お兄さんのことは何でも知ってるので私に何言っても無駄ですよ」


「くっ……。そうだよ俺は所詮友達が少ないマンだよ。でも今は妹がいる。だからもう何にも苦しくないんだ分かったか!?」


「いや、私に力説されましても………。それよりいいんですか、学校いかなくても。そろそろいつもの時間では?」


「ああ、そうだった。うーん………でも、もういいかなぁ、学校行かなくて。お前がいる時点で人生の目標達成できてるみたいなもんだし……。このまま家でいちゃいちゃしてようぜ」


「だ、だめだこの人………改心するどころか尚更ダメ人間になってる……。ダメですって学校いかないと! ほら、私も一緒に学校通いますから!」


「それほんとか!?」


 俺は七罪の両手を握った。七罪は少し驚いた顔をした後に口を開いた。


「ほんとですよ。女神に不可能はありません。あなたの憧れだった妹と学校に登校することも出来ますし」


「そう言うことなら早く言ってくれよ!」


 俺は服を脱いで椅子の背に乱暴にかけられた制服へと着替えていく。


「ってお前の制服はどうすんだ? 女子の制服なんて流石の俺も持ってないぞ」


「持ってたら怖いですよ……。ふふん、あなたに授けた能力、《創妹ソロル》のことをもう忘れてしまったんですか?」


「えっ、あれって嘘じゃなかったのか?」


「嘘じゃないですよ。少し改変して違うことを言ったかもしれませんが。おさらいのためにもう一度言っておくと《創妹ソロル》は『妹をどんな姿にも出来る能力』でってちょっと何勝手に能力使ってるんですか!」


「ほんとだ。俺が考えるだけで七罪の服が変わってくなすげぇ」


 七罪の服が俺の考えた通りに切り替わっていく。切り替わる一瞬だけ、微かな光を放っていた。

 彼シャツ、メイド服、ウェディングドレス、チャイナ服、猫耳メイド服、スク水、そしてビキニアーマー。


「ちょっ、ちょっと」


 俺の想像力の限り無限に変えられるのか。

 これは所謂チート能力ってやつなのでは? 破壊力とかは一切ないけど妹をさらに可愛くできるなんて俺の理想が叶ったみたいな能力だ。

 俺は悶死してしまいそうになるのをぐっと堪えて、


「死ぬほど可愛い」


「も、もう、早く制服くださいって。女神の私もさすがに怒りますよ」


「ごめんごめん」


 俺が制服をイメージすると七罪は仄かな光を一瞬だけ帯びて、俺が瞬きをした後には制服を身にまとっていた。


「妹に嫌われたくないからな。今後は勝手に使わないようにするよ」


「まぁ、誰もいないところなら自由に使ってもらってもいいですけど。公共の場でいきなり水着にするとかほんとやめて下さいよ」


「分かってるって。あっ」


 俺がそれをイメージしてしまったからか七罪は水着姿となってしまった。今度はスク水じゃなくてかなり際どいやつだ。隠れるべき場所だけが隠れてる、みたいな。

 七罪は身体を腕で隠して座り込んだ。そして俺を睨みつけるように見上げて、


「ちょっとほんとに嫌いになりますよお兄さん!」


「ごめんって! 考えたらつい……」


 七罪の服はもう一度制服姿に戻った。


「その“つい”が暴発したら私お外出られませんからね!」


「大丈夫大丈夫。もうコントロールしたから」


 妹に対する煩悩まみれの俺だったら毎秒七罪の服が変わってもおかしくないけど、いまはそんな事もない。頭で能力を使おうと思わなきゃ大丈夫みたいだ。


「信じてますからね、まったく……」


「信じてくれ。お前の色んな姿を他のやつに見られたくないからな」


「はいはい。で、学校行くんですよね?」


「行くって。知ってると思うけど俺が家出るの家族で一番最後だから普通に玄関から出て大丈夫だと思う。サタ兄が家にいるけど昼までは起きないだろうし」


「すぐバレると思いますけどね。私の存在」


「絶対に隠し通してみせる。俺だけの妹なんだ。あっ、これフラグじゃないぞ」


「知らないですよ。さっ、早く朝ごはん食べて学校行きましょ」


「そうだな………って時間やばいじゃん! なんで俺こんな悠長にしてたんだ!」


「だから言ったじゃないですか。ほら、行きますよ」


 七罪に背中を押された俺は鞄を片手に部屋の扉を慎重に開けて、ゆっくりと階下へ向かった。

 やっぱり誰もいないな。

 七罪と目配せをしてから居間でトーストを二枚手にして、おもむろに玄関から出る。ミッションコンプリート。七罪に一枚トーストを手渡す。


「多分サタ兄のぶんだけど、まぁ大丈夫だろ」


「私は知りませんからねー」


 七罪はトーストを口にくわえて、服を整える。

 妹の制服姿、改めて見ると本当に可愛い。可愛すぎる。やばい。


 妹と登校するなんて、夢みたいだ。


 俺は自分の頬を指でつねって、夢か現実かを一応確認する。痛い。

 この痛さが俺に妹が出来たという証明になる。幸せだ、ほんとに。

 俺は妹と共に学校への道を歩き始めた。

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