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Triangle Relation  作者: 東京 澪音
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神薙 美琴

入学式という事もあり、今日は授業がない。


ただお決まりの校長先生のありがた~いお言葉と、在校生の入学のお祝いの言葉なんて言う、非常に長くてメンドクサイ式が体育館で現在進行中だ。


ただ黙ってそれを聞いているだけなんだけど、これがまた眠気を誘う訳!

しかも体育館の窓から差し込む暖かな春の日差しが追い打ちをかけてくる。


時折自分自身をツネってみたりみたりなんかして、眠気を堪えるだけで必死。

あ~ぁ、早く終わらないかな~。


そんな事を考えていると、僕の斜め左から突然音がした。


”ガシャーン!!”


パイプ椅子が倒れた音だ。

その音と共に校長先生のありがたいお言葉はピタッと止まった。

皆が一斉に音の方に視線を移す。


「はぁ~。」


何となく検討はついていたが、僕はため息を一つ吐くと、斜め左後ろを振り返ってみた。


「え、ナニ?もう朝?ばーちゃん朝飯!」


予想はついていたけど、やっぱり晴秋だった。

「バカ!周りをよく見ろって!今入学式の真っ最中だろ!何寝ぼけてんだよ!」


僕はまるで自分の事の様に恥ずかしくなり、慌てて小声で晴秋に注意する。


「お、宗人わざわざ迎えに来てくれたの?ちょっと待ってくれ、俺まだ飯食ってないからさ。まぁ、あがれよ茶でも出すからさ。」


コイツまだ寝ぼけてやがる!

どうすりゃいい?どうすればこの場を乗り切れる?

考えろ僕!この場を切り抜ける方法を!


・。

・・。

・・・。


流石に状況があり得ないだけに、切り抜ける方法なんて思い浮ばないよ!


「ダメだこりゃ!」


伝説のコント集団のリーダー、いかりや大先生張りのダミ声でいつもの如くついうっかりと呟いてしまった。


しまった!!


と思ってみたものの、もはや後の祭りだ。


いつもアホの晴秋とつるんでるから、僕自身もいつものノリでつい口にしてしまっていた。


・・・終わった。


これがきっかけで僕は明日から、いかりや先生とか、おぃ、ちょー助!とか、ダミアン宗人とかって訳のわからないあだ名で呼ばれるんだ!


そんな事を考えていたら、静まり返った体育館から何処からともなくクスクスと笑う声が聞こえ始めた。

それは次第に大きくなる。


この状況下、ようやく完全に目を覚ました晴秋が開口一番言った言葉がこの場にいる全ての人達にトドメを刺す。


「次行ってみよー!オイっす~。」


この言葉を皮切りに、その場にいた全員が大声をあげて笑い出した。

式に参列していた先生方も、皆お腹を抱えて笑い出す。


一人大慌てで、何とか事を収集させようと翻弄している教頭らしき人物。

一喝してこの場を収めるだけの発言権があるはずの校長先生でさえ涙目になって笑い出した。


「よぉ宗人!さっきはありがとな!お前の機転の利いた咄嗟のギャグのおかげで恥をかかなくて済んだよ!さすが親友だぜ!お前はいつも俺のピンチを救ってくれるよな。」


本当、晴秋のプラス思考っぷりには僕も感心する。


「いやいやいやいや、確かに咄嗟に口から出てしまった言葉だけどさ、狙ってやった訳じゃないからな!!っか、どうすんだよ、この状況!あ~ぁ、もう滅茶苦茶!僕たち絶対に後で呼び出しだぞ。新学期草々やらかしちゃって、晴秋、僕は頭が痛いよ。」


そう思ったのもつかの間で、僕はさっきの子の事が急に気になった。

この状況だったらさすがの彼女でも笑っているだろう。


騒ぎに紛れて僕はあの子の事を目で探した。

同じクラスだ、すぐに見つかるはずだ!


右に左に後ろに前に。

僕は彼女の姿を探す。


「あっ!」


そこには静かに一人椅子に座り前だけを見つめる彼女の姿があった。

この状況下でも彼女の心を解きほぐすまでには至らなかったらしい。


なんだかとても切なくなった。


この騒ぎが収まったのはそれから10分程してからだった。

式が終了すると、僕と晴秋は教室には直行せず、担任の先生に連れられて校長室に連行。


停学って事は無いだろうけどさ、大目玉は覚悟した方がよさそうだな。

校長室に行く道すがら、僕はそんな事を考えていた。


校長室までくると、担任の先生がドアを三つノックする。

「1-A組担任、凪和以下二名参りました。」


そう言うと中から声がする。


「入りたまえ。」

僕らはそのまま校長室に通される。


いよいよお説教の時間だ。

覚悟はしていたが、少しばかり緊張するな。


校長先生は僕らを険しい顔で見る。

他の先生にはない独特の威厳と言ったらいいのだろうか?

または蛇に睨まれたカエル?


