第3話 白い悪魔
酒場外
入口の前には二人の男が店に入る客に眼を光らせており、男達は魔導銃を持って武装しているためか客は何事かと思って見ていた。すると男が一人が遠くから薄汚れたポンチョを被った大男が歩いて来るのに気づき、もう一人の男に言った。
「なあ…あいつ。」
「ああ。」
男達は頷くと歩いて来る大男に声をかけた。大男はそれに気付き、足を止めた。
「おい、何の用だ。ここはバルバファミリーが貸し切ってんだよ!」
「悪いことは言わねぇ、帰りな。」
男達が警告をすると男は少し上を向いた。
「そうか…。だったら参加させてもらおうか俺も。」
「あぁ?何ほざいてんだよ!」
男の一人が魔導銃の先に付いている銃剣を男に刺そうと襲い掛かった。しかし男の攻撃をかわし大男は男の魔導銃を掴み、いつの間にか取り出した大振りの鉈で男の首を切り落とした。切り落とした部位からおびただしい血が吹き出し大男の被っているポンチョを汚した。
「キャアアア!」
「こ、殺しだぁー!」
その光景を見ていた周りの人々が悲鳴を上げた。残ったもう一人の男は魔導銃を大男に向けて構えていた。
「てめえ…やりやがったな!?」
男は怒りに震えており、今にも発砲してしまいそうだった。だが大男はそんなこと気にせず冷静に男の顔を見た。
「ん?攻撃してきたら反撃するのは常識だろ。何か問題あるか?」
大男は血が滴る鉈を持ちながら男に近付いてきた。男はそれ以上近づくな!と叫んだ。だが大男は止まる素振りはない。
「来るな、来るなあああああ!!」
男は魔導銃の引き金を引くと火炎の魔力を込められた弾丸が鈍い音と同時に発射された。でも大男に当たることはなかった。なぜなら大男は2m近い巨体なのに素早く動き、男の持つ魔導銃の引き金と手を握り潰し上に向けたのだ。
男は悲鳴を上げた。大男は一旦、手を離すと今度は男の顔を掴みかかった。大男より少し小さい男はそのまま持ち上げられた。男は掴まれている手の隙間から大男の顔が見えていることに気付いた。火炎の弾丸は大男の着るポンチョの頭部を焼いたようでその素顔が丸見えだった。そこには白い毛並みの狼の顔がニヤニヤしながら見ているではないか。
狼はそのまま男の顔を握り潰した。潰した途端脳髄と血が飛び散り狼の手を血に染めた。周囲から悲鳴が響いているが、狼はそれを気にしなかった。
その騒ぎは酒場の中まで聞こえていた。店内にいた客が騒ぎ始めているのを豚と商人が気付いた。
「まさか…あいつが?」
「噂をすればさっそくきたか。」
恐怖に震える商人をよそに豚は落ち着いていた。すると酒場の入口の扉がゆっくりと開くと、あの狼が入ってきた。客達はまずいことになると思い、慌て酒場から逃げ出していく。酒場は静かになった。
「ほう、流石白い悪魔と呼ばれる程だな。見事だと褒めたいぜハンク・ギードルさんよ。」
豚にそう呼ばれたハンクは溜め息を付きながら言った。
「まったくもっと別の所で取引してくれよ。お陰で俺のドレスが台無しだ。」
ハンクが皮肉を言うと豚は笑いながら言った。
「ブヒヒヒ、こんな状況でよく冷静で居られるな?おい、お前ら出てこい!」
豚が合図を出すと酒場の奥から次々と男達が入ってきた。100人ぐらいだろうか、ハンクを囲むように魔導士、剣士、魔導銃を持った連中もいる。
「ほぅ、結構居るんだな今日は。」
「クク、ギルドの連中を買収して俺様の手下にしたのさ。どうする流石の白い悪魔もこれだけいれば手も足も出まい。」
豚は笑いながらハンクを見た。だがハンク少し苦笑しながら言う。
「どうやら全員死にたいようだな。辞めるなら今のうちだぞ。じゃなきゃ俺は止まらん。」
「どうやら最後に言いたいのはそれだけのようだな?お前ら、殺れ!!」
男達はハンクに向かって突っ込んきた。ハンクはうつ向きながら小さい声で言った。
「後悔しても遅いからな…。」
するとハンクは被っていたポンチョを脱ぎ捨てると、前にいた男達に投げ捨てた。背中に背負っていたバックから二挺のサブマシンガンを素早く出し、引き金を引いた。マシンガンから次々と弾丸が発射され、目の前にいた男達を蜂の巣にした。
「な!?」
豚は驚いたが、数はこちらが上。問題はないと思った。倒れた男達の後ろには魔導士と銃士がいた。ハンクは魔法と弾丸を避けて、スライディングをしながら銃を撃ちまくった。
「グェ!」
「うわあ!」
「ワカメ!」
魔導士と銃士は血を吹き出し、倒れていった。ハンクは素早く立ち上がると酒場のカウンターに飛び込み銃を撃とうとしたが弾切れになってしまった。
「いいぞ!奴の銃は弾切れだ!」
男達はカウンターに向けて突っ込んきた。だが男達は勢いよく炎に包まれ叫びながら倒れていった。男達は何が起こったか解らずハンクを見た。手には単発式の グレネードランチャーが握られていた。ハンクはランチャーから薬莢を排出するとバトルコートの弾薬ポーチから白い弾頭のグレネード弾を取り出し、ランチャーに装填した。
「今日は焼肉食べ放題だな。」
再びランチャーの引き金を引くとグレネード弾が発射された。グレネード弾は男達の目の前で爆発し、大量の炎が男達に襲い掛かった。