VOL.5 俺とあいつとオムライス。
その後俺はむさぼるようにただひたすらに寝た。
出来ることなら全てを忘れてしまいたかった。
お袋のことも、そしてあの女のことも。
夕方。
俺はふと目を覚ました。
起きたばかりでまだぼーっとする頭のままベランダに出ると、空がオレンジに夕焼けしていてすごくきれいだった。
俺は小さい頃から空が好きだった。
晴れ渡った青い空、
オレンジの夕焼け空・・・。
きれいな海と空が重なり、そこに水平線が見えたならサイコーだ。
つらいときはいつも空を見ていた。
悲しいときはいつも空に励まされていた。
どうして俺は落ち込んだとき空を見てしまうんだろうか。
もしかしてそれは俺がまだ頑張れるからなのかな。
しばらく空を眺めていると不意にドアをノックする音が聞こえた。
そういえば晋也が来るかもとか言ってたっけ。
たまにはゲーセンでも行こうかな。
「晋也、開いてるから入ってこいよ」
だがなかなかドアは開かない。
「晋也?」
俺はドアを開けた。
するとそこにいたのは晋也ではなく、あの女だった。西原小雪とかいう、あのお説教女。
「お前・・・・・・」
言葉を失う俺の前に奴はスーパーの袋を掲げた。
「夕飯、作ってあげようかと思って」
「は?」
「大丈夫、自慢じゃないけど料理は上手い方だから」
「ちょっと待てよ」
「いいから、いいから」
制止する俺を押し切って家の中に上がり込み、奴は台所で何かを作り始めた。
俺はもうあきれて何も言えず、ただ奴の様子を伺っていた。
「もう、汚いなあ。台所は食べ物を扱うんだからきれいにしなきゃ」
もう何年も掃除してない埃まみれの台所にそう文句を言っている。
こいつ、大人しく見えるが実は・・・・・・?
しばらく経って奴はオムライスを作りあげた。
俺の分と自分の分を皿に盛り付け、差し出した。
「はい、どうぞ」
「いらねえよ」
「せっかく作ったのに」
そう言いながらも奴は自分の分を一口食べた。
「・・・・・・ん? 美味しい」
自分で作ったくせに。
「ほら、石田くんも食べなよ」
「だからいらねえって」
すると奴は泣きそうな目で俺を見てきた。
これだから女ってやつは。
「はいはい、分かりました。食えばいいんだろ、食えば」
俺はオムライスを一口食べた。
・・・・・・ん?
なんだ、これは。
美味しい!!
俺は気がついたら夢中で食べていた。
奴はそんな俺を嬉しそうに見ている。
どうしてだろう。
久しぶりに何かを食いたいと思った。