第四十二話 挫折を繰り返した果ての結末(1月10日)
優子の勤務する会社は、会社閉鎖の最終日を迎えることになる。優子は、3社受けた採用試験も全滅で、会社閉鎖最終日にロッカーを片付けていたときに、総務部長が事務所で呼でたと言われ、手を止めて事務所に向かった。優子が事務所に入ると、総務部長がちょっと「部長室に来なさい」といわれた。
「失礼します」と部長室に入ると部長が、優子に話しがあるから、そこのソファーにかけなさいと言われた。「はい」と返事してソファーにかける優子。
優子すまないな。最終日の忙しい時に悪かったな。でも優子には、大事な話だから。
俺も部長として最後の仕事だ。単刀直入に話すぞ。優子就職先は、決まったか?
私ですか?3社受けて、全部不採用で、再就職先はまだ決まっていませんよ。それは、部長も分っていたのではないですか?
優子の就職先1社あるのだけど、どうする?働いてみる気持ちはあるか?先方はOKだから、お前次第だ。初出社は、2週間後だ。どうする?
え?部長ほんとですか?就職先あるのですか?私次第ですか?試験も何もないのですか?その会社とは?
ちょっと落ち着け。実は、お前が最後に受けた、会社あるだろ?そこの採用人数が5人だっただろ。それは、覚えているよな?合格した1人が、急に田舎に帰らないといけなくて、欠員が出たそうでな。そこで俺に誰か仕事が出来る職員を1人推薦してくれと言われ、俺は優子が適任と思い話した。そしたら、先方も8年の積重ねたキャリアがあれば、即戦力として是非来て欲しいと言われた。1度は不採用になった会社だが、優子が働く気持ちさえあれば、引き受けると言ってくれているけど、どうする?
部長是非、お願いします。一生懸命働きますから、宜しくお願いしますとお伝え下さい。最終日にこんな話をもらえて私凄く嬉しいです。夢みたいです。
そうか。先方には伝えておく。それともう1ついい報告だ。優子の再就職先は、俺も総務課人事部長で俺も行くからさ。嬉しいだろ?
え?部長がまた再就職先でも、部長?いや~。それは~。ちょっと~。
とってもとっても嬉しい限りですよ。部長。
まったく、調子のいいやつだな。再就職先でも頑張ろうな。それと、由紀も心配して、
俺の所に来てな。なんとか優子の就職先を見つけて欲しいと頼みにきたから、由紀に
も御礼言っておけよ。いい友達持ったな。また新しい職場でも優子と由紀の上司だから。
え?由紀ちゃんが部長に?全然知りませんでした。それに、由紀ちゃんが同じ会社?
別な会社決まっていたはずですけど?
受かったその会社は、断って、俺に泣きついて来た。優子ちゃんとどうしても同じ
会社で働きたいというから、俺が、先方に採用枠意外で交渉してやったのだ。
お前達には、世話がやけるな。これは、優子と由紀に貸しだぞ。新しい会社の仕事で
ちゃんと返してもらわんと。話はいじょうだ。
部長「ありがとうございます」これからも宜しくお願い致します。
私、嬉しくて、嬉しくて。ロッカー整理に戻ります。と話すと事務所を後にする優子。
ロッカーに戻ると、そこには、由紀ちゃんが待っていた。
何も知らないふりをしながら、ロッカーを整理する由紀ちゃん。
由紀ちゃんは、優子を見つけて、部長の話しは何だった?ととぼけた振りをして声を
かけてきた。
優子は、何も言わず、由紀ちゃんの胸に飛び込んだ。由紀ちゃん「ありがとう」私の
為に、部長にまで相談してくれて。優子は、涙が止まらなかった。由紀ちゃんも同じ
会社に?私、もう、びっくりした。でも会社最終日にこんなサプライズ、本当に嬉しい
ありがとうね。由紀ちゃん。
私も優子ちゃんと、同じ職場で仕事が出来るのが、とても嬉しいよ。最終日のギリギリ
に驚かせてしまってごめんね。でも、2人で同じ会社の採用が決まったと私が部長か
ら話されたのも昨日の夕方帰る時でさ!昨日、優子ちゃんに話そうと思ったら、この件
は、部長が、明日俺が優子に直接話すと言ってきかないから。最終日になったのね。
部長に就職先、口聞いて貰ったから、言う事聞かないといけなくて。部長さ結構、
優子ちゃんに気があるようにも見えたよ(笑)だから、私の大事な友達に手を出して
駄目ですよと言ったら、俺をからかうなら、採用取り消しだぞと笑いながら言われた。
再就職は、部長の力が大きかったよ。それと、優子ちゃんの彼を紹介してもらわない
といけないしね。だから、もう涙拭いてロッカー片付けようと話す。
優子は「うん」と頷き、ロッカーの整理も嘘のようにスムーズに進むのである。
