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第4話 あっ……女神さまっ………?



「……………すまん、七罪(なつみ)。違かったら違うと言ってくれ。……………お前、女神なんじゃないか?」


「えっ、女神? なに言ってんのお兄ちゃん。そんなわけないでしょ〜」


 妹の七罪はほんの一瞬だけ、意表を突かれたような表情をした。

 それを俺は見逃さなかった。


「やっぱりそうだ……。仕草がさっきの女神と全く同じなんだよ、お前」


「…………っ」


 そう言って七罪は作り上げた笑顔をやめて、吃驚したような素の表情を見せる。


「………人の顔色ばかり伺ってたからな。人のちょっとした仕草を覚えるのは自信があるんだ」


 俺はそう言い終わってから天井から垂れ下がる縄の輪を掴み、それに首を突っ込む。


「お前も俺を騙すんだな………やっぱり死のう.......どうせ俺には生きてる価値なんて………」


「ちょちょちょ待ってよお兄ちゃん! いや、待ってください、お兄さん!!」


 七罪、もとい女神は俺の肩を掴んで縄から引っ張りだそうとする。非力な俺は力負けしてベッドに背中から倒れ込んだ。


「……もういいんだ、俺にはどうせ妹なんていない。能力とか何とかも俺を嘲るための嘘だったんだろ? 俺に妹はいない、そういう運命なんだ。どうでもいいんだもう何もかもが………」


「いるじゃないですか、妹なら、ここに」


「………だから、お前は俺を嘲笑うがために欺いてたってわけだろ?」


「いちいち変な言い回しなのは触れないでおくとして………。違います。私はきちんとあなたの妹になりにここにいるんです」


「……………あ?」


「察しが悪いですね。少し回りくどくなりましたし、予想外の展開が起きちゃいましたけど、女神直々にあなたの妹になると、そう言ってるんです」


「お前が、本当に俺の妹になってくれるのか……?」


「ち、近いですね……。だからそうだと言ってるでしょう」


 俺は手を震わせながら、その場で立ち尽くした。


「や、やっぱり嫌でしたか………?」


 七罪はこちらを上目遣いで見上げた。くっそ、可愛いなおい。


「…………嫌なわけないだろ。どんな形であれ、妹は妹だ」


「そ、そうですか。少し安心しました。………えっと、お兄さん、別にあなたに嫌がらせしたくてこんなことしたわけじゃないんですよ」


「じゃあ、何だってこんなことをしたんだよ...」


「そ、そ、それは…………あ、あなたに喜んで欲しくって…………」


「えっ? 何だって?」


「だ、だから…………いや……もういいです、とにかく私はあなたの妹なので………」


「俺に喜んで欲しいってどういうことだよ」


「いや聞こえてるじゃないですか! 難聴のフリやめてくださいよ!」


「ハッ、あいにく俺は主人公でもなんでもないんでな。聴覚はめちゃくちゃ良い方だ」


 フィクションの主人公には基本妹がいる。

 妹がいないやつは主人公にはなれないんだ。


「私が女神だと見破るのももっと後半の方で『こ、こいつあの時の女神だったのか』みたいになるのを予想して頑張ったのに………調子狂っちゃいますよ、もう」


「………で、喜んで欲しいって?」


「だ、だから、あなたを幸せにするために私、女神は存在していると最初に言ったじゃないですか。そういうことです」


「まぁ、その辺はどうでもいいや」


「聞いておいてその態度ですか!? ベルフェゴール……お兄さん!」


「……なぁ、ほんとにお前は俺の妹になってくれるんだよな?」


「何度もそう言ってるじゃないですか。そういうことです。これからあなたが死ぬまでずっと妹です」


「……これ夢じゃない、よな?」


「夢じゃありません。現実ですよ。えっと、女神の存在が現実的かどうかはこの際気にしないで下さい……ってちょっと何泣いてるんですか?」


 そう言われてようやく気付く。俺の頬を涙が伝ってたんだ。


「な、泣いてねぇよ! この涙は、その、尿漏れだよ!」


「いやもうその言い訳は意味がわかんないですから! ………全く、大袈裟ですね」


「だって本当に妹が出来たんだぜ? こんなに嬉しいことが他にあるかよ……!」


 俺は感極まって大きな声でそれを口に出してしまった。案の定、兄のいる部屋を挟んだ壁が叩かれる。


「うっせぇつってんだろベル!! 寝言は寝て言え!! いや寝ても言うな!! あとエロゲはイヤホンしてやれ!!」


 妹の声をエロゲのボイスか何かと勘違いしているようだ。エロゲをやってると思われたのは非常に心外だがバレなくて良かった。


「ご、ごめんって、サタ兄」


「ふふっ」


 七罪はまたしても口に手を当てて笑った。


「……笑うなって」


「相変わらず面白いご兄弟ですね」


「面白くはねぇよ。ていうか、お前が俺の兄弟のこと知ってたのも女神だからだったんだな」


「そういうことになりますね」


「ま、妹がいれば、それ以外何だっていいけど。あと、お前は俺だけの妹だからな。サタ兄とか、クソ兄の妹では断じてないぞ」


「はいはい、分かってますって」


 七罪は呆れたように肩を竦めた。


「それじゃあ、そろそろ私も眠くなってきたので、今度こそ一緒に寝ましょうか」


「そうだな。よいしょっと」


 俺はベッドに横たわり、その後に七罪が隣にきた。お互いが向かい合うように寝っ転がる。


「さっきとはえらく反応が違いますね」


「あれ、確かに、なんでだろ」


「何か癪に障りました。口調変えます。……お兄ちゃん、大好き〜」


「あ〜可愛い可愛いよしよしよし。おやすみ、七罪」


「なんなんですかこの人。女神の私をこんな扱いした人間はいませんよ、まったく」


「今はもう女神じゃなくて俺の妹なんだから。ほら、もう寝ようぜ」


「そ、そうですね、おやすみなさい。お兄さん」




 この日、妹のいなかった俺に女神のような、いや女神の妹が出来た。



 ああ、言い忘れていたがこれは、


 妹のいない俺が妹を愛するだけの、


 ただそれだけの物語だ。

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