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僕らの夢  作者: SHIORI
5/6

VOL.4 悪魔


「あ、あのー」


ぼーっとしていた俺に少女がおそるおそる言った。


「ここ、石田さんのお宅ですよね?」


俺は我に返り、わざとぶっきらぼうに言った。

この少女に俺の心の動揺を見破られたくはなかった。他人に自分の弱さを見せてはいけない。

悲しいが、それが俺の不良人生で身につけた生きる術だった。


「ああ、そうだけど」


「よかった。私、中学で翔くんといっしょのクラスの西原小雪といいます」なんだ、学校の同級生か。

そう思った瞬間に

さっきまでのときめきは

どこかへ消え失せた。


「あの、翔くんは?」


「俺だけど」


そう言うと少女はびっくりしていた。

まさか俺みたいなのが『石田翔』だとは思ってもいなかったんだろう。

じゃなきゃこんな真面目そうな少女が訪ねてくるはずがない。


「あのね、私、実は石田くんのクラスで学級委員長やってて。それで大事な話があって来たの。ほんの少しでいいんだけど時間大丈夫かな?」


何だよ、話って。

めんどくさい。

別に聞かなきゃいけない理由なんてどこにもない気がしたが、

だからと言って聞かない理由もどこにもなかった。


「別にいいよ。こんなとこでもなんだし上がる?」


少女は少しためらっているようだった。

誰だってそうだろう。

会ったばかりの俺みたいな奴にそう言われてすんなり家に上がるような奴はまずいないだろう。

俺が少女の立場でも上がらない。

だが少女は何を思ったのか小さくうなずいた。



俺は乱雑に散らかった部屋を少し片付けて少女の座るスペースを作り、

もう何年も干していない薄汚れた座布団を置いて座らせた。

そしてさっき沸かしたお湯で紅茶を入れてやった。



「はい、どうぞ」


「ありがとう」


少女はそう言って紅茶を一口すすった。


「えっと、確か西原さんだっけ? 話って何?」


「あのね、実はクラスでもみんなで1回話し合ったんだけど、もうすぐ私たち卒業でしょ?そしたらみんなバラバラになって会えなくなるわけだし、残された時間を思い出作りに使いたいの。それで石田くんも私たちのクラスのメンバーなわけだし、よかったら3学期学校出て来てくれないかなって思って・・・」


要するにみんなで青春ごっこしたいのか。

俺も巻き込んで。


「せっかく来てくれたとこ悪いけど、俺は学校なんか行く気ちっともないから」

出来るだけことを大きくしないように、

出来るだけ面倒なことにならないように、

俺は慎重に言葉を選んで言った。



「だけど・・・」


女ってどうしてこんなにもめんどくさいんだろう。

俺の努力も虚しく少女は

目をうるうるさせている。


「ごめんね」


何謝ってんだ、俺。


「・・・・・・」


「ほら、その紅茶飲んだらさ、すぐ帰りなよ。俺なんかのために時間割いてる暇なんてないんだろ?」


少女は何も喋らない。

俺もどうしたらいいのか分からなくて言葉が見つけられなかった。

2人の間にしばらくの間重苦しい沈黙が流れた。



しばらくして少女が不意に口を開いた。


「ねえ、石田くん」


「ん?」


「いつもカップラーメン食べてるの?」


「え・・・・・・」


どうしてそれをこいつが知っているんだ?

そしてはっとした。

ここから見える台所のゴミ袋の中には大量のカップラーメンの空き容器が捨ててある。

「そんなものばかり食べてたんじゃ体によくないよ。ちゃんと栄養のあるもの食べなくちゃ」


大きなお世話。

そんなこと、お前には何の関係もないだろ。

どうせ他人のことなんだから。


「私、将来栄養士目指してるんだ。今も少しだけ勉強してるの。石田くんはどうでもいいって思うかもしれないけど、栄養ってすごく大切なんだよ」


栄養なんて俺にはいらねえんだよ。


「だからさ、お母さんに栄養のあるもの作っ・・・」


その言葉を聞いた瞬間、俺はキレていた。


「さっきから何なんだよ、お前。いきなり来て俺に説教か? どうせお前もセンコーに頼まれて来ただけなんだろ? もういいから帰れよ、任務は完了したんだろ」


そいつは目を丸くして俺を見ていた。

俺はそいつの腕を乱暴に掴み、無理矢理外に追い出した。



別に栄養がどうとかって話にキレたわけじゃない。

俺の家のことなんて何も知らないくせに、

お袋の名前を何の悪意もなく出したからムカついたんだ。

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