2.どうしてツキミは、おれのこと好きになったんだ?
今おれの隣には、刀を持った美人の女子高生がいる。
眉毛のつながったポリスメンか目玉のつながった保安官に職務質問されたら、即、銃刀法違反で現行犯逮捕だ。
そうならないことを祈りながら、おれたちは近くにある公園へ行くことにした。
正直「付き合って」と、殺されそうになったときは焦ったが、告白には変わりない。
このモテないおれが、女子から告白されるなんてホント奇跡だとしか言いようがないぜ。だが現実にそうなったのだ。
ちょっと変わった告白だったけど、庵堂ツキミは正直言って美人だ。
しかも、おれが人生で生まれて初めてできた恋人なのである。
恋人同士になったからには、まずお互いのことを知らなければならない。
今後のため、そして何よりお互いのためによりよい関係を築いていく努力をしなくては。これから少しずつ二人の関係を深めていって、仲良くなればと思う。
光りものを突きつけられたことは……なかったことにはならないが、まあ、彼女がおてんばだったと思うことにして、だからこれからは念願だったカップルライフというものを楽しもうと思う。
そう、念願の彼女が――しかも可愛い彼女ができたんだ。
ただ彼女の告白の仕方がとても特殊で危険だっただけのこと。
あんなことやこんなこと、おれには彼女ができたら一緒にしたいと思っていた沢山のことがあるのだ、ムフフ……。
「ねえってば?」
「え? は、はいっ!」
「ちゃんと話し聞いてる?」
「う、うん、もちろん……」
彼女の話も聞かず、いやらしいことを考えていたなんてバレたら即座に首を斬りおとされかねない……。危ない危ない。
「で、何の話しだっけ?」
「……だから、どうして理はそんなに緊張してるの?」
いやいや、それはさっきあんたがおれを殺しかけらからだろ。
自分でやったこと覚えてねえのか?
しかし、こうして肩をならべて公園のベンチに座っていると、さっきまでの狂気じみたツキミとはまるで別人のように穏やかだった。
刀を抜くと、別人みたくなるのな。
「つうかさ、どうして刀なんか持っているんだ? 戦国時代じゃあるまいし」
「刀が好きなの」
と、ツキミはそっけなく答えた。
あっそうですか。
単純明快です。
「それ、本当に真剣なの?」
「うん」
だよな。喉にちょっと触れた瞬間ヤバいと感じたもん。
「妖刀正宗」
嘘つけ。そんな伝説みたいな刀が現世に存在するわけないだろう。
「この妖刀正宗を手にした者は刀に支配され、次から次へと人を斬らなければ気が済まなくなるの。なぜなら、刀自身が血を求めるから……。斬った相手の血を吸い、その血が尽きればまた次の獲物を斬る……。それでも人を斬らず、もし血を与えなければ、飢えた正宗は血を求めるて自身の所有者を斬って血をすするといわれている。……これが正宗が、妖刀と呼ばれる由縁……」
とツキミは、おどろおどろしい言い方で言った。
「へえ……そうなんだ」
ツキミは今までにも、教室に刀を持ってくることがあった。
またおかしなことしてるな、と遠目に見ていただけだが、まさか自分が襲われるとは予想していなかった。
ツキミは、クラスでは変な意味で目立つ子。いわゆる変わり者である。
見た目は美人でスタイルもいい、おまけに勉強もよく出来る優等生なのに、いつも不思議な行動をとってみんなをおどろかせている。
まったく何を考えているかわからない。
それに加えてツキミに関する逸話は数多くある。
――たとえば去年の体育祭のとき、クラス対抗リレーで最下位から相手をごぼう抜きしてぶっちぎりで勝ったとか、あるいは球技大会のクラス対抗ソフトボールの試合で、サイクルヒットを記録したとか、当時ものすごく話題になったのだ。
それらを考察すると、ツキミがかなり運動神経の持主であることがうかがえる。
「ところでさ、さっきおれのこと本気で斬ろうとしてた?」
「うん、正宗で斬れないものはないから」
いや、そういう意味じゃないから。
ていうか、やっぱり……。
するとツキミは立ちあがり、ぴょこぴょこ走っていって、太い銀杏の木のまえで妖刀正宗を抜いた。
じっとツキミの動きを見ていると、手元でなにやら閃光が走ったと思った刹那、その銀杏の大木が根元から、ドスンと大きな音をたてて倒れた。
「ねっ?」
片目をつぶって目配せをする。
ねっ、じゃねえよ!
その刀が本物の正宗かどうか知らないが、確実に真剣だということはわかった。
ほんとにおれ死ぬところだったじゃねえか!
正直いまおれの顔はすごく引きつっているぞ。
「よく斬れるでしょ」
「そんな物騒な物を、おれは突きつけられていたのか……」
「もう少し返事が遅かったら、危なかったかもね」
自分を好いてくれているからと油断していたが、やはり彼女は少々危険な存在だということを再認識させられた。注意しなくては。
「わたしね、刀の扱いだけは誰にも負けないよ」
それはさっき、嫌というほど感じた。
それはそうと、どうしてツキミがおれに好意をいだいて、告白するまでにいたったのだろう?
性格にはやや難があるものの、秀才のツキミが、これまでまったくモテたことのないおれを好きになる理由は、普通に考えると見あたらない。
……いや、秘めたるおれの魅力に気づいたのかもしれないな。
そんな疑問が浮かんだおれは、恋人同士とは気兼ねなく思ったことは隠さず素直に何でも言い合える関係性でありたいと思っていたので、本人に直接その質問をぶつけてみた。
「えっ? そ、それは……」
はっとしてツキミは言葉を詰まらせた。
「あの、何ていうか……その……」
「おれたちもう付き合ってるんだぜ。隠しごとはなしだ」
「うん……」
だが、ツキミは恥ずかしがってなかなか言おうとしない。
「どうしたんだよ、教えてくれよ?」
その間おれはもじもじするツキミを見つめていた。
「どうしてツキミは、おれのこと好きになったんだ?」
ほとんど話したことのないおれのことを、何をきっかけに惚れたのか。
しかも女子にはまったく相手にされないおれみたいなモテない男なんかを。
「好き……? えっ、あの、えっと……その……」
いよいよツキミは焦って、口ごもる。戸惑った表情が、またかわいい。
恥ずかしいのはわかる。でも聞きたいんだ。
「それはどうしてわたしが理に告白したかってこと……だよね……?」
「それ以外何があるっていうんだよ」
「知りたいの……? 本当のこと……」
「そりゃ知りたいさ」
「どうしても……?」
おれはうん、とうなずく。
「どうしてだ、おれのことを好きになった理由は?」
「それは……」
ツキミはうつむいて黙りこむ。しばらく沈黙がながれた。そして、
「……うん。あのね……ほんとはね……」
ツキミは下を向いきながら、ぼそぼそと口を開いた。
「実はね……」
「おう、はやく聞かせてくれよ」
ツキミは顔をあげ、まっすぐおれの目を見ながらはっきりと言った。
「……好き、とかそういうのじゃなくて……」
「うん?」
「実はテトリスで負けたからなの!」
――――――――っ!
へえ……。……え? え、え、え、何だって。
テトリス? う、ウソだろ?
え、なに、ゲーム? ゲームで負けたから? それで告白……?
ウソだろ、嘘だ。イヤだ。どうしてだ。なぜなんだ。どうしてだ!
今まで生きてきて初めて告白され、彼女ができたと思っていたら、テトリスで負けたから?
それって罰ゲームじゃねーのか? おれが初めてされた告白は、罰ゲームだったのか?
初めて付き合った相手は罰ゲームで告白してきた相手なの?
それって最悪じゃねえの? おれと付き合うのは罰なのか?
はあ? はああっ?
くそう! うわーっ! 最悪だあっ!
恥ずかしい。何かおかしいと思ったんだ、真に受けたおれのアホ。
調子に乗って下の名前で呼び合おう何て言っちゃたおれのアホ。
時間よ遡ってくれ!
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
「でも、わたしね……もっと前から、理のこと……」
おれの狼狽に気づいて、なぐさめようとしているのか?
「ごめんね。わたしも冗談でそんなことしちゃ相手に悪いよって言ったの、でも、どうしてもやらなくちゃいけない状況になっちゃって……だから……こうして正直に話してる」
今さら言われてもしょうがねえ。
刀を突きつけられての告白なんて普通じゃないとは思っていたが、まさか罰ゲームだったとはな。
おれと付き合うのは罰に等しいということかよ。
「もし告白しなかったら仲間はずれにするって言われて……。だから、一応ルールだし、わたしが負けたのも事実だし……」
そうかもしれない、だけどいくら何でも酷すぎるだろ。
「それに、せっかく告白するのに断られるはダサいからって、相手が理ならちょっと脅してやれば簡単にオーケーするって言われて――」
ああ、それで刀を持ち出してきたのか。おれを脅して告白を成功させるために。
「ごめん。でも、理のことは……ホントに……前から――」
「もういいよツキミ。いや、庵堂さん……」
おれは静かに言った。
「で、誰がそんなこと言い出したんだ?」
「え?」
「おまえを仲間はずれにするとまで脅して、罰ゲームでおれに告白させようと言い出したやつは誰だよ。おれを脅せば簡単に付き合えるなんてことを言ったやつは誰だ! 誰なんだよ!」
ツキミは口ごもりながら、
「……同じクラスの……ひと……」
「名前は!」
「…………」
ツキミは口を割ろうとしない。おれは激しく声をあらげて怒鳴っていた。
「誰とおれへの告白をかけてテトリスで勝負したんだよ!」
するとツキミは、ふるえるようなか細い声で、
「き、き、桐……」
「桐……? 桐咲かおりか!」
真っ先に桐咲の顔が頭にうかんだ。あいつだ!
あいつならやりかねない。いや、こんなことするのはあいつしかいない!
絶対に桐咲かおりの仕業だ!
おれの怒りの矛先は、すでにツキミではなく桐咲に向いていた。
ツキミを責めても何もならない。それよりも、ツキミとおれをこんな目に遭わせた主犯の桐咲かおりに対して腹の虫がおさまらない!




