第5話 フリーランス
3日後…。
首都ピマン 大通り宿屋
宿屋は最悪な物もあれば最上級の物もある。この大通りにある宿屋は普通だった。大通りに面しているため多くの商人や旅人が入るためある程度のサービスは充実している。その一つでルームサービスで食事を運んで来るのは当たり前だが注文する量が倍だったらどうだろうか?
ある客からの注文で肉料理中心の注文を受けたボーイが厨房に行くと大量の料理が乗ったカートがあった。獣人の客からの注文だとコックから聞いたボーイが100k近い重さの料理を部屋に運んで行った。
カートがギシギシと悲鳴をあげている。ボーイは壊れないか不安になったがなんとか目的の部屋に着いた。
「すいません。注文の料理を届けに来ました。」
ドアをノックすると一人の背の高い上半身裸の狼族の男がドアを開け、顔を覗かせた。
「お、来たな。」
ハンクは料理が乗ったカートを中に入れるとボーイに金貨を3枚渡した。
「ほれ、チップをやるよ。」
「え!?そんな受け取れません。」
ボーイは困り果てているとハンクはボーイの手に無理矢理乗せ、握らせた。
「良いじゃねえか小遣いだよ小遣い。」
ボーイは少し笑顔でそれを受けとると足早に立ち去った。ハンクはドアを閉めるとカートを部屋の中心に移動させ置いた。ハンクはベッドを椅子代わりにして座り、食事を食べ始めた。
分厚い肉を口に入れて噛み砕き、狼族特有の突き出た口の端から肉汁が溢れた。ガツガツと食べる音が部屋に響く。カートにある料理を次々とたいらげてるとあっという間に無くなっていく。するとベッドの上に置いた無線機から着信音がなった。ハンクは食べるのを止めると紙ナプキンで手を拭き、無線機を取った。無線機の通信ボタンを押すと耳に当て話始めた。
「もしもし?」
「おぉハンクか?ワシだリーだ。」
「リーか、どうした?」
ハンクは無線機を片手で持ちながら残った料理を食べる。
「お前さん、貨物船人質事件は知っとるか?」
ハンクは食べながら言った。
「あぁ、2カ月以上も占拠してたって話だろ?確か軍の部隊に制圧されたって聞いたぞ。」
無線機越しにリーが少し笑った。
「惚けるな、お前さんも解るじゃろ。あれはワシらワイルドギース傭兵団がやったんじゃ。」
ハンクは小骨をくわえながら言った。
「冗談だ。で?何で百戦錬磨の傭兵団の参謀が俺みたいなフリーランスに連絡したんだ?」
「実はな聞きたいことがあるのじゃよ。」
ハンクは小骨を口から離し皿に置く。リーが本題を話を始めた。
「その貨物船を占拠した海賊どもがある兵器を持ち込んでな。その…どう説明した方がよいか。」
「何だ話してくれ。」
ハンクはワインの入った瓶をらっぱ飲みしながら言った。
「帝国製のガンドストーカーじゃよ。」
ハンクはワインを飲むのをやめた。
「ガンドストーカーだと?馬鹿なあれはそこらの海賊連中が買える代物じゃねぇぞ!?」
ハンクは瓶をテーブルに乱暴に置いた。それもそうだろう。ナチルファウスト帝国が開発したガンドストーカーは1機で戦闘機30機分の予算がかかる。5000機以上作られたと言われているが実際は虚偽も多く、500機しか作られなかったのだ。
「そう怒鳴るな…。耳に響く。」
リーが無線機越しに辛そうに言った。
「わりい、ついついかっとしちまった。」
ハンクは豪快に笑った。
「まったく、それでお前さんにそんな兵器を売ることが出来る武器商人を知らないか聞きたかったのじゃよ。」
ハンクは少し考えた。
「爺さん、いくら俺でもそんな奴知らねぇな…。ブラックマーケットでもそんな代物置いているかどうか。」
ハンクは自分で使う武器は知り合いの武器商人から購入している。それも自分が決めた商人しか買わない。
(ブラックマーケットは当り外れがあるため最悪の場合しか利用しない。)
「ハンク、海賊どもの話だとその兵器は武器商人から無償で提供されたそうだぞ?」
「何だと?」
"無償で提供"ハンクは耳を疑った。無償で提供するとはいえ数百億する魔導兵器。どれだけお人好しの武器商人何だろうかと思った。ハンクは笑うしかなかった。
「ハハハ、マジかそれは驚きだな。…悪いがリー、俺は力になれそうもないな。」
「そうか…わかった何か分かれば連絡してくれ。それとそっちの依頼は片付いたのか?」
「あぁ、無事に完了した。証拠も手に入ったし。」
ハンクは近くにあるバックを叩きながら言った。
「近々そっちに報告に戻るよ。ボスによろしく。」
「ボスに伝えとく。それでは。」
リーが通話を切った。ハンクは無線機をベッドの上に投げると窓の方に歩いていく。カーテンを開けると日差しが入り込んできた。葉巻をくわえ火を点けると煙を吐き出しながら言った。
「まだあの"戦争"は続いているんだな。20年も経ったのに。」
ハンクは首もとに下げた小さなプレートを見た。プレートには剣をくわえた狼が描かれたマークがあり、そのマークの下に"ワイルド・ウルフ隊"と書かれていた。ハンクはプレートを握ると再び部屋の中に戻った。