小田急線で秦野へ
うらちょう商店街を後にした僕らは、小田原駅に向かって歩き出す。
結構な量のラーメンを食べた後だけに、正直歩くのもシンドイ。
「おぃ二人とも、もう少しゆっくり歩いてくんないか?こうも淡々と先を急がれちゃうと、ぶっちゃけリバースしそうだわ。っかよ!神薙は大丈夫なのか!?」
晴秋が僕らの少し後ろで結構厳しそうだ。
「安部君大丈夫?なんだったらそこの喫茶店で少し休んでいってもいいわよ。多分、ケーキ位なら私イケると思うわ。」
涼しい顔でケロッと答える神薙さん。
「おま、おかしいだろ!あれだけ食っておいてケーキ位ならイケるとか!?俺は明日までなんも食わなくても平気だわ。どうなってんだよ、その胃袋は!」
正直この発言には僕も驚いた。
その細い身体の何処にあれだけの量のラーメンが収まっているんだろうか?
しかもまだケーキを収めるスペースがあるとか!驚愕の事実だ。
「よく言うじゃない。甘いものは別腹って。」
女の子は確かによく言うね、そのセリフ。でも幾ら何でもこの状況で別腹はないでしょ!
「別腹とかさ、無理だろ!っか無理を通り越してもはや無茶だわ!頼むからそんなチャレンジしないでくれ。っか、アレか?神薙はひょっとして前世は金魚かなんかか?お腹がいっぱいって概念は存在しないの?もうね、今もしも神薙がケーキ食ってる姿を目の前で見させられたら、間違いなく俺はマーライオンするわ。っか今は食べものなんか見たくねぇーから勘弁してくれ!」
お腹を摩りながらしかめっ面で嘆く晴秋。
「まぁまぁ、兎に角小田原駅まで歩こうよ。でさ、一つ提案なんだけどこのまま神薙さん家の神社まで着いて行ってもいいかな?実は僕、結構神社好きなんだよね。お稲荷さんを祀ってる神社ってこの辺じゃ珍しいしさ。ダメかな?」
二人の間に立ち、僕は神薙さんに提案してみた。
「私は別に構わないけど、特にこれと言って面白いものはないわよ?」
「いやいや神社に面白いものなんて求めてないし!と言うか、本当に純粋に神社が好きなんだ。なんかさ、気持ちがとても落ち着くんだよね~。」
キラッキラと目を輝かせているだろう僕の隣で、晴秋は少し呆れ顔。
「でたよ。でましたよ!宗人の神社好き。コイツさ、こう見えて結構なスピリチュアルオタクなんだわ。パワースポットがどうとかさ。あ、ほら小田原本町の方に松原神社ってあるじゃん。吉兆の大亀の話で有名なね。あそこなんかは宗人のかなりのお気に入りスポットなんだぜ。」
晴秋の話に、へぇ~ってな感じの顔で聞き入る神薙さん。
「スピリチュアルオタクは言い過ぎにしても、そう言った神聖な場所は好きだよ。神社なんかはさ正しく神様の住む社って感じで、僕の中の邪なものが浄化されるような気がするんだよね~。と言うわけで、是非僕ら二人をご案内よろしくお願いします!」
神薙さんは、変わり者でも見る様な顔でコクンと一つ頷いて了承してくれた。
「おぃおぃおぃおぃ!俺も一緒に行くのかよ!?俺はお腹いっぱいでそれどころじゃねーっての。出来る事ならこの場で寝転がってグータラしたい位だって言うのにさ。」
気持ちはわからないでもない。しかし僕にはそんなダメダメな晴秋をやる気にさせる魔法の言葉があるのだ。僕は晴秋の近くまで寄り、小声で話しかける。
「晴秋さ、さっき神薙さんの巫女姿見たいって言ってたよね?アレ、神社に行けば見れるんじゃないの!?しかも神薙さんはかなりの美人ときている。想像してみなよ晴秋。あれだけの美人が巫女服を纏って竹ぼうきで掃除する姿を!なかなか拝めないんじゃないの?僕はさ、なにも自分が神社に行きたいがためだけに言っている訳じゃないんだ。そりゃ~半分位はそういう気持ちが無くわない。でもさ、残り半分は晴秋の事を思っての提案なんだよ。言わば僕の優しささ。バファ〇ンの半分は何で出来ている?優しさで出来ているよね。じゃあ、残りの半分何で出来ているか晴秋は知ってるかい?」
僕は言葉巧みに晴秋をたたみかける。
「いや、バファ〇ンの残り半分が何で出来ているか興味ねーし。そもそも俺はロキ〇ニン派だ。」
マズいな。普段の晴秋なら空腹の池の鯉の如く喰いついてきているはずなんだが、如何せんタラフク飯を食った後で、欲望よりも食後の気怠さが勝っているとみえる。このままじゃ晴秋を丸め込めない。
「いいか晴秋、バファ〇ンのもう半分は厳しさで出来ているんだ。でもさ、優しさ半分の厳しさ半分じゃさ、どうなのよ?それじゃ互いを相殺しているだけなんじゃないの!?たまにはさ、あってもいいんじゃないの?優しさ100%のバファ〇ンが。僕は神社で神様を拝み、晴秋は巫女装束に身を包んだ美人の神薙さんを拝む。これが俗にいうWIN=WINの関係ってやつで、これこそが100%優しさで出来ているバファ〇ンなんかじゃないのかと僕は思っている。ついでにさ、境内の掃除とか手伝ってみなよ。神薙さん、間違いなく晴秋にコロッと行っちゃうぜ?しかもこの噂が学校内に知れ渡ったらどうだろうか?もう学校中の女の子は晴秋のモノと言っても過言じゃないよ!僕はさ、陰ながら晴秋のモテモテライフを応援したいと常々思っていた訳。晴秋の幸せは、僕の幸せ。こんなところで漸く晴秋の役に立てる時が来たんだね。余計なお世話と思われてしまうかもしれないけど、言うなればこれは僕の親心みたいなもんさ。受け取ってくれないか?」
さぁ来い晴秋。
これだけ美味しそうな餌を目の前にぶら下げたんだ、幾ら満腹状態の晴秋だってなんらかのリアクションがあるはずだ。僕は小さな当たりだって見逃さない!和田河原の釣りキチ〇イ三平太と言われた僕さ、小田原のヌシ、自称オシャレ番長晴秋を必ず釣り上げてみせる!
「・・・宗人、俺は今猛烈に感動している。そこまでお前が俺の事を思ってくれていたなんて・・・。お前が俺の親友で良かったよ。このチャンス、必ずモノにしてみせる!じっちゃんの名にかけて!!」
今回は少し手間取ったが、晴秋が単純で本当に良かった。
「って事で神薙、俺達をおまえん家神社に連れてってくれよ。何だかんだで俺達友達になった訳だしさ。友達の事は色々知っておきたいし、出来る事があれば力になりたいと思う。でもさ、いきなりそう言うのって土足で人の心に踏み入るみたいでどうかと思うからさ、まずはさ、境内の掃除の手伝いから始めてみるのも悪くないかと思う。それにちょうどいい腹ごなしにもなるしな。友達である前に俺も男だ。少しくらい頼ってくれてもさ、いいんだぜ?」
何だか歯の浮きそうなキザッタらしいセリフを吐く晴秋を横目に、僕は神薙さんへと目をやる。
「小田急線でここから八駅。秦野は少し遠いけど二人とも平気?」
僕らは顔を見合わせ笑顔で頷いた。
「じゃあ、行きましょうか。」
僕らは駅で切符を購入すると、神薙さんの実家である稲荷神社に向かった。




