古城に住んでいる。
古城に住んでいる。
私はメイドだ。
魔王様の城である魔王城に勤めるメイドだ。
魔王城は魔界にある暗黒の森の奥深くに打ち捨てられたように立つ古城である。
石垣は崩れかけ、尖塔は半ば倒壊し、窓という窓がびっしりとツタに覆われたいかにもな城である。
まさに魔王の住む城といった趣である。
だが魔王様はこの城に住んではいない。
「こんな辛気臭くて恐ろし気な場所に妻や子供と住んでいられるか」
と言って魔王様は城の裏手にある小さな小屋に住んでいる。
そこでは彼の妻や子供たちが一家で仲良く暮らしている。
魔王様は子持ちで家族思いな魔王だった。
私の仕事はその魔王様の住んでいない魔王城を管理することである。
魔王様は住んでいないにもかかわらず私は魔王城に住み込みである。
魔王城に勤めるメイドだから仕方ないのであるが。
朝起きた私の仕事はまず城の窓(ほとんど開かない)をすべて開け放つことである。
夜寝る前に閉めておかなければ、雨風が忍び込んで城の内部を水浸しにしてしまうことがある。
老朽化のひどい魔王城はそういったことで簡単にガタが来てしまう。
窓を開け放ったら次に城の裏手にある魔王様の小屋に朝の挨拶をしに行く。
呼び鈴を鳴らせば彼の奥様が顔を出し、あいさつを交わす。
魔王様はたいていまだ寝ている。
挨拶が終わったら城に戻り、朝食をとる。
そのあとは掃除である。
老朽化しているといっても魔王城はそれなりに広く、またあちこち傷んでいるところが多いため補修もたびたび必要となる。
そういったところを掃除したり修理し、気づけば昼になっている。
昼食をはさんでからは無駄に広い城の中庭の草むしりをする。
周りを森に囲まれている城の中庭は、たまに得体のしれない雑草が勝手に繁殖していたりする。
それらをすべて引き抜き、最後に中庭の中央に集めて燃やす。
夜になったら窓を閉め、夕食を摂る。
それで1日が終わる。
夜が過ぎて朝が来ればまた次の日の仕事が始まる。
ある日、私が掃除をしていると、ひょっこり魔王様が現れた。
私は掃除の手を止め、魔王様に尋ねる。
「どうかなさいましたか?」
「ああ、勇者がまた来る」
魔王様は言った。
「玉座の間は大丈夫?」
「はい。毎日掃除をしております。玉座に敷くクッションが破れていたので先日治しておきました」
「ありがとう。じゃあそろそろ来そうだから、僕は行ってくる」
魔王様は歩き去っていった。
私がそれを見送った後、しばらくしてから数人の男女が魔王城に現れた。
勇者パーティーだ。
彼らは壁際にたたずむ私には気を留めず、城の奥へと進んでいった。
しばらくしてから再びひょっこりと魔王様が姿を現した。
着衣には汚れすら全くついていない。
彼は私の姿を認めるとこう言うのだ。
「じゃあ、今日もお仕事頑張ってね。僕の仕事は終わったから。玉座の間はちょっと燃やしちゃったけどあとで補修頼めるかな」
「はい、お任せください」
魔王様は帰って行った。
玉座の間に行ってみると、多少物が焼け焦げた跡があるものの大したことにはなっていない。
そして、勇者パーティーの姿もない。
魔王様が転移魔法でパーティーごと送り返したのだろう。
私は玉座に歩み寄り、腰掛部分に敷かれているクッションを持ち上げる。
そして裏返す。
「ここにも穴が・・・。 あとで治しておかねばなりませんね」
私はメイドだ。
魔王城に勤めるメイド。
私はこの古城に一人で住んでいる。
魔王様の住まないこの城を管理するのが、私の仕事だ。