表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/60

第六章  旅の仲間 02

 

「アーニャ、わかっていますか、物見遊山に行くのではないのですよ?」

「でも、クリフは行くんでしょ?」


 それにクリフがうなずけば、アーニャもうなずき返して、だったらと続ける。


「あたしも、行くしかないじゃない」

「だから、何故です」

「そんなの、クリフと一緒にいたいからに決まってる!」


 アーニャの真っすぐで正直な態度は、羨望にさえ値する。だからといって、アーニャを一行に加えることとは別の問題だろう。ただし、女だから一緒には連れて行けない、というのではレイシアがいるので通用しない。また同様に、騎士ではないというのには、エルマがいる。


「どうする、リオンどの?」


 そう言ってきたのはディールで、その表情はどこか他人事のようだ。そして、当事者同士のクリフとアーニャは、何やら不毛とさえ思えるような論戦を始めている。アーニャが一緒でなくても困ることはない、そう主張するクリフに、アーニャが食い下がっているのだ。

 言い合うふたりは、しばらく放置しておいた方がよさそうだと判断して、リオンはディールに溜息で応えてから、レイシアに向けて問いかける。


「レイシアは、この先どうするつもりか」


 その目的が一角獣の捕獲にあるのなら、これ以上リオンに付き合う理由はレイシアにはない。


「リオン卿の目的が聖剣であったとは意外じゃが、聖獣の宝庫とも呼ばれる、試しの森には行ってみたいと思うておった。リオン卿さえよろしければ、これからもご一緒させていただけまいか」

「……調材司ちょうざいしの仕事はよろしいのか?」


 もっともらしくリオンが言えば、レイシアは涼やかに答える。


「聖獣は薬としても重宝される。なれば、一角獣にこだわる理由もない」

「……」

「さらに、わたくしが旅をするのは、神殿という息苦しい場所にいたくはないからじゃ」


 しかし、旅の費用を肩代わりしてくれるので、神官であることを止めようとは思わない。薬の原料を求めるのは、その半分が建前でしかない、とレイシアは隠すことなく言う。

 そうしたレイシアの告白に神妙な顔でうなずくイズヴェルに、リオンは意見を求めるために視線を向けたが、結局は何も口にしなかった。レイシアが行くと言えば、黙っていても着いてくるのだろう。そうなると、残る問題はアーニャをどうするか、ということになる。


「……アーニャ、何のかんのと言っても、結局のところ、決めるのはリオンですよ?」


 クリフとアーニャの言い合いも結論を得たようで、クリフがそう言って冷ややかな笑みを浮かべれば、アーニャからは挑むような力強い眼差しがリオンに向けられる。

 それで怯むようなリオンではないが、その代わりに自然と溜息が口を突いて出た。


「とりあえず、アーニャのご両親に会ってからだ……」


 若い娘が男を追いかけて旅に出るなど、親であれば反対するに決まっている。この時のリオンは、自らの常識を基準にしてそう考えた。だが、夜になっても、それこそ朝になっても帰らない娘を捜しにさえこないアーニャの両親に、リオンの常識が通用しなかったのは言うまでもないか。

 村長むらおさだという父親は、娘の旅立ちを祝った後で、豪快に笑って言ったものである。


「婿どのをしっかりと捕まえておくんだぞ!」


 婿どの、とは当然ながらクリフのことのようで、引きつった笑みを浮かべるクリフの肩を、未来の義父はぽんとたたいたものである。父親がそんなものだから、母親の方ものん気なもので、幾日したら帰ってくるの、と小首を傾げただけだった。

 それでも、やはりアーニャが心配であることは確かなようで、よろしく頼むとリオンの両手を取って、父親は何度も頭を下げた。そして、最後にクリフに向けて村長らしく言った。


「エフロフとリィザさんのことなら、心配いらんからな!」


 この自分の目が黒い内は、村の連中から何と言われようとも守ってみせる、と村長が頼もしい言葉を口にしたからではないだろうが、クリフはエフロフとリィザのふたりをこの村に残した。

