役割分担
自己紹介が一通り済むと、10分間の短い休憩をはさみ、ちょっとした学級会が始まった。
まだ委員長とか決まってないのだが、本日の体育館での失態の罰として、仮委員長を僕が勤める事となり、簡単な決め事や係り・席決めなどを円滑に進行していく。
晴秋にも何かないと不公平だという事で、書記という事で黒板に皆から出た意見などを書いていく。
「ではこれから、一年間このクラスをまとめていく学級委員長と副委員長を決めたいと思います。誰か立候補する人はいないかな?」
担任が皆に問いかける。
おっと、紹介が遅れたが、先程校長室で一緒に怒られてくれた担任の先生で、凪和 信と言う。温厚な先生でなかなかのイケメンときている。実は先程の担任挨拶時に女子生徒からは黄色い声があがっていた。
男子生徒からは若干のブーイング(主に晴秋)が出たものの、僕からすればラッキーだ。
普通なら厳重に注意されるだろうが、凪和先生はその温厚な性格からか、若気の至りって事で穏便に済ませてくれた。
「いない様であれば、投票や指名で決めたいと思います。まぁ、入学初日で難しい話ですが、この人委員長に!って指名する人はいますか?」
静まり返ったその場の空気を壊したのは、やっぱり晴秋だった。
「せんせ~、僕は宗人くんを指名します!理由はとても面倒見がいいからです!因みにこれで宗人が委員長になったら、お前明日からあだ名やっぱり長さんになるわな!」
そう言って、あははは~っと能天気に笑って見せると、クラスの連中もなぜかそれに賛同。
気が付けばあっという間に満場一致で決定となる。
「先生もそれには賛同する。誰も何も言わなければ私が君を指名していたトコだよ。さっきの校長室でのやり取りもあるしね。すまないけどよろしく頼むよ!じゃ、そういう事で男子はこれで決定とするが、もう一名は女子から選出したいと思います。誰か推薦する人いますか?」
そう言うと、男子生徒全員が神薙 美琴に視線を向ける。
「やっぱりいいよな~、神薙さん!俺、あんな美人に世話焼かれてみたい!もぉ!晴秋君私の言う事聞いてよ!とか。でもって、いつの間にかクラスの優等生と劣等生は次第に惹かれ合っていく。彼女は自分に無いものを俺に求め、俺はその逆を彼女に求めた。周囲の反対を押し切り俺たちは強く結ばれる。周囲の目を盗むように束の間の恋を貪る。俺たちの愛情は深まっていく。気が付くと今まで反対していた連中が、それを見て徐々に俺たちを祝福するようになる。だがそんなバラ色の日々も長くは続かない。俺たちの関係にとうとう気が付いた彼女の両親が二人の関係を引き先にかかる。」
何だかいつの間にか語りだした晴秋。
正直若干ウザい。
「晴秋、その話長くなる?悪いけど、巻きで頼むよ。もしくはまた今度でいい?」
そんなやり取りをしていると、女子の一人が挙手して答える。
「私は神薙さんがいいと思いま~す。成績もいいし、何より男子の視線が神薙さんに集中してますし~。」
無責任に言うだけ言うと彼女は着席する。
その言葉に女子全員が納得したのか、こちらも何の反対意見もなく決定した。
「じゃあ二人とも一年間よろしくお願いします。どちらが委員長をするかは二人で話し合って決めてください。私も出来る限りフォローしますので、皆さんもよろしくお願いしますね。」
凪和先生の言葉に神薙さんを除く女子全員が黄色い声で返事をする。
その後、順調に係りは決定していき、全員の役割分担が決まる。
あ、言い忘れたが晴秋は生き物係となった。指名したのは僕。さっきのお返しとばかりに、まだまだ暴力的な一面がある晴秋には、命の大切さを理解してもらう意味で指名した。
近々晴秋には花の水やりから始めてもらおうかな。
その後も順調に話は進み、席は晴秋の隣が神薙さんで、その後ろが僕。
席決めについては、担任の先生が考えていたらしく、あっという間に席替えが完了。
何だかライオンの檻の中にウサギを入れたような気がしてならないが、その辺は僕がしっかり監視するとしよう。
で、席が近いという事は、班も同じなわけで・・・。
どうやら中学生になっても僕は晴秋のお守り役らしい。
凪和先生、温厚そうでいて実は結構エグイ気がする。
と言うか、どうすれば問題が起きにくいかを見抜いているとしか言いようがない。
例え問題が起きても、事を最小限に抑える術を知っているとしか言いようがない。
むぅ~さすが大人だ。
伊達に僕よりも15歳も長く生きているんじゃないって事だな!
余った時間で班での役割なども決めていくのだが、僕と神薙さんについては班長・副班長の役からは外してもらった。さすがにクラス委員と兼任は厳しすぎるという事で、皆もわかってくれた。
気が付くとチャイムがなり、時計は11時を回ったところだった。
中学校生活の第一日目はこうして終了した。
正確に言うと、僕と晴秋以外は。
僕らはこの後、校長室前の廊下を掃除するという罰が待っている。
こういった小学生みたいな罰は正直勘弁してほしいものだが、僕らが今日体育館でしでかした行為も、周りから見ればまだまだ小学生レベルなんだと思う。
今回は甘んじて受け入れようと思うが、次回からはもう少し中学生らしい罰を要求したいと思う。
ん?待てよ。それなら罰を受けない様に努力するべきではないか?
わかっているんだけどそれは難しい。
何故かって?
それは僕と晴秋が友達だからだ。
晴秋と出会った日からこうなる事が運命だったんだと思う。
僕は人知れず苦笑いを一つ浮かべると、片っ端から女の子に声をかけている晴秋の首根っこを掴むと、用具入れから雑巾とバケツを用意し、校長室前の廊下に向かった。