こうして、会社最終日に、思わぬ展開となった優子は、障害となるものは、全てクリアーしたのであった。まさか、こんな夢のような出来事が起こるとは、思っていなかった。
会社最後の日に、もう実家戻りか~と半分いじょう諦めの気持ちが、なかっと言ったら嘘になるけど、最後の最後で、就職先が決まるとは、何かテレビドラマのようで、信じられないのである。朝最後の出勤をした時と今の気持ちは、天と地の差で夢をみているような錯覚さえ覚えるのである。こうして、優子は、長年勤務した会社を後にするのである。
後は、新しい会社に行き、1人暮しの新生活。通常高校卒業しての新生活はよく聞くが、10年遅れの新生活にも、凄く新鮮味を感じる優子なのである。これは、きっと、今まで色んな事があったが、優子は、最大の課題をクリアーできたという達成感に満ち溢れていたのである。ここまで来ると、無理が無理でなくなった現実を肌で感じた優子は、直也と寄りを戻せると強く思うのである。
いくら努力しても叶わない事もあるだろう。でも努力して報われる事だけが成功ではないと、優子は感じるのである。ここまで辿り着くまで、何度も、何度も挫折した。でもこの挫折こそが、自分を強くしてきたのである。誰しも、脱線しない線路の上を走りたいもの。でも、優子のように、何度も何度も挫折という線路を走りながら、進んできた人にしかわからない事がある。長い、長いトンネルを抜けた時には、視界が見えないもう吹雪の世界に入るのか、それとも、穏やかなお花畑のような綺麗な景色に遭遇するのか、それはわからない。でも、どんな景色が見えようとも、今の優子には、自分が挫折しながらも、どんな景色にも耐えられる、決して脱線しない強い心のレールがこの時点で引かれていたのである。この達成感は、何度も挫折を経験した優子にしかわからないし、一生の財産と言っても過言ではない。
優子は、無事に引越しも終らせ、1人暮しをスタートする事が出来たのである。再就職先への初出勤は、5日後に迫っていたのである。優子は、直也へ1人暮しをした事を報告しようと考えるのである。
1人暮しをスタートした優子。この時の直也の状況は、仕事では、24歳で副店長の役職を貰い、直也の年齢での抜擢は、過去に例がなく、若き有望な人材評価が会社からなされていた。私生活も既に1人暮しをスタートさせていた。直也のアパート暮らしは、役職がついた事で、毎日仕事が忙しく、寝に帰るだけの住居であった。直也は、優子に出した解決策の1人暮しは、出来ないだろうと、ずっと思っていたし、しばらく優子からも連絡も来ないから、諦めてくれたかな?と思うのである。
この時、直也は、優子が1人暮しをスタートしていることなど、当然知らなかったのである。
再就職先の初出勤を、5日後に控え、優子はやっとアパートに、電話の権利を10万で買って、固定電話をアパートにひいた。今思うと、携帯電話・LINEなど当然存在する訳もなく、この時代に便利な通信手段があったらどんなに、楽だったろうと思うのである。
通信機器の便利な手段がなかった時代の話をしても仕方ないが、やっとの思いで、電話をひいた優子は、今度は、堂々と直也の職場に電話して、直也に会って、この現状を伝えて、直也の返事を貰おうと、行動に移す優子なのである。
固定電話をひいたら、1番最初に電話するのは、直也と決めていた。優子もここまでくるのにかなり、色々あった。直也が、実際1人暮しを本当にスタートしているのかさえ分からない状況であった為、とにかく連絡を取る手段は、勤務先に電話する。この選択だけだった。行動力のある優子は、受話器をとり直也の職場に電話する。
直也の職場に電話をすると、電話口に出たのは女性職員だった。優子は、「すいません。そちらに勤務する直也さんお願いしたいのですが」と話すと、「副店長は、本日会議で不在です」と伝えられ、出勤日を確認すると明日は1日在社と言われたので、明日再度連絡すると話して、電話を切った。電話を切った優子は、直ちゃん?副店長に?昇格したのだと驚く優子なのである。さて優子は、新しい勤務先への初出勤まで日数が無くなってきたので、明日直也に直接会いに行こうと決断するのである。
優子は、何度も挫折を繰り返しながら、直也からの解決策もクリアーした。その事を報告して、もう一度直也と再スタートをしたいと心弾ませる優子なのである。直接会いに行き、
返事を貰いに行く優子に、直也は、どんな返事をだすのだろうか?
直也は、優子が解決策をクリアーしたなど、ほんの少しも思っておらず、ましてや、会いに来るなど想像すらしていなかったのである。
さて、直也の出す返事は?優子の思いは伝わるのか?




