思いの一致
沙希ちゃんは本当に僕のことが好きなのだろうか。
何だかそう思うと、思うほどに嘘のように思えてきた。
それに、沙希ちゃんの反応はそれほど特別じゃないと思うし。あまりわからないけど・・・
このことだって楷渡君が勝手に思ってるだけかもしれない。
『ああ、もう!もやもやするなぁ』
何でこんなに悩んでるんだろうか。
もう、これは仕方ない。
覚悟を決めよう・・・
決心して学校に向かうと、教室に入った瞬間に健渡と目が合った。
健渡はあからさまに目を逸らしてきた。
健渡にもこの気持ちを伝えたい。否、ちゃんと沙希ちゃんの思いを確認してから言った方がいいのかもしれない。
そうじゃなかったら、きっとまた余計にごちゃごちゃになっちゃう。
『おい』
『へっ』
『何だよ。人がせっかく声かけてやったのによ』
『けん・・・と?』
目を逸らしていってしまったはずなのに、僕の前には健渡がいた。
どういうこと?
『あのよう・・・お前、いや・・・てか、悪かったな』
『えっ』
突然健渡が謝ってきたので、僕は訳がわからなかった。
『どうして、謝るの?』
『ああ、いや・・・昨日俺実は学校に残っててな。それで、まあ・・・沙希さんが泣いて帰って行くのが見えたから、またお前が何かしたって思って
教室に行ったら・・・お前らの話し聞いたんだよ』
健渡はいつもの調子とは違い、歯切れが悪く、まるで先生に怒られた時に言い訳をする小学生のように話した。
『そっか』
僕は色々と気分が軽くなり、安堵の息を漏らした。
『いいよ。僕も本当に悪いことをしたんだから』
『いや・・・でも、まあ・・・そうだよ!お前があんなことするからだろ』
健渡は何かが吹っ切れたように、いつもの調子に戻り、僕の頭を軽く叩いた。
『それで、お前ちゃんと聞くんだぞ。いや、てか・・・ちゃんと、告れよ』
『うん』
嘘じゃないかと思い始めていたことが、たった一言健渡に背中を押されただけで、僕は今日沙希ちゃんに聞こうと思った。
迷うことなく、率直に、沙希ちゃんの気持ちを確かめようと思った。
僕はその日は放課後まで彼女と目を合わせることも出来なかった。
この前とは違い、恥ずかしさが溢れすぎて彼女の顔を見れなかったんだ。
放課後になると、健渡は『しっかりやらねえと承知しねえぞ』と言って、嬉しそうに帰って行った。
そして、またいつものように教室には僕と沙希ちゃんだけになった。
あんなに決心を固めていたが、恥ずかしくて僕は数分自分の席に座ったままでいた。
『大丈夫だ。きっと大丈夫だ』
自分の机を見つめるように俯きながら、小さく呟いた。
『よし!』
そして、踏ん切りが着いたところで立ち上がると、『うわぁ!』目の前には、何と沙希ちゃんがいた。
僕はあまりにも驚いたので、立った腰を椅子にまたおろせずに、倒れてしまった。
『だ、大丈夫?』
沙希ちゃんが焦ったように駆け寄ってきた。
告白する前から、こんなのダサすぎる・・・
内心で落ち込みながら、立ち上がろうとすると、沙希ちゃんが手を差し伸べてくれた。
『ゆっくり、話しがしたいの。だから、座って』
『あっ、うん』
彼女の手を取ると、彼女と自然に向き合う形になった。
情けない気持ちと、恥ずかしい気持ちが入り混じり、僕はもう顔から火が出るような・・・いや、もしかしたら顔から火が出てるのかもしれない。
それぐらいに顔が熱かった。
『晃さん・・・顔真っ赤だよ。熱でもあるの?』
沙希ちゃんは惚けたように、まあ、天然の彼女は真面目にしているんだろうが、惚けたように僕の額に手を当ててきた。
『うん。少し熱い。大丈夫?』
『大丈夫だよ。あの・・・僕今日は、沙希ちゃんに聞きたいことがあって・・・』
『それなら、あたしも』
今日の彼女はいつもよりも、声が大きい気がする。
『あたし、聞きたいことがあるの。晃さん・・・あたし、あたしは晃さんのこと・・・』
えっ、何?