 そうすることで、クリフにも帰る場所があることが、リオンにはうれしく思えた。





 王都マエリアを出発した時、リオンの共はエルマがひとりいただけだった。それが、今では五人も増えて、リオンの旅はいっそう賑やかになっていた。馬を持っていなかったイズヴェルにも、立ち寄った町の市場で買い求めてやった。

 出費としてはこれまでで一番大きかったが、イズヴェルのぼやきを背中に聞かずにすむようになったことで、精神的には解放されたリオンである。だが、その代わりに、馬を横に並べられたレイシアが迷惑そうにしているが、我慢してもらうしかないだろう。

 先頭は変わることなくディールが努めて、その後ろにレイシアがイズヴェルと並んで進んで、クリフとアーニャがそれに続く。そして、最後尾を行くリオンに馬を並べたエルマが、陽射しの暑さのためか頬を上気させて、小さく溜息するのがリオンの耳に聞こえた。遠くの空には積乱雲を見ることができたが、見上げる上空には陽射しを遮る雲はない。

 連日の暑さで、その当初はひとり元気だったアーニャも口数が少なくって、今は黙々と馬の背に揺られている。魔導師であるクリフが、この暑さをどう思っているのかが、リオンにはわからなかった。ただ、背中に流した、栗色の長い髪が暑そうだった。


「ディール、少し休憩をしないか」


 昼にはまだ早いので、昼食を目的とした休憩ではない。

 左右は見渡す限りの平原が広がっている。緑の草が辺り一面を、とまではいかないが、まばらに草が生えて低木の広葉樹がちらほらと見えて、その下に広がる影は涼しそうだった。


「ん? そうだな、気が付かなかった」


 騎士は運動能力に優れている分、筋力だけでなく体力も常人に勝る。

 リオンの言葉にうなずいたディールは、街道を少し逸れたところにある木陰を指差した。そこへ向けて一行は移動すると、真っ先に馬を下りたアーニャが言う。


「ちょっと、リオン、次の町にはいつ到着するのさ」


 平原を渡ること、今日で三日となれば、代わり映えしない風景に苛立ちさえ覚えるようだった。それに地図を広げながら、そうだな、とつぶやくリオンの傍でクリフが言う。


「アーニャ、いやなら、今からでも引き返してかまいませんよ」

「だ、誰もいやだなんて言ってない!」


 頬を膨らませて唇をとがらせるアーニャを、クリフは揶揄するように笑った。それを見たアーニャが、休憩を終わらせて先を急ごうと言い張る。


「先は長い、そんなに慌てることはない」


 地図に視線を落としたままリオンはそう言うと、今度は視線を上げてディールに言う。


「ラムーラには、明日の夜には到着できるだろうか?」

「それは問題ないだろう」


 傭兵として各地を回ったディールは、リオンよりも地理に明るい。それは、調材司ちょうざいしとして旅してきたレイシアも同様であるようで、それを証明して水筒の水で喉を潤したレイシアが言う。


「なれば、ラムーラにてお待ち願えようか」

「……?」

「このアレッチ平原で、獅子を狩って行こうかと思うのじゃ」


 ラムーラには、小さいながらも神殿がある。調材司として手ぶらでそこを訪ねるのは、気が引けるのだとレイシアが言えば、なるほどとつぶやいてイズヴェルが続ける。


「レイシアどのは、このおれとふたりになる機会を待っておられたのだな」

「何のためにじゃ」

「またまた、わかっておられるくせに」


 そう言って、イズヴェルは意味ありげに片目を閉じて見せる。金環の耳飾りが揺れて、夏の太陽を反射する。それに目を細めてから、リオンは口を開いた。


「だったら、獅子狩りにわたしも協力しよう」


 帰らずの森では一角獣を目撃しながら、みすみす逃してしまった。その責任がリオンにはあるような気がしたのだが、イズヴェルはいい顔をしなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