VOL.2 ダチ
朝10時。
俺は部屋のドアを誰かが激しくノックする音で目を覚ました。
昨日はバイク仲間、いや正確には暴走族連中との集会があってやっと眠りについたのは朝になってからだからまだまだ眠い。
俺はほっとけばすぐに帰るだろうと思ってシカトして寝ていた。
だがしばらく経ってもその音は止みそうもない。
それどころか次第に強くなっていく。
俺はあきらめて眠い目をこすりながら立ち上がり、扉を開けた。
「はいはい、何だよこんな時間に」
慌てた様子の奴がそこには立っていた。
乙幡晋也、俺の親友。
晋也とは幼稚園からの付き合いでお互いのことは何でも知っている。
もちろんいなくなったお袋のことも。
真面目でちゃんと学校に行き、高校もレベルの高いとこを狙ってる晋也と俺は全く正反対なはずなのだが、何故か昔から妙に気が合った。
小学生のときにはよくいっしょにいたずらもして大人に怒られた。
晋也の家はちゃんと両親がそろっているのだが親と上手くはいってないらしく、よく家出といっては俺の家に転がりこんでくる。
俺なんかから見れば贅沢な奴だ。
「なんだ、お前か」
「翔、助けてくれよ。大変なんだよ」
「どうした?」
晋也は相当パニクってるらしく俺の問いにすぐには答えられない。
しょうがなく俺は晋也を家に入れ、紅茶を出してやった。
「ほら、飲めよ」
「ああ、悪い」
晋也はそれをゆっくりと飲んだ。
そしてやっと落ち着いたらしく、話し始めた。
「実は俺昨日、学校のガラス全部割ったんだ」
吹き出しそうになるのと同時に俺の中で尾崎豊の『卒業』が流れた。
「は? なんで?」
「模試の結果やばくて、むしゃくしゃしててつい」
「ついってお前・・・。だからって何、十年以上も前のことやってんだよ。オザキかよ」
「ごめん」
「まあ、いいけどさ」
晋也が泣き出しそうな顔で俺を見た。
「なあ、翔。俺、どうすればいい?このままじゃ受験やべえよ」
俺と晋也は違う。
こいつには受験という名の敵が待ち構えている。
こんなことで自分の将来を犠牲にするわけにはいかないんだ。
「分かった、分かった。俺がやったことにすればいいからさ、お前は何も心配すんな。大丈夫だから」
「でも・・・」
「大丈夫だって」
「だけど俺、お前に申し訳ねえよ」
俺は微笑んでゆっくりと言った。
「気にすんな、俺はどうせ高校受けないからさ。俺んち親もいないから、進学なんて無理なんだよ。だからお前は俺の分も高校生活楽しめ。分かったな」
晋也は泣きそうな顔でうなずいた。
「ほら、塾あるんだろ。早く行けよ」
俺がそう言うと晋也は何度も何度もお礼を言いながら帰って行った。
それにしてもよくこんな嘘がつけたもんだ。
高校なんて楽しいわけもないのに。