風が吹いてきた。
秦野駅南口からどれくらいだろうか?
神薙さんの後について多分、15、6分ってとこだと思う。
神社は分かりやすく言うと、県道62号線を少し奥に入ったところと言った方がいいか。
その辺を歩いていると、至る所に案内が出ている為、そうそう迷うことはなさそうだ。
神社に近づくと、遠くからでもわかる大きな鳥居が見えた。
「おぃ!すげぇデカい鳥居だな!?」
晴秋から漏れた言葉に、僕も頷く。
意外にも住宅地の中に突然現れた神社だけど、違和感は感じない。
「なんかさ、うまく言えないけど凄いね!こう、神聖な気持ちになるって言うかさ。」
そんな事を話しながら鳥居の前で一礼すると、中心を避けて左わきから鳥居をくぐる。
少し歩くと左側に湧水らしきものが見えた。
「神薙さん、これって何?」
竹から滴り落ちる水を指さしながら神薙さんに問いかける。
「それは一貫田湧水って言ってね、ほらそこの右手にある玉垣あるでしょ。その奥には遊水地があるの。水の街秦野って言う位だから結構湧水がこの辺は豊富なの。で、これは手水舎も兼ねててね、勿論飲み水としても問題ないし、近所の方々はよくお水くみに来るのよ。」
笑顔でそう教えてくれた。
その手水舎のすぐ先にもう一つの鳥居がある。
それは入口の鳥居より大きくないが、両脇にどこか風格のある顔で並び立つ親子の稲荷がとても印象的だった。
「二人とも知ってる?神社に訪れた時に、その人が神様から歓迎されているかどうか知る方法があるのよ。」
少し悪戯で、でも優しい笑顔で僕と晴秋に話しかける。
「なにそれ!?神薙ってそんなのわかるの!?教えて教えて!しかしスゲェのな。神薙って本物の巫女さんみたいだな!」
いや、本物の巫女さんだから!
心の中で晴秋に対してツッコミを入れつつも、僕もその話には興味がある。
こういった神聖な場所を訪れるのなら、誰だって神様に歓迎されたいはずだ。日頃の行とか、も関係してくるんだろうけど、知ってて損する話じゃないし。
「僕も凄く気になる!どうやったらわかるの!?」
まるで小学生みたいにキラッキラした目を輝かせ、二人で神薙さんに視線を向ける。
「例えばそこの鳥居。くぐった時に天候が変わるとか、参拝中も同じ事が言えるの。雨や雪が降ったり、止んだり。葉っぱや花が降ってきたりとかも神様から歓迎されてるってサインなのよ。後は手を合わせている最中に拝殿の方から風を感じたり、石が飛んできたりするのは天狗のつぶてと言ってこれも歓迎されているサイン。そして最も歓迎されていて良い現象が、参拝後の雨。これを禊ぎの雨って言って、神様が喜んで迎えてくれている証拠なんだって。」
何だかとても深い話を聞いた気がした。
神社って言うのは困った時の神頼み的な場所で、神様に歓迎されてる云々なんて考えた事もなかった。
「どうせ参拝に来るなら神様に歓迎されてーよな!スゲェ面白い話が聞けてラッキーって感じだな!サンキュー神薙。なんかさ、俺一つ賢くなった気がするわ。」
晴秋の賢くなった云々は置いとくとしても、為になったのは確かだ。
「自分にとって凄く為になる知識となったよ!なんかいいよね、そういう話!僕はすごく好きだよ。」
そんな事を話していると、少し離れた社務所からニコニコと笑顔で人が出て来た。
「やぁ、いらっしゃい!」
僕はそれが誰なのか直ぐにわかった。
「突然お邪魔して申し訳ありません。本日より美琴さんと同じクラスになりました堀川 宗人と申します。こっちは僕の幼馴染で同じクラスの安部 晴秋です。見た目は少しアレですが、決して悪い奴じゃありませんし、ましてや娘さんを拐かす悪党でもありませんのでご安心下さい。」
一気にそう告げると、神主さんは益々笑顔になって、僕ら二人を歓迎してくれた。
「あっははは。いや、失礼!娘がさっき電話で友達とご飯食べてくって言うんでね。その相手が男の子だって言うのには二重で驚かされたけど、君たち二人を見て安心したよ。堀川君、君は実に誠実そうだ。そして何処か娘と同じ匂いがする。安部君は見るからにヤンチャなイメージだけど、曲がった事は嫌いって目をしてるね。娘がね、友達を連れて来るなんてすごく珍しくってね。普段私の前でもあまり感情を矢面に出さないから少し心配していたんだけど、先程のやり取りを見ていて私は安心したよ。それと久し振りに娘の年相応な笑顔を見ることが出来てとても嬉しい。どうかこれからも仲良くしてやってくれるとありがたい。」
それはちょっと僕の偏見かもしれないけど、神薙さんのお父さんは神主と言う立場で、僕らなんかより数段人生経験豊富だろう。娘の同級生の僕らに何のためらいもなく頭を下げる姿に少し驚いた。誠意のある優しい心の持ち主何だろうね。神主さんてもっと厳しくて怖い人ってイメージだったけど、この瞬間それは払拭された。
今ここにいるのは名誉ある神社の神主じゃなくて、一人の娘を持つ、いち父親なんだろうな。
「こちらこそ。若輩故ご迷惑をお掛けする事が多々あるかと思います。その時はどうかご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。」
そう言って僕も頭を下げた。
「ちょっと宗人挨拶固すぎ!それじゃまるで結婚の挨拶をしに来た私の恋人みたいでしょ!それとお父さんは変な事言わない!余計な事話したら今夜夕飯抜きだからね!それと晴秋!そんなに何回も何回もおみくじ引かないでよ!後で補充するの私なんだから!おみくじってのは一回だけ!大吉が出るまで何度も何度も引くようなもんじゃないの!」
急に声を荒げたそんな神薙さんがとても珍しくって、僕も晴秋も神主さんも声を出して笑った。
気が付くと風が吹いてきた。
近くで咲く桜の花びらが綺麗に舞い散った。
さっき神薙さんが話してくれた事が頭を過ぎった。
どうやらこの神社の神様は、僕らを歓迎してくれたみたいだ。
僕は心の中で感謝の言葉を一つ述べた。