これってもしかして告白される?
聞きたいことって僕の彼女への気持ち?
いや、でも僕は昨日彼女に・・・
突然の思いがけない彼女の言葉に僕は混乱して、どうにかなってしまいそうだった。
『好きなのでしょうか?』
『えっ?』
しばらく不思議な沈黙が流れた。
そして、僕の頭も沈黙と同じく静寂な思考・・・つまり、頭が真っ白になってしまった。
『あの、あたし・・・だから・・・』
沙希ちゃんは再び同じことを言おうとしていた。
『わかったよ。わかってるよ。わかってるけど・・・そんなことは、僕に聞かれてもわからない』
『そうですよね・・・ごめんなさい』
沙希ちゃんの声が、またいつものように小さくなった。
『いいよ』
また沈黙が流れた。
僕が、言わないと・・・
僕が・・・
『あの、沙希ちゃん!』
『は、はい』
思わず大きな声を出してしまった僕に、沙希ちゃんは飛び上がったかと思うぐらい驚いて返事をしてくれた。
『沙希ちゃんがどうなのかは僕にはわからない。だけど・・・僕は沙希ちゃんのこと、本当に、真剣に、心の底から・・・好きだよ。
だから・・・沙希ちゃんとこれからもずっと・・・あの、だから・・・僕が沙希ちゃんを守るから、いや・・・えっと、だから・・・』
途中から何を言っていいのかわからなくなって、自分でも何を話しているのかわからなくなって、どうすればいいのかわからなくなってしまった。
格好良くとは言わないけれど、ちゃんと告白したかったのに、やっぱり情けない・・・
項垂れていると、そんな僕を覗き込むかのようにして、沙希ちゃんは言った。
『あたしのことが、好きなんですか?』
『うん・・・』
『あたしのことを守りたいんですか?』
『う、うん・・・』
僕の言ったことを聞き返されていくたびに、段々と恥ずかしくなってきた。
『あたしにキスしたいですか?』
『うん・・・って、えっ!』
思わぬ質問に、僕は飛び上がった。
『えっ、あの・・・沙希ちゃん?』
『えっ、だって・・・楷渡が好きな人にはキスをしたくなるものだって』
『か、楷渡君が・・・えぇっと・・・』
楷渡君一体沙希ちゃんに何言ったんだろう。
『したいですか?』
沙希ちゃんはもう一度真剣に聞いてきた。
確かに、楷渡君の言ってることは正しい・・・って、何言ってたんだよ。僕は・・・
何か、僕がキス魔みたいじゃないか。
『顔、また赤くなってますよ』
『うっ・・・』
天然って怖いな。僕はこの時初めて沙希ちゃんに軽い恐怖を覚えた。
『じゃあ、じゃあ・・・沙希ちゃんは?さっき僕が好きかって聞いたよね?僕にキスしたいと思う?』
って・・・何言ってるんだろうか。
自分の言葉を撤回したい気分になった。
本当は沙希ちゃんが口を開くまで、10秒もなかったかもしれないが、僕にはその10秒がとても長く感じた。
『あたしは、したいですよ』
『えっ』
その言葉を頭の中で考える前に、彼女の唇は僕の唇に重なった。
『どう・・・ですか?』
『な、何が?・・・』
僕は焦ったように聞き返した。
もう、どうしたらいいのかわからなくなって、頭の中がぐちゃぐちゃだ。
『いいえ。やっぱり・・・あたしは、きっと晃さんのことが好きなんだと思います』
『沙希ちゃん』
僕は嬉しさと、今の恥ずかしい姿を見られたくなかったので、彼女を抱きしめた。
『晃さん』
不思議そうに僕の名前を呼ぶ彼女に、何も応えてあげる言葉は出てこなかった。
ただ、もうしばらくこのままでいたいと思った。
僕の初恋にして、初彼女の沙希ちゃんと、こうしてしばらく一緒にいたかったから・・・




