雨音
ポツンポツン…
バケツに一滴ずつ溜まっていく雨の雫を少年はずっと見ていた。
「また会えないね。」
私はいきなり話しかけられたことに少し驚きながら、彼を見た。
「えっ?」
「織姫ちゃんと彦星くんの話。」
「あ〜…」
私はカレンダーを見て、今日が7月7日であることに気付いた。
そういえば、あの日の朝もこんな天気だったなぁ…
2001年7月7日―
「ツン、お留守番頼んだわよ。」
「うん。」
「じゃあ、ブーンくん、先行ってるわね。」
「はい。」
この日は、私の両親が私の家の居候であるブーンと彼の実家に行く日だった。
ブーンの両親と私の両親は高校時代からの友達でブーンの家の家計上居候となっていた。
私はブーンとは兄弟のような感じであったが、付き合っていた。
「ツン、寂しくなったらいつでも電話してきていいからお。」
「寂しくなんてならないもん。」
また私の嘘。
本当は離れたくなかった。
もしかしたら実家に帰ったまま戻ってこないかもしれないと思ったからだ。
でも、そう言ったあとの、ブーンのいじける表情が何よりも私を慰めてくれた。
「ちょっとぐらいは寂しくなって欲しいお…」
「なら、ちょっとだけ。」
私はブーンを抱きしめた。
「絶対、帰ってきてね。」
「うん」
ブーンを離すと、手を振った。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
私たちの約束は果たされなかった。
帰る途中、車で事故に遭い、3人とも死んでしまったのだ。