笑顔
しかし妙な組み合わせだよね?
他の人から見たらどう思われるだろうか?
綺麗な見た目の神薙さん、イケメンだがヤンキーでちょっと残念な晴秋、で、顔面偏差値中の下な僕。
どう考えてもこの中じゃ僕が一番可哀想なんじゃないかな!?
「クッソ!もうちょっと整った顔で生まれたかったよ!!」
悔しさと悲しさを心に留めておく事が出来なくなってしまった僕は、気が付くとソレを言葉にしていた。
「おいおいおいおい、急にどうしたんだよ晴秋!?」
ビックリした晴秋が僕の言葉に反応する。
「うっさい!イケメンは黙ってろ!もぉ!本当、イケメンはもう少し遠慮してもらいたいよな。この世は不公平だ。顔がいいってだけで結構色々許される事があったりさ、イケメンてだけで色々優遇されやがる。晴秋、お前先週大井町の惣菜屋の娘さんにこっそりコロッケオマケしてもらってたろ?僕にはなかったよ!クソ!!国は何をしているんだ!国会でもっと色々話すべき事があるんじゃないの!?例えばイケメン税を作るとかさ!」
珍しくオロオロする晴秋に、微動だにしない神薙さん。
「落ち着けって宗人!何がお前をそこまで追い詰めたんだ!?取り敢えずアレだ、飯行こう。な?」
溜まっていたものを吐き出した為か、30%位すっきりしたかも。
そんな事を考えていると、珍しく神薙さんが話し出す。
「堀川君の顔別に崩れてなんかいないわよ?目も鼻も口も均等に配置されていると思うんだけど・・・。」
いや、あの、そういう事じゃなくて、僕が言いたいのはイケメンに生まれたかったって事であって、目鼻口の配置についてじゃないんだけどな・・・。
「はぁ~。なんかゴメン。急に色々やり切れなくなっちゃってさ。あ~神薙さん、お詫びと言っては何だけど、これから僕たちと一緒にご飯行かない?待たせてしまったお詫びも込みでさ。大丈夫、勿論奢るから好きなもの食べてよ!晴秋がね!」
神薙さんの言葉に、さっきまでとは違い冷静になれた。
「お、おぃ!俺の奢りかよ!?」
財布の中身を確認する晴秋。
「イケメン税だと思って諦めろ。それにな、女性には優しくしておくものだよ。これがきっかけで、晴秋と神薙さんの距離が縮むんじゃないかな?そして晴秋が女性に優しいという噂は瞬く間に学園中の女子に知れ渡り、晴秋の株と、好感度が一気にうなぎ上り!羨ましいぞ晴秋!!」
マジっすか!?
それマジっすかね!?
そんな顔をした晴秋が神薙さんに声を掛ける。
「神薙、遠慮しないで好きなもの頼んでもいいからな?」
晴秋が残念な性格で助かったよ。
「と、いう事で晴秋もこう言ってるし、ご飯行こう!お腹すいたでしょ?ね?」
そう言うと神薙さんはカバンから携帯電話を取り出しどこかに電話をかけだす。
「あ、父さん?ゴメン、これからさ、えっと、知り合いとご飯食べて帰るから、境内の掃除帰ってからやるね。うん、ゴメンね。じゃあ。」
携帯を元の場所にしまうと、立ち止まってこちらを向く。
「ご飯行くわ。でも私小田原から電車だから、出来たらその近辺が嬉しいのだけど。」
そう言うと、また駅に続く道を歩き出した。
「お、神薙ご飯OK?よし、行くべ!でもどうする?女の子と一緒に行くならファミレスとかか?神薙は何か食いたいものある?」
晴秋が尋ねる。
「私は別に何でもいいけど、ちょっと気になるお店があるのよね。女の子一人じゃ入りずらいんだけど、うらちょう商店街にあるラーメン三郎って店。」
神薙さんの口からラーメンとか出るとは思わなかった。
見た目から想像するに、洋食のランチとか似合いそうなんだけど・・・。
「マジ!?神薙話判るじゃーん!!やっぱラーメンだよな!?な?よし、そこ行くべ!なんかさ、俺神薙の事すごく気に入ったわ!今日から俺達マブダチって事で頼むわ!何かあったら何でも言ってくれ!」
急にテンションが高くなる晴秋。
晴秋はホークとナイフ使うような料理苦手だからな。
ちまちま食うより、ガッツリお腹いっぱい食いたいんだと。
「じゃ、三郎に行こう!申し訳ないんだけど、僕ら場所もお店もわからないから、道案内お願いできるかな?」
そう言うと、こくんっと頷いた。
上機嫌の晴秋の後に続きて歩き出すと、急に制服を軽く引っ張られる。
振り返ると神薙さんが制服を引っ張っていた。
「どうしたの?」
そう尋ねると、首を傾げながら僕に尋ねる。
「私それなりに国語や古典なんかも得意だけど、安部君の言葉でどうしてもわからない単語があるの。・・・”まぶだち”ってどういう意味?眩しくて立ってられないとかいう表現なのかしら?」
真剣な顔でそんな事を質問するもんだから、可笑しくなって僕は笑ってしまった。
「違うって神薙さん。マブダチって言うのはね、親友って意味だよ。男同士じゃよく使う言葉なんだけど、神薙さんは女の子だから知らなくても無理はないよ。神薙さんから言わせれば迷惑な話かもしれないけど、晴秋はね、神薙さんの事を気にいったって事。要は友達になりましょうって事。ついでに便乗しちゃって悪いけどさ、僕ともマブダチになってよ!性別とか関係なしでさ!どうかな?」
急な申し出と言葉の意味に驚いた神薙さんだったが、どこか少し嬉しそうな顔をしたように見えた。
「安部君!堀川君!男の子とかさ、女の子とかさ。そんな事は置いといて、マブダチになろう!」
急に神薙さんが大声でそう言う。
僕らは若干驚いたものの、晴秋は振り返って嬉しそうに笑う。
「おう!」
その言葉を聞いて、神薙さんはとびっきり嬉しそうな笑顔を浮かべた。
僕は今、見てみたいと思っていた神薙さんの笑顔を、漸くここで初めて目にしたんだ。