第三十九話 親の気持ちと父ちゃんとの散歩
*優子は、父ちゃんからの散歩の誘いを部屋で待っていた。すると階段の下のほうから、
母ちゃんが「優子、下に降りてきなさい」と声が聞こえた。ドアを開けて、何?母ちゃん?と部屋から顔を出して階段下にいる母ちゃんに声をかける。すると、用事あるから降りてきなさいと母ちゃんに言われた。階段を降りて下に行くと、父ちゃんが門の所で、待っているから行きなさいと言われ、靴を履いて玄関を出て、門へと歩く優子である。
父ちゃんは、門から遠く山の方の綺麗な夕焼けを見ていた。優子は父ちゃんの近くまで行き、声をかけた。
「父ちゃん、散歩に行くのね?」と声をかけると、「そうだな。行くか」と優子に話して、土手の方に向かった。2~3分歩くと、父ちゃんが、優子と散歩するなんて、はじめてだな。お前が小さいときは、父ちゃんが肩車しながら結構土手を散歩したんだぞ!
優子は、覚えてないだろうな?
え?そうなの?私は、覚えてないよ。そう言われてみると、アルバムに父ちゃんが肩車してくれた写真があったね?
優子はさ、花火大会の時に、父ちゃんの肩車から花火見るのが大好きでな、2時間くらい、肩車した時もあったよ!次の日が肩こりで(笑)今思うといい思い出だな。
この場所が、1番花火が綺麗に見える場所でさ!優子は、ここから父ちゃんと見る花火が大好きだった。それはな、父ちゃんが肩車した時に、ちょうど向こうにみえる山並みの山と山の谷間に上がる花火が優子の目線から見て笑顔の景色の花火に見えたらしく、「花火さんの笑顔」と優子は、慢心の笑顔で上がる花火を見て大はしゃぎしていた。その時の事、父ちゃんは昨日のように覚えているよ。
父ちゃんは、遠くの夕焼けを見ながら優子にこう話す。
優子、父ちゃんは、お前の笑顔が大好きや。いつまでも子供と思っていたら、優子もいつのまにか立派な大人の考え持つようになったな。少し寂しい気持ちもするけど、自分の信じた道を進みなさい。「人生は1度きりだから」父ちゃんは、ずっと優子を応援している。もちろん母ちゃんも。それが、父ちゃんと母ちゃんの答えや。
え?「父ちゃん、ありがとう」正直、父ちゃんには、反対されると思っていたから、私、私ね。優子は、なぜか、ボロボロと大粒の涙だが、出てきた。ずっと反対されたら何て話そうとばかり考えていたので、一揆に緊張が途切れ、嬉涙が止まらないのである。
優子。バカだな~。泣くやつがあるか?せっかく優子との楽しい思い出の場所なのに。
ほら涙拭け。俺の自慢の可愛い娘の顔が台無しじゃないか。
だって~。父ちゃんが、泣かせるような事言うから。父ちゃんは、何で家出るか聞かないの?理由?
理由?聞かないよ!優子が決めた事だろ!ずっと今まで、優子を厳しく育ててきたのは、いつか自立するときに、困らないようにと母ちゃんと2人で話して育ててきたから、俺たちの娘だから、理由聞かなくても、優子を信じるから。
だから、自分の気持ちに正直に生きなさい。それとな、手を出しなさいと話すと、父ちゃんはジャンバーの内ポケットから、通帳と印鑑を取り出し優子に手渡した。
え?通帳?これは、何?父ちゃん受け取れないよ。家出るのだって、私のわがままだし、それに、アパート借りるくらいの貯金はあるから~。
いいから、黙って貰っておきな。お金は、いくらあっても邪魔にはならないから。このお金は、いつか優子が、自立するときに渡そうと父ちゃんと母ちゃんがコツコツと毎月貯金したお金で、優子の為に貯めたお金だから。それとな、優子がいつかお嫁にいって、親になった時、父ちゃんと母ちゃんの気持ちがわかるよ。とにかく親というのは、そういうものや。ちゃんと母ちゃんにも、御礼言っておきなよ。
父ちゃん「ありがとう」大事に使わせてもらうね。母ちゃんにも後から、御礼言っておくね。優子は、ずっと反対されることだけ考えていただけに、父ちゃんの話を聞き、応援してくれる言葉に、どんなに嬉しかったことか、それと、厳しい教育は、全部私の将来のことを考えてくれていたのだと、この時初めて気付く優子なのである。優子は、両親の事を誤解していたのである。なぜ?厳しく教育されなければならないのか?幼い頃から凄く疑問に思っていたのである。私が小さいから?いじめのようにさえ思った事もあったが、自分の背の小ささを両親にぶつければ、悲しい思いをさせてしまうと思い、ずっと言えずにいたのである。でも父ちゃんの話で、全て私の将来の事を考えてとわかった優子は、両親からの愛情を肌で感じるのである。
きっと、父ちゃんも母ちゃんも口にはしないが、私が人より背が小さい事をコンプレックスに思って、肩身の狭い思いをしないように、普通の人と変わらない愛情を注いでくれたのだと思うのである。優子は、何気に昔の話をしながら、応援してくれる父ちゃんにちょっと寂しいのかなと感じるのである。
父ちゃんは、沈みかける夕日を見て、「優子、また父ちゃんと散歩しながら、夕日見に来るぞ」と話し、そろそろ夕飯も出来たことだろうから、家に帰るか?
優子は、「うん」父ちゃんとまた散歩に来るよと話した。夕飯、出来たかな?なんか、父ちゃんに緊張して話したから、お腹すいた(笑)と歩きながら話す優子。
緊張?親に話すのに、緊張するやついるか(笑)そんなに父ちゃんに話しにくいかな?
