イメチェン
暖かな日差しと優しい風が僕の頬を撫でていく。
このコミュニティ・スクールに通いだして二年目の春。
僕の心は少しずつ癒えていき、今では普通に誰とでもコミュニケーションがとれるまでに回復した。
晴秋はというと、暴力的な部分は残っているものの、以前よりも感情豊かで良く喋るようになっていた。
相変わらず友達はゼロだ。
あ、僕がいるから友達はゼロじゃない、1だ。
最近では、誰かが晴秋と何かあると、自然と僕が仲裁に立つことが常となっていた。
今ももめ事を仲裁したばかりだ。
「晴秋、気に入らない事があってもすぐ暴力に訴えちゃ駄目だよ。そんなんじゃいつまで経っても友達が出来ないよ。大抵の事は話し合いで解決出来るんだからさ。」
そう晴秋を諭すと、不貞腐れた顔で不機嫌そうに答える。
「宗人がいるから、別に友達なんていらねーよ。」
めんどくさそうにそう吐き捨てる。
「それじゃダメだよ晴秋。暴力で誰かを従わせても、そこから生まれるものは憎しみや悲しみだけなんだ。でも友達が増えれば、喜びや楽しい気持ち・嬉しい気持ちが心の中で膨らんでいって、毎日が自然と楽しくなっていくんだ。友達が沢山できたら、素敵な事がそれだけ沢山増えるって事なんだよ。時に必要な暴力もあるんだろうけど、それは正当な理由がある時だけだ。大切な何かを守る為とかね。僕らも来年は中学生になる。いつまでも子供じゃいられないよ。」
僕の言葉に頭を掻きむしる晴秋。
「あーもぅ!!宗人の話は難しすぎてよくわからないよ!お前は妙に大人びてるんだよ!お前こそもっと子供らしくしろよ!ついでに今話した事をもっとわかりやすく言ってくれ!」
気が短いと言うかなんというか。
晴秋はこういう事に直面すると癇癪をおこす。
これが暴力に繋がってしまう。
いわゆる負の連鎖ってやつだ。
「すぐに怒らず、相手の気持ちになって色々考えて。思いやる気持ちと笑顔さえ絶やさなければ、友達なんてあっという間に出来るものだよ。相手に嫌な気持ちを与えるんじゃなくて、楽しい気持ちを与える。そうすれば晴秋は間違いなく人気者になれる筈だよ。あ、女の子にもモテモテになるかもね!」
考えてみれば晴秋はマセガキだった気がする。
宝物だと言って、拾ったエロ本を見せてもらった事があるけど・・・。
なるほど、なるほど。
「本当か!?本当にモテモテになれるんだな!?」
僕の胸ぐらを掴むと少し興奮気味に尋ねてくる。
「離せ晴秋、苦しいって!」
お、悪い悪いつい、ね。
ってな具合で笑う晴秋。
「晴秋だったらさ、いつも不機嫌で誰彼構わず当たり散らす暴力的な女の子と、いつも笑顔で誰にでも優しい素敵な女の子だったら、どっちの女の子がいい?」
そう質問してみる。
まぁ、普通ならば後者を選ぶよね?
でも晴秋の答えは違ったんだ。
「両方だな!」
この答えにはいささかビックリした。
「どうして?普通なら優しい女の子の方じゃないの?」
僕はどうしてもこの答えを知りたくなった。
「だってさ、二人とも女の子じゃん。不機嫌な子には不機嫌な理由がある訳でさ、話してみたら素敵な子かもしれないじゃん!それと笑顔の女の子の方だけど、この子だっていつでもニコニコしてる訳じゃないだろ?不機嫌になる時だってあるだろ?つまりさ、俺から言わせればどっちも女の子って訳で、よく話もしないで二人に甲乙はつけられないって事。」
驚きを隠せなかった。
あの晴秋が、だ!あの晴秋がそんな事を言うだなんてさ。
うまく言えないけど、出来の悪い息子の成長が垣間見えて、ついホロっと涙してしまいそうになる親の気分だ。
「晴秋、そこまで人の気持ちがわかってるんだったら、なぜもっと皆と仲良くしないんだ!?今の晴秋なら簡単な事だろう!?」
するとまたもやめんどくさそうに答える。
「えー嫌だよ俺。だって対象が女の子だからそう答えたけど、男に興味ないし。」
駄目だ。
駄目過ぎる。
お前はどこぞのホストか!
さっきとは正反対に、ダメな息子のさらなる駄目さ加減に悲しくなっあ親の気分だ。
うーん・・・・。
「晴秋、女の子ってのはね、誰にでも分け隔てなく優しくて、時に面白く、頼りがいのある男の子が好きなんだよ。今の晴秋じゃ一生かかってもモテモテにはなれないよ!女の子に好かれたいんなら、笑顔を絶やさない、明かるく優しい男にならなきゃ!」
ダメ元でそう諭してみた。
「マジか!?でも確かにお笑い芸人とかモテモテだもんな!そうかそうか。俺に足りないのは面白さなんだ!中学生を目の前にイメチェンだな!よし、俺頑張る!」
この時の僕のアドバイスが良かったのか悪かったのか不明だが、この日を境に晴秋の性格は、少しずつ少しずつおかしな方向に変わっていくのであった。
晴秋ごめんよ~。