1.金髪の少女
初対面の相手のことを考えながら帰り道をとぼとぼ歩いていた。
いつも通りの寂しい1人ぼっちの下校。
白の半袖の質素なデザインの夏服の制服に黒のズボン。
製鞄は手提げカバンの形をしており、皮で作られていた。
胴の真ん中の所には常峰丘高校のシンボルである銀杏の木のデザインが施されている。
つまり、僕はそこら辺にいるごく普通の男子高校生の格好をしているわけだ。
登下校の途中なのだから当たり前なのだけれど。
やっぱり、平和が1番だ。
何も無い日常、戦争も争いも何も無い。
人はつい刺激を求めたがるが、それは違うと僕は思う。
平凡な、何気ない、何も無い日常が1番なのだ。
刺激なんてクソ喰らえだ。
そんなもの求めたところで何もできる訳でもないくせに。
彼らは部活に、恋に、友情に精を出す。
「はっ、ご苦労なこった」
馬鹿な青春野郎達に向かって反吐のような気持ちを吐き捨てた。
壁の壊れる爆音と煙と共に、変なロボットと一人の人間が現れた。
「な、なんだ!?」
夢から覚めたかのような気持ちに襲われる。
目の前の光景に僕は目を疑った。
全長で5メートルくらいだろうか。
奴は、浮いていた。
人1人が入れるくらいの半球型のコックピットに、カニのような鍵爪のある2本の強靭なアーマーがついている。
「あれは、機動接近型甲殻兵器!!」
軍用兵器好きの友人に聞いたことがある。
確かあれは、軍用の機動有人兵器だったと記憶している。
それ以外のことは興味が無かったものだから全然聞いていないけれど。
彼らは僕の存在に気付いていないようだ。
それよりも——
目の前に立っている一人の人間と機動型甲殻兵器を交互に見る。
状況が全く掴めない。一体どうなってん。
一瞬の出来事だった。
機動型甲殻兵器の中央に小さな光の粒子が集まっているのが目に入ったかと思うと、そこからビームが放たれていた。
な、なんだよこれ。めちゃくちゃだ。
こんな狭いところで光線を放つなんて。
おかげで、機動型甲殻兵器の目の前にある壁には穴が空いていた。
あれ、あの人は?
「甘いな。この俺様から逃げようなどと甘く考えないことだ。鍵娘」
上だ。
血のように赤く、背中まである髪に闇のような黒いマントを背負った細身の男。
彼は、腰から何かを出して親指で押した。
すると、光の剣が——淡い金色の輝きを放つ光が現れた。
瞬断——
機動型甲殻兵器の両腕は綺麗に真っ二つに割れ、コックピットを守っている魔術式強化ガラスも斬られていた。
その間から現れたのは1人の少女。
可憐というのが第一印象だ。
歳は5、6歳と言った所だろうか。
背中まで伸びた太陽のような輝きを放つ金色の髪と大きなリスのような瞳。
肌は透けるように白く、儚く妖精のような風貌をしていて、吸い込まれそうな魅力がある。
あの子がこれを操縦していたのか?
俄かには信じられないが、今問題にすべきところはそこではないと僕の脳が囁く。
どちらかが襲われている。
もしくは追われているのは一目瞭然だ。
壁を壊した時は分からなかったが、今はっきりと分かった。
あの女の子を助けないと!
間に合うのか?
いや、間に合うか間に合わないかじゃ無い。
間に合わせるんだ。
既に赤髪の男の持っている剣先は少女に向いていた。
「うおおぉぉぉぉぉ!」
クソ! 間に合わない!
しかし、剣先は彼女の首に当たる前に彼女の右手に触れて消えた。
消失した。
消滅した。
どうなっているんだ?
もう、何が起こっているのか分からない。
状況も意味不明だ。
だけど・・・
「くらえぇぇぇ!」
ジャンプして、機動型甲殻兵器の腕の部分によじ登り、赤髪の男にイノシシの如く突っ込んで行く。
「何っ⁉︎」
赤髪の男はようやく僕の存在に気付いたようだ。
でも、もう遅い。
「うらぁ!」
僕は、右腕を大きく振って右フックを彼の顔面に打ち込んだ。
大ヒット!
彼の体は吹っ飛び、機動型甲殻兵器から落ちて行った。
よし、今だ。
コックピットの方にいる金髪の少女の方に右手を差し伸べる。
「君、追われているんだろ? 一緒に逃げよう」
「ど・・・こに・・逃げ・・・るの?」
「僕の家だ。ほら、早く」
彼女の意志になんて関係無い。
僕が助けたい。
只、それだけだ。
僕は彼女の手を無理矢理取って自分の部屋に向かって走った。