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コロスキ!  作者: ユキノ
二章 二股と二丁拳銃
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4 だめ、言っちゃだめ! 聞きたくない!

 昼休み。おれは屋上に来ていた。


 鹿毛井と弁当を食べようとしていたところを、平矢間さんに呼ばれて「先に待っているからあとで来て」と言われので、待たせてはいけないと思い、弁当を食べるのを途中で止めてあとを追うように階段を上り、本来禁止されている屋上への扉をあけ、足を踏みいれた。


 柵もフェンスも何にもない屋上の淵ギリギリに立っていた平矢間さんの背中が目に入ってきた。

 髪とスカートが風に吹かれてゆれる。

 そして両手には、なぜか銃を持っていた。


「平矢間さん」


 呼んでもふり向かない、聞こえないようだ。


「平矢間さん!」


「きゃっ」


 突風が吹き、勢いよくめくれ上がったスカートを素早く押さえた平矢間さんははっとして、ふり返り、おれの存在に気づいて、恥ずかしそうにうつむきがちに、もじもじしながらきいた。


「見えた?」


 純白のパンティと、それを形どるむっちりとした肉感のおしりを拝ませてもらっていた。

 思いがけず、すばらしい光景に出会ったおれは、無意識に顔がほころんでしまっていたのだろう、それがおのずと返答になってしまった。


「やっぱり見たんだ。囃子くんのえっち!」


 平矢間さんにおれを睨みつけたが、本気で怒っているのではないのがわかった。


「来てたのなら言ってよ。こんなに早く来てくれたってことは、お弁当食べてないよね? ごめんね、何か急かしちゃったみたいで」


「全然平気さ、今日はあまり腹減ってなかったんだ」


 なぜか、おれはしょうもない嘘をついた。


「あのさ、平矢間さん。気になってたんだけど、その……銃みたいなのどうしたの? 本物?」

「ううん、改造銃。コルトガバメントとベレッタM92だよ」


 いや、名称なんてどうでもいいのだが。

 どうして改造銃を持っているのか聞きたい。


「わたしね、緊張したり興奮したりしちゃうと、ついまわりが見えなくなって銃を相手に向けちゃう癖があるんだ……」


 なんという厄介な癖だ……。大丈夫か、それ? 


 それで昨日もツキミとああなっちゃたわけだな。


「それにね、恥ずかしいんだけどこう見えて銃マニアなの。だから護身用も兼ねて、いつも携帯してるんだ。ああっ言っちゃった、恥ずかしい」


 と平矢間さんは、銃を持った手を顔にやり、赤くなった表情を隠した。


「わたしのお父さんが自衛隊でね、お兄ちゃんはミリタリー好きで、その影響で小さい頃からサバイバルゲームとかによく連れ出されていたんだ。そのときに相当鍛えられたの……」


 どうりで強いわけだ。納得。


「でもっ、軍オタじゃないよ。ほんと。好きなのは銃とかで、固くて黒光りしている物ってだけ……。これは囃子くんだから言うんだからね。女子が銃になんか興味があるなんて変でしょ? 普通女の子だったら、もっとピンクの物とか、やわらかくて可愛らしい物とかに興味持つべきだよね……」


「ま、まあ、少し変わってるけど、自分を持ってるって感じでいいと思うよ」


 変な趣味ならツキミも同じだからな。

 刀と改造銃の違いで、危険物という点に関しては同じだ。


 それにしても、きのうは趣味だからと言ってそうとうな腕前と、動きをしてたよね。

 まるで次元大介かと思ったくらいだよ。

 あの銃さばきは、相当な鍛えられ方をしてるとしか思えない。


「実はね、相談があって囃子くんに来てもらったの」


 と、平矢間さんが話を切り出した。


「どうかしたのかい?」


「わたしね、変な人につけ回されているみたいなの」


「変な人?」


「うん。なんだか跡を付けられたり、家の周りに誰かの気配があったり、ずっと見られているような気がしたりしてすっごく気味が悪いの。いつか何かされちゃうかもしれないとか思うと怖くっちゃって。どうしよう囃子くん、わたしすごく怖い」


 平矢間さんほどの実力なら、そんなストーカー野郎すぐに追い払えると思う。とはいえ、


「それは厄介だ。もしかしたら、桐咲の手先かもしれない」


「え、かおりちゃんの?」


「ああ、そうなんだ。桐咲はおれとツキミを付き合わせたように、他にもいろんなやつらを付き合わせようとしている。そんなわけのわからない遊びをして、楽しんでいやがるんだ。それは桐咲がおくった刺客かもしれない」


「どうしよう、わたしそんなのイヤ。だってわたしにはちゃんと好きな人がいるんだもん」


 おれの方を見ていた平矢間さんは、さっと顔を伏せた。……。


「怖いよ、囃子くん。わたしツキミちゃんみたいに強くないから、襲われたら抵抗できないよ。ねえ、どうしよう」


 いいや、十分っていうほど強いさ。

 だが心配ではある。


「わかった、何かあったらおれが守ってあげる。だから心配する必要ないよ」


 とおれは格好をつけ、自分よりも強い女子を守ることを宣言してしまった。

 だって、目の前で困っている女子がいたら放っておくことできないだろう。

 シカトしろとでも言うのか?


 ありがとう、と平矢間さんは、うれしそうに笑ってくれた。


 その笑顔がおれだけに向けられているものだと思うと、一層うれしくなった。


 このやさしそうな娘が趣味で銃を装備し、先日、同じく刀を持ったツキミと壮絶な戦いをしたとは到底考えられない。


「ねえ、囃子くん。ツキミちゃんのことなんだけど……やっぱりツキミちゃん怒っているよね? わたし何だか偉そうなこと言っちゃったから……」


「うーん、まあ怒っているけど、そんなの気にしなくていいよ」


「ええー、駄目だよ、気にするよ。だってわたしがツキミちゃんに反則だって言ったくせに、宣戦布告して彼氏を奪おうとするなんて、わたしの方こそ反則だもの」


 両手をじたばたさせて、おれの返答に首をふる。


「それに『しね』なんて言っちゃって、おまけに銃まで撃っちゃったから……。すごく反省しているの、自分でもみっともないなって」


 んー、っていうか、殺し合いしてたよね。


「でもね、わたしあのときにわかったの、本当に囃子くんのことが好きなんだって。二人が仲良く楽しそうにしていたのを見せつけられちゃってさ、それでムッと来ちゃって、どうしてわたしじゃなくてツキミちゃんなのかなって思ったの。それってツキミちゃんにヤキモチ妬いてたんだよね。だからね、やっぱりわたしは戦う。戦ってツキミちゃんに勝って、囃子くんを振り向かせる。囃子くんがわたしのこと好きになってくれるように、がんばるから。わたしの事を好きになってくれるまで諦めないから」


 と平矢間さんは言った。風になびいた髪の毛が平矢間さんの顔を覆っていたが、隙間から見えるその眼はたしかに真剣で、その想いで燃えているようだった。


「平矢間さん……おれは……」


「待って、言わないで。何を言おうとしているのかは分かってる、だから……今はまだ言わないで、お願い!」


 平矢間さんは懇願した。


「いや……おれは」


「だめ、言っちゃだめ! 聞きたくない!」


「本当はおれ――」


「言ったら撃つ!」


 二丁の銃口がおれに向けられた。

 平矢間さんが突き出した両腕はぶるぶると震え、眼にはうっすらと涙が溜まっていた。

 ちょっ……。


「本当はこんなことしたくないけど、わたし、今はまだ終わりたくないの」


 いや……終わるのはおれの方だよ、平矢間さん。


「お願い……囃子くん」


 おれは素直に頷く。


「……わかった、何も言わないから、撃たないで」


 平矢間さんはそっと銃を下ろしたが、おれの胸中は複雑だった。


「ごめんね、こんなことするために囃子くんをここに呼んだんじゃないのに。本当にツキミちゃんに何も言えないね、わたし。わたしの方がよっぽど囃子くんに酷いことしてるね、ごめんね。わかっているの、今のわたしじゃツキミちゃんに勝てないって、何もかもツキミちゃんに敵わないって。だから、いつかツキミちゃんに勝てるようにがんばるね」


 次々と迫りくる心境の変化に、おれはついていけなかった。


「わたしって本当にバカだよね。一年の時からずっと囃子くんのことが好きだったのに、いつまでたっても気持ちを伝えられなくてさ。そしたら囃子くんがいつの間にかツキミちゃんと付き合っていて、そしたら急に気持ちが抑えられなくなって、囃子くんにはツキミちゃんがいるのに、今頃になって好きだとか言ってさ。要領がわるいっていうか、諦めがわるいっていうか……自分で自分のことが嫌になっちゃう」


 平矢間さんはうつむき、黙った。


「はっ、ごめんなさい。やっぱりわたしダメだ。ごめんね、本当にごめんね。今のことは忘れてください、気にしないでください。わたしもうどうしたらいいかわからないの。変な人につけまわされたり、ツキミちゃんに嫌われたり、囃子くんに想いが届かなかったり……。だめだ、またおかしなことばかり言ってる。ごめん。――ごめんね、お弁当の時間なのに呼び出しちゃったりして、もう大丈夫だから。ありがとう。わたしお腹へっちゃったから、もう行くね」


 そうして情緒不安定だった平矢間さんは去っていった。

 散々振り回され危うく殺されかけたおれは、腹がへっていることなどすっかり忘れて、教室へ帰ったあとも食欲はわいてこなかった。


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