父ちゃんも腹減ったな~。今日は、優子の好きなカレーらしいぞ~。
私は、父ちゃんが頑固親父と思っていたから、話すのが怖かった。でも!今日の父ちゃんは、全然違う人みたいだよ。正直驚いたよ。
なあ~。優子。確かに、父ちゃんは、頑固親父かもしれん。普段はそんなに話もせず、家の事も優子や晃の事は、全て母ちゃんに頼ってばかりだしな。でもな、父ちゃんだって、優子や晃の幸せを1番に思っているよ!1人暮ししてみて、無理だなと感じたら、戻ってきなさい。優子には、帰る家があるのだからな!わかったな!
そう話しながら、家へとむかう優子と父ちゃんなのである。
優子は、父ちゃんに1人暮しの許可を貰ったのである。正直許して貰えるとは思っていなかっただけに、素直に喜ぶ優子なのである。この結果を少しでも早く直也に伝えたいと思うのである。それと同時に、父ちゃんの口からお嫁に行って、親になったらと言う言葉を聞いて、私を厳しく育ててくれた両親は、娘である私も人並みの結婚を望んでいてくれていた事に、嬉しく思う優子なのである。
その反面これまでの優子の人生でも両親に対する葛藤も沢山あった。両親の前では、口が裂けても言えない事もある。幼い頃から厳しく教育されていたのは、背が小さいからだと思いこんでいた。好きで背が小さいわけではない。大人になり買い物に行っても、背が小さい事で、すれ違う人達に、目で追われることも頻繁にある。世間を歩くと他人の視線がきになるのである。そんな事を思う度、両親を恨んだ事もある。でも父ちゃんの言葉で、少しでも背の事で両親を恨んだことに自分が恥ずかしいと感じるのである。
私が苦しんでいたいじょうに、両親は私の事を考えながらもっと苦しんでいた事に気付いた優子なのである。
優子はこうして、1人暮しを両親から許してもらいアパート探しに集中出来るようになるのである。アパートもおおよそ、場所も決めて契約も済ませた。直也が元カノと別れ、解決策で提案された1人暮しも両親から許可が出て、アパートも決めた。
あとは、直也に連絡をすればと心を弾ませる優子なのである。
ここまでは、順調に来たのだが、次なる問題が発生する事になる!
優子は、両親に1人暮しを反対されることが1番の問題だと思っていただけに、これが問題?となるとは思っていなかったのである。その問題とは・・・・。
その問題とは・・・。仕事の事だった。アパートの契約を済ませてから、間もない時の事だ、優子の会社が突然、月末で倒産という大変な事態が発生すのである。
緊急通達で、全員解雇通達が出たのである。突然の事に優子の頭の中は、真っ白になった。せっかくここまで来たのに。直也と戻る為の解決策をクリアーと喜だのもつかの間で、今度は働く場所を探さないといけない事になる。会社倒産の事を話したら、許可してくれた両親もさすがに、1人暮しなどもってのほかと撤回されるに違いない。優子は、両親の耳に入る前に仕事を探さないといけないと焦るのである。
そんな時、隣町の数社から、社員募集の案内が掲示された。倒産の責任をとり、社長が従業員の再就職先を探しに方々頭を下げて歩いたと聞こえてきた。数社の応募は、社員全員がカバーされるくらいの募集人員ではなかった。とにかく面接を受けないと何もはじまらない優子は、とりあえず、応募する事を決意して、面接試験に望む事にした。
優子は、この時、28歳になり再就職するのにも背丈だけじゃなく年齢的にも厳しくなってきていたのも事実である。勤続年数も8年とベテランの域に入ってきたが、不安を隠しきれないのである。そんな優子にも同じ職場で、髄一何でも話せるのが7歳年下の由紀ちゃんである。歳の離れた仲のよい友達(親友)なのである。由紀ちゃんは、社会人1年目に両親を亡くし、3歳年下の妹を働きながら高校に通わせる苦労人で、若いのにとても努力家なのである。そんな苦労人の彼女だからこそ、優子の悩みにも真剣に耳を傾けてくれて、親身に相談にも乗ってくれる頼りがいのある年下の親友なのである。
由紀ちゃんが入社してからのこの1年は、優子が色々仕事を教えお昼も2人で食べていたので、お互いの性格も知り尽くしていた。それに由紀ちゃんは、人なつっこい性格で、先輩である優子を優子ちゃんと呼ぶ仲なのであった。
そんな、何でも相談の出来る由紀ちゃんにも優子は、プライベートの直也との事だけは、
話せていなかったのである。当然、1人暮らしの件は、ちらっとは話したが、詳しい事は話していない。優子は考えた。会社が倒産の話を聞き、職を失い1人暮しなんて、無理?でも、直也を諦めたくない、優子は、1人でこの悩みを抱えるのはかなり苦しくなってきていた。もう限界だ。このままだと仕事も1人暮らしも直也も全部失ってしまう。優子は、由紀ちゃんに相談しようと決めるのである。
こうして、優子に襲ってくる次々の試練。やっと父からの1人暮しの許しが出て、喜だのもつかの間、直也に解決策を伝える前に、今度は、会社が倒産で解雇、職を失い仕事を探さなければならない。優子は、色んな事が重なりかなり疲れがたまっていて、精神的にもかなり辛く苦しい状況であった。でもここまで頑張ってきて、やっとやっと目の前まで、直也との事が見えてきたのに、ここで諦めてなるものかと何度も何度も自分に言い聞かせる優子なのである。そして、優子は、由紀ちゃんに直也との事を打ちあけて、相談に乗って貰う事にするのである。
さて、優子の今後はどうなるのだろうか?神様からのいたずらにしては、次々と起こりうる試練。この試練を乗り切る事が優子には出来るのだろうか?