春だと言うのに背中にひと筋の汗が流れる。


ここは先に謝って反省しているという姿勢をみせ、事を出来るだけ大きくしない方向でいくしかな。

そう考えた僕は、校長先生が口を開く前に謝罪の言葉を口にする。


「大切な式の最中、あのような事になってしまった事、心よりお詫び申し上げます。申し訳ありませんでした!入学式初日という事もあり、浮かれていた事と、まだどこか小学生気分が抜けきらなかった自分を大変恥ずかしく思います。今後このような騒ぎを起こす事のないよう肝に銘じ、健全な中学校生活を送って行きたいと思いますので、どうかこの度に限り、寛大なご措置の程、よろしくお願い申し上げます。」


そう言って深々と頭を下げた。


「いや、ちょっと待ってくれよ。元々は俺が居眠りなんかしていたことが原因で、宗人には何の責任もない。それにあれは俺の事を思っての行動だ。俺がやらかさなければおこらなかった騒ぎだ。校長先生、罰するなら俺だけにしてくれよ。頼みます。」


そう言って晴秋も頭を下げる。


「まぁまぁ、二人とも取り敢えず頭をあげなさい。そんなんじゃ話も出来ない。えーと、堀川君と安部だったかな?君達に訪ねたい事がある。堀川君どうして君は彼のせいにしないんだ?彼の言う通り元々は彼がしでかした事で、君は関係ないはずだ。」


そう言って僕に視線を移し尋ねる。


「確かに彼が居眠りした事が事の始まりかもしれませんが、場を大事にしてしまったのは僕が放った咄嗟の余計な一言が原因です。決して彼一人の責任ではありません。それと怒られるついでに一つ言っちゃいますと、僕と晴秋はそれなりに長い付き合いです。友達が困っていたら見捨てる事なんて出来ませんよ。あの場合、皆に嫌な記憶として残るよりも、後々笑って思い出してくれる記憶になった方がいいかなーって。子供の出来心だったと思って、穏便に措置して頂けたら嬉しいです。」


怒られるのは避けられないんだから、嘘をついて取り繕うより色々ぶっちゃけた方がすっきりする。

人間、時には開き直る事も大切だよな。


「まさに断琴の交わりだね。久し振りに胸が熱くなったよ。ありがとう。しかし堀川君、私は今、中学一年生の少年と話しているとはとても思えない驚きを隠せないでいる。君はあまりにも大人過ぎる。なにもそんなに生き急ぐ事はない。もっと年相応に振る舞いなさい。誰かに甘えられる時間なんて、そうは無いんだから。ではね、そんな君達に中学生らしい罰を与えます。今日の放課後、校長室前の廊下を雑巾がけ10往復しなさい。それで今回の件は水に流そう。元から私は怒っている訳じゃないんだよ。ただ少し気になったからね。それに一応は形だけでも注意したって事を周囲に示さなければならないしね。長くなったが、入学おめでとう。私からは以上です。3年間と言う短い中学生生活ですが、一日一日を無駄にせず、青春を謳歌しなさい。では凪和先生後よろしくお願いします。」


僕らは今一度謝罪の言葉を述べると校長室を後にした。


1-Aに向かう間、担任である凪和先生にも謝罪する。

凪和先生は大変温厚な先生で、僕らのしでかした事に怒鳴るのではなく、諭すように優しく注意し許してくれた。


教室が近づくと、一瞬入るのを躊躇ってしまったが、晴秋は構わずズカズカと入って行く。

そして一言。


「オイっす~!」

その言葉だけでまた教室が笑いで騒がしくなる。


「今日は色々と迷惑かけて済まなかった。安部 晴秋だ、よろしく!あ、それとコイツは親友の堀川 宗人な。間違ってもチョーさんとか呼ばないでやってくれよ!」


またしても笑いが起きる。


「晴秋、勝手に自己紹介とか始めたらダメだろ!?あ~、今日は大切な日だって言うのに、とんでもない事しでかしちゃってすみませんでした。これからも晴秋がご迷惑をお掛けするかと思いますが、よろしくお願いします。」


進学校だからもっと固いのかと思っていたが、意外とすんなり受け入れてくれた。

皆いい人達で良かった。


気が付くと先生が困っていたので、僕らは適当に席に着くと端から順番に自己紹介と言う流れになる。

僕はそこでやっと彼女の名前を知る事となる。


「・・・神薙かんなぎ 美琴みことです。よろしくお願いします。」


おぉっ!と言う男子の声が響く。

その気持ちは僕にも判る。なぜなら彼女はこのクラスで誰よりも大人びて見えるからだ。


「おぃおぃ宗人!あの子超美人じゃね!?彼氏とかいるのかな?なぁ、どう思う?」


また晴秋の悪い癖が始まった。

ちょっと可愛い子とか見るとすぐこれだ!


「彼氏がいてもいなくても、少なからず晴秋には興味ないかもよ。だって今朝の教室での騒ぎでも、体育館での騒ぎの時でも、神薙さん笑ってなかったもん。」


そう言うと、晴秋はニタニタと僕を見る。


「ほうほう。宗人君はアレかい?普段は大人ぶって僕をバカにするけど、本当は密かに美人チェックとしてたんだね~。スケベ!」


そう言って僕を揶揄う。


「違うって!確かにさ神薙さんは美人だと思うよ。でもさ、少し気になるんだ。晴秋の言う異性として気になるって意味じゃなくてさ、うまく言えないけど、表情が無いって言うかさ。僕らと同じ歳だと思えない位大人びてるんだよ。」


そう晴秋に告げると、晴秋は笑い出す。


「宗人、気が付いてないみたいだから言うけどさ、お前と神薙ってそっくりだぜ。顔がとかじゃなくてさ、なんていうか、妙に大人な対応って言うかさ。校長も言ってただろ。近くでいつもお前と接している俺が言うんだから間違いないぞ。」


自分じゃ自覚なんてないんだけど、傍から見ると僕も神薙さんみたいにあんな感じなんだろうか?

そんな事を考えていると、見かねた晴秋がフォローを入れてくれる。


「ま、でも安心しろって!宗人は神薙程取っ付き難い感じじゃないからさ。」


神薙さんを見ていると、校長先生が言った言葉の意味が何となくだけど分かる気がする。


始まったばかりの中学生生活。

今日僕は生涯忘れられない出会いと経験をした。

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