絆
さすが小田急だね。秦野駅まであっという間だった。
僕は常々思う訳さ、シルバーの車体にブルーのラインは伊達じゃないってね。
僕は鉄道オタクでもなんでもないんだけど、見慣れてるだけあってどこかホッとするね。
たまにJRなんか乗ると全然落ち着かない。
小田急最強だろ!
そんな事を考えていると、晴秋が声を掛けてくる。
「腕組みして黙ってうんうん頷いてるけど、どうしたよ?秦野着いたから降りようぜ?」
どうやら僕は自分一人の世界に入っていたらしい。
「ゴメン。小田急の偉大さについて色々考えてたら、ついね。小田急てさ、他の路線と比べると美しいよね!ガ〇ダムで言うとこの〇ャー専用的だと思うのは僕だけかな?」
ちょっと呆れ顔の晴秋に急かされ電車を降りる。
「いや、それを言うなら間違いなく7000形ロマンスカーこそ〇ャー専用と言えるんじゃないか?そりゃ~小田急が偉大なのは俺も認めるよ?でも1000形は例えるなら量産型ザ〇だろ。そこは譲れねーな。7000形はカラーも赤だし、間違いないだろう?」
まぁ、感じ方は人それぞれだからとやかく言うつもりはないけど、晴秋がちょっと真面な意見を口にした事に僕はビックリした。
「ねぇ、二人とも行かないの?」
僕らの少し先で歩みを止めて振り返る神薙さん。
「ゴメンゴメン。つい小田急線について熱く語りたくなっちゃったからさ。」
そう?首を傾げながら小さくそう呟くとまた歩き出す彼女の後を慌てて歩き出す僕と晴秋。
自動改札を抜け南口に向かうと、そこにはアートが広がっていた。
「神薙さん神薙さん、秦野駅の南口って凄いね!?オブジェがさ!凄いね!」
柄にもなく大はしゃぎしてしまった。
秦野に来たのは初めてじゃないけど、南口に降り立ったのは初めてだ。
思い返してみると、秦野は神奈川県の中でもお洒落度が高い街だと思う。時計塔とか街灯とかどれもこれも素敵に見える。
北口がメインになる街なんだけど、とても理想な街だと言える。
高層な建物が立ち並ぶ都会かと思えば、中央を流れる水無川の透き通った美しさ。
自然と人工物が絶妙なバランスで成り立っている。
駅北なんかは、まさに駅そのものがアートで、兎に角至る所に巧みに曲線が施してある。
階段一つにしろ末広がりで、立ち止まってその姿を見ると、それはまるで一枚の絵のようだ。
「堀川君子供みたいに燥ぐからビックリしたけど、正直安心したわ。なんか堀川君に対する私の第一印象って達観的というか、見た目とは裏腹に凄く年上な感じがして。話し方や考え方なんかもどこかとても大人びていて、うまく言えないけど近くにいるのに遠くに感じると言うか。でも今の堀川君を見て、あ、この人は私と同い年の男の子なんだって感じがして、とても近くに感じたわ。」
駅前ロータリーで落ち着きなく燥ぐ僕を見て、さっきよりももっと柔らかい笑顔でそう言った。
近くに感じたと言われてとても嬉しかった。僕は彼女のその顔が見たかったのだから。
傷つけてしまうかもしれないから敢えて言葉にしないけど、僕も神薙さんと同じ事を感じていた。
「俺も正直、時々こういう宗人見ると安心するよ。宗人っていつもどこか悟り顔って言うかさ。発言や行動が大人過ぎてたま~に心配になる時があるんだよな。なに生き急いでんの?ってね。同時に一緒にいる自分があまりにも子供じみて感じる時があってさ。そういう時は少し凹む。コイツの足引っ張ってねーか?とか。宗人との付き合いは結構長くってさ、コイツって昔っから変に大人って言うか、ずっとこんなんなんだよね。もしも宗人と出会わなければ俺は凄くグレてたと思う。多分、こうやって神薙と話す事もなかったかもしれない。だから宗人にはスゲェ感謝してるの、俺。」
突然の晴秋の言葉に少し恥ずかしくなった。
でも晴秋がそういう事口にするなんて思ってなかったから、ちょっと嬉しかったりもする。
「いや、晴秋はもう十分グレてるから、その辺は間違わない様に。しかし、なんだかよく解らないとてもこそばゆい展開になって来たけど、何だかとても嬉しいのは事実。結構口うるさく晴秋に説教じみた事言う事が多いから、そういうとこ直さなきゃとか思ったりさ、でも本音で話せるのは晴秋だけだったりする。僕と違って積極的な所なんかは凄く羨ましくもあるしさ。オシャレ番長的な所はどうかと思うけど、何だかんだでこうして僕とマブダチでいてくれる事に凄く感謝している。神薙さんはどこか僕と同じ匂いがしてとても気になったんだよね。第一印象は僕も晴秋も同じ。多分クラスの男子全員が思ってる事を代表して言うなら知的な美人。僕らが起こした騒ぎの中、全然笑わない神薙さんに驚いたし、絶対笑顔を見てやる!って密かに思った。まだ知り合って間もないけど、その短い時間の中で色々な神薙さんを見る事が出来た。意外な一面とか。あ、二回も笑顔を見れたのは嬉しかったな。」
何かちょっと変な空気になったが、嫌な雰囲気ではない。
「そういう事は思ってても口にするなよな~。恥ずかしいだろ。っか、一番最初に神薙の事美人だと気が付いたのは俺だけどな。そしてそれは宗人が言う通り、紛れもなく男子全員が思ってる事。満場一致ぞ!」
それは神薙さんも晴秋も同じなんだと感じた。
「そうやって面と向かって言われると凄く恥ずかしいけど、友達ってさ、とってもいいね!言いたい事を言い合える。同じものに共感できる。それを今更ながらに今日知った。私は昔からこんなんだから全然友達が出来なくてね。今思うと近寄りがたいと思われてたんだと思う。本ばかり読んで知識はそれなりにあるけど、人とコミュニケーションを取る方法を知らなかったの。でもそれは全然苦痛じゃなかったし、人付き合いが苦手な私から言わせれば、楽だった。でもそれは今朝までの私で、今は二人にとても感謝している。安部君にマブダチって言ってもらえたし、堀川君ともそうなれた。今日久し振りに心から笑った気がする。本当のマブダチがどういうものか?それはまだよくわからないけど、私は今日の日を一生忘れない。堀川君、安部君。私なんかに声を掛けてくれて、友達になってくれてありがとう!そしてこれからもよろしくね!」
友達って言うのは凄くいいものだね。
人間なんて完璧な奴なんて一人もいやしないから、気が合う仲間が集まって互いに互いの弱い部分を補っては支え合う。でもそれは何物にも代えがたい大切なものなんだ。だから僕は今目の前の二人に語り語り掛ける。
「僕はさ、神薙さんに色々と曝け出した時点で、もう神薙さんをマブダチと認識している。だから今この瞬間から晴秋と同等の接し方をしたいと思う。神薙さんも僕らには遠慮しないでなんでも話して欲しい。僕はそれに対して笑ったりさげすんだりなんか絶対しない。一人じゃ解決できない事は一人で抱え込まない事。迷惑かける事もあるかもしれないけど、これからよろしくね。」
その言葉を聞いた神薙さんの瞳には、薄っすらと涙が溜まって見えたが、それ以上にとても素敵な笑顔で笑って頷いた。
「でさ、そろそろ堅苦しい呼び方止めねー?俺の事は晴秋で頼むよ。宗人もその方がいいだろ?やっぱマブダチなんだからよ、気楽にいこぜ!神薙OKか?」
そう言うとちょっと照れながら僕らの名前を小さな声でつぶやくんだ。
「・・・晴秋君。・・・宗人くん。ちょっと恥ずかしいね。」
はにかんだ笑顔で、舌を小さく出して悪戯に笑う神薙さん。
「違ーう!!晴秋と宗人!OK?リピートアフターミー?」
最初はどこか恥ずかしそうにもじもじしていた神薙さんも、意を決したのか、秦野駅から神社に向かう道中には僕らを下の名前で呼べるまでになっていた。
途中通りかかった今泉名水桜公園に咲き誇る桜の美しさに心奪われる場面もあったが、僕らは本来の目的地である、神薙さん家の神社に到着したのだった。




