第8話 地雷源
1時間後…。
ブラフ陸軍基地
森林訓練所
「もう大丈夫そうだ」
岩影からギルが周囲を確認しながら言う。周りは薄暗い森の中。無我夢中で走ったためどうやらかなり森の奥まで来てしまったようだった。でも迫撃砲の攻撃は止まり、辺りは静けさを取り戻した。ギルは安全を確認し岩の裏に戻った。裏にはハンクが自分の腕の火傷を治療をしていた。
あの迫撃砲の攻撃から逃げる際にハンクの戦闘服の右腕に白燐が少し付着してしまったのだ。ハンクはとっさに右腕の服を破き、事なきをえた。しかし腕に火傷を負った。
「畜生、痛てて…」
腕の白い毛並みは茶色に変色し、下の皮膚は赤く爛れていた。ハンクはとりあえず火傷の部位に水筒の水をかけて洗い流す。幸い毛皮のお陰で皮膚の火傷は酷い状態にはならずに済んだ。洗い流し終えるとハンクは腰に着けたバッグパックから軟膏を取り出し、軟膏の蓋を開けて出す。軟膏を火傷にまんべんなく塗り込み包帯をぐるぐると巻いた。
「大丈夫か?ハンク」
「あぁ、何とかな…でも装備品の中に医薬品が有って助かったぜ」
ハンクの言う通りバッグパックには実際に兵士達が使う装備品が詰められていた。試験でこれだけの装備を使用するのはまずあり得ない。だがこの試験は普通ではなく、何が起きてもおかしくはない。今回試験に参加した人数は二人を含め100人だ。
さっきの広場には死体が10体しかいなかった。あの迫撃砲の嵐を生き残った連中がまだいるのだろうかとギルは思った。ハンクが包帯を巻き終えると辺りを見回し始めた。
「ギル、ここは何処だ?」
ハンクの問い掛けにギルは自分のバッグパックに手を入れ、方位磁石と地図を取り出し、地面に広げた。地図は赤と緑と黄色の三色で分けられた変わった物だ。
「俺達がいるのはこの森でさっき迫撃砲の攻撃を受けたのがここさ。」
ギルが地図の赤い部分を指差した。そこには"第2砲撃訓練所"が書かれていた。しかも試験のルートに重なるではないか、これではまともに迫撃砲をもろに食らってしまうはずだ。
「くそ、このルートを考えた奴はイカれてるな」
「次のルートを歩いていくとここだな」
ギルが試験のルートをなぞっていくとまた赤い部分に重なった。ハンクは唖然とした。
「おい、ここってまさか…」
「そうだ。地雷源を歩く事になるぞ」
赤い部分には"第3地雷訓練所"と書かれている。
「とにかくこの試験をやりきるしかないな。行こう」
「クソッタレ!最悪な1日だ」
ハンクが地面を殴り付けた。その時、また爆発音がした。それも悲鳴も聞こえる。ハンクとギルはお互いの顔を見ると、爆発音がした方向へ急いで走りだした。
「あ…ああ」
一人の犬族の青年が立ち尽くしていた。周りにはさっきまで一緒にいた仲間達が彼の足元に倒れていた。それもバラバラ死体になって。青年はその場から後退りし始めた。
"カチ"
何かを踏んだ音。青年は恐る恐る下を見てみるとそこには丸い鉄のようなフタがあった。だがそれはただのフタではなく、仲間達を死体に変えた地雷だ。青年は恐怖のあまり身動きが取れなくなってしまった。
(死にたくない…神様!)
青年は涙を流し、必死に祈った。助かりたい一心で祈った。
「おい、まだ生きてる奴がいるぞ!!」
青年は前を見上げるとそこには二人の白狼族の男が現れた。
「待ってろ今助けてやる!」
ハンクが青年のいる場所へ行こうとした時ギルが制した。
「ギル!何すんだよ!?」
「ハンク、よく見ろあいつの足元を」
ギルに言われハンクは青年の足元を見た。そこには地雷があった。それも威力の高い対人地雷だ。