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真実は知らない所にあり

そしてとうとう放課後になった。

この日ほど放課後が来るのが早く感じた日はないだろう。

僕は彼女が一人になるのを黙って待っていた。

愛達は無言で、秋だけが笑顔でガッツポーズをして帰って行った。

健渡はいつの間にか教室にはいなかった。

そうして、とうとう教室には彼女だけになった。

『大丈夫だ』

小さく呟いてから、一度深呼吸すると、僕はゆっくりと彼女の席に向かった。

前に立つと、彼女は驚いたように僕の顔を見た。

それから怯えるように辺りをキョロキョロしてから、また遠慮がちに僕の顔を見た。

『ごめん・・・あの時のことは本当にごめんなさい』

彼女の前で勢いよく頭を下げた。

『本当にごめん。でも、あれはただキスがしたかっただけとか、沙希ちゃんの体がどうとか。そんなことじゃないんだ』

彼女の顔を見ることが怖かった僕は、頭を下げたまま言った。

『僕は君と、沙希ちゃんと話す前から・・・いや、この学校に入って、このクラスで君を見た時から、ずっと沙希ちゃんのことが好きだったんだ。

だから、だから沙希ちゃんと話せるようになって凄く嬉しかった。だからって、この前の言い訳をするわけじゃない。

あの時のことは本当に何も言い訳しない。僕が沙希ちゃんのことを考えずに、勝手に自分の思いをぶつけてしまっただけなんだ。

だけど、本当に君が好きだから、だからあんなことをしてしまって・・・あの時の事実を許してくれとは言わない。

だけど、だけど・・・これだけは聞いてほしいんだ。僕は君のことが好きだ。だから、また一緒に笑って話してほしい』

頭を下げたまま、僕は彼女に自分の気持ちを吐いた。

何を言えばいいのかずっと悩んでいた。

愛には『お前が今思っていることを素直に言えばいい。そしたら何も悩まなくても言えるよ』

と言われて、信じていなかったが、本当に何も考えずに言えた。

正直何を言ったのかは自分でもわかってないような状況なのだが・・・


数十秒たっても彼女の声は何も聞こえてこなかった。

心配になった僕は、恐る恐る彼女を見た。

『えっ、沙希・・・ちゃん?』

思わず声が裏返ってしまった。

それも無理もないと思ってほしい。僕の目には想像もしていなