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03.旅立ちコンティニュー



 ぼうけんにひつようなそうび。


 つよいぶき……すぐこわれた。

 かたいぼうぐ……うごきづらい。

 すごいどうぐ……かさばる。

 アクセサリー……ジャラジャラうるさい。



「まあ、スタートの街なんて、こんなもんだよなぁ……」


 というカイの呟きは、やはり誰にも理解されることなく、空へと消えていった。

 王都、南門前。

 国王たちに見送りを禁じたため、普段通りといった感じの人の往来が続く中、カイは近くにあった木箱に座り、青空に浮かぶ雲をぼーっと眺めていた。

 正直、国王に頼んだ装備品は、どれも基準に満たなかった。王都一の鍛冶師が打ったという剣は、何度か素振りしただけで折れ曲がったし、他の装備も役に立ちそうにないものばかり。

 だから結局まともに受け取ったのは、それなりの額の貨幣と、とにかく丈夫で動きやすい服。

 そして残る一つを今、ここで待っているというわけだった。

 だが当初、それも不要だとカイは思っていた。とにかく一直線に魔王へと向かい、多少強引にでも倒してしまえば、今回は終わると踏んでいた。

 しかし、魔王の所在を訊いてみると、


「はい。魔王は、あの月にて力を蓄えていると言われています」


 と、ちょうど輝き始めた夕空の月を指差される事案発生。

 当然ながら、この世界に飛行機の類いはないようだし、さすがのカイも空は飛べない。なので、ひとまずは移動手段の確保が急務となった。

 だから、それについても訊いてみると、


「はい。伝説の勇者は、太古に失われた技術で月に向かったと言われています」


 との答えが。だが肝心なその技術については、伝説にも詳しい記述がなく、よく分からないとのこと。

 しかし、そういったことに精通した者ならば知っている可能性が高いと言われ、まず第一に、その人物に会うことになったのだが――と。

 カイが、そんな昨日のことを思い出していると、ガシャガシャと金属音を立てて近づいてくる人影があった。


「す、すみません! 遅くなりました! このたび、カイ様の案内役を仰せつかった者です!」

「…………」


 人影の正体は、大きなリュックを背負った全身甲冑(フルプレートアーマー)だった。

 かぶとの装飾を含めても、木箱に腰掛けているカイと大して変わらない身長。声の高さからして、いかにも若そうだが、とにかくくぐもっていて聞き取りづらい。

 確かに『頑丈な案内役を一人』と国王に頼んだが、まさかその結果がコレだとは。

 しかし、そんなカイの落胆を、兜のわずかな隙間から読み取ったのか、甲冑はガシャンと自分の胸を叩いた。


「あ、ご安心ください! 中身も結構頑丈ですから!」

「ああ、そう……」


 動作のぎこちなさから考えて、中の人物は明らかに鎧を着慣れていない。どう見ても素人だ。

 だが、ここでチェンジを要求すれば、面倒なことになる可能性も高い。

 そもそも最初、国王はカイの旅のお供にと、騎士団の部隊を一つ同行させようとしていたのだ。二頭立ての馬車数台を引き連れるほどの大部隊だ。

 しかし、人数が増えれば荷物も増え、行軍のスピードは落ちる。それでは、カイが掲げる『最速攻略』は遠ざかってしまう。

 だからこそ、自分が連れて行ける最少人数を求めたのだが、ここでそれにも文句を付ければ、ではやはり大部隊を、という展開にも戻りかねないし、代わりの人物を選定するにも、また時間が掛かるだろう。


(……ダメだ。そんなリセマラしてる余裕はねぇ)


 ただでさえ、この案内役の準備のために、半日も無意味に王城で過ごすことになったのだ。ここで揉めれば、また出発が遅くなる。

 それに、よく考えてみれば、別に素人でも特に問題はない。

 今回は、ただの人捜し。戦いに行くわけではないし、自分で言うからには体力にも自信があるのだろう。

 自分の中でそう決着をつけたカイは、改めて甲冑を見据え、口を開いた。


「じゃあ早速で悪いんだけど、その鎧、脱いで」

「……え? ぬ、脱ぐんですか? 今?」

「ああ。それじゃ、走るのに邪魔になるからな」

「いや、でも、さすがにここでは……」

「は? どうして?」

「あの、その……この中、下着同然の格好でして」

「別に誰も気にしねぇよ。男の裸なんか」

「……え?」

「……ん?」


 それなりに賑やかな南門前。

 時間がそこだけ止まったかのように、ピタリと固まる二人。

 そんな呪縛からいち早く抜け出したのは、甲冑のほうだった。


「も、もしかして、お聞きになってないんですか?」


 そう言って、慣れない手つきで兜を脱ぎにかかる甲冑。

 はたしてそこから現れたのは、金の長い髪が輝く一人の少女だった。



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