4.影人
僕は、キーにオススメのバイトを紙にリストアップして、それを机に残して学校に向かって走った。
あいつがそれをするかどうかは別問題だが、僕の今のバイトの給料だけじゃ養うのは難しい。
一応、両親から仕送りは貰っているけど、その金は将来のために使うって決めている。
ていうか、それよりも大事なことがあるだろ。
今、僕はピンチなんだよ。
「やべぇよ。遅刻だ遅刻」
いつも通り、学校までの道を最短距離で走り抜ける。
「ああ! くそう! なんでいつもこんな時に限って赤信号なんだよ」
胸の奥を掻き毟りたい気持ちに駆られる。
その時、後ろから声を掛けられた。
「あ、あの。この子を知りませんか?」
「え?」
見ると、どうやら獣人の娘らしかった。
背中まで垂れた濡鴉色の髪——。
頭から生えた2つの可愛らしい猫耳がなんとも愛でたくなるくらいに愛らしい。
お人形さんのような端整な顔立ちに、潤いのある墨色のぱっちりとした瞳——。
一言で言えば、美少女だ。
歳は10歳前後だろうか。
彼女は、友人と映画館に行くような軽い格好をしていた。
彼女が両手に持っている紙切れを見る。
それには、キーの似顔絵が描かれてあった。
何故、こいつがこんなものを——。
もしかしたら、キーを追っている連中の奴らでは無いのか。
「この子、ウチの大切な友人なのです。1週間前からいなくて……」
頭を項垂れる黒髪少女。
キーが空中都市『ゼウス』から逃げ出したのも丁度1週間前。
時期は丁度符合する。
やはり、彼女の追っ手なのか。
それとも――。
いずれにしても、キーと関係のある人物には間違い無い。
追っ手にしても、友人にしてもだ。
でも、彼女に危険が及ぶような可能性のある事はなるべく控えた方が良い。
とすると、答えは一つだけ。
「いえ、すいません。見たことないです」
「そう……ですか」
視線を下に移すと、残念そうに肩を竦める。
彼女は一言お礼を言って去って行った。
ふぅ、何とか回避することが出来た。
それにしても、あの子可愛かったな。
あの子には済まないけど、何者か分からないからな。
容易にあの子の居場所を教える訳にはいかないんだ。
少しだけ、罪悪感はあるけれど、これだけは仕方がない。
そう。
仕方が無いんだ。
重くなった足で僕は学校に向かった。
あぁ、嫌だなぁ。
能力者テスト。
あれ、小学校の頃からほぼ毎日受けさせられているけど、全然効果ないんだけよな。
何が能力者開発だ。
何が『人類の新たな光』だ。
ふざけんじゃねぇ。
そんなもんしてるから、能力を使えねぇような僕たちや魔術至上主義の奴らに叩かれんだよ。
あぁ、今日も憂鬱な学校が始まる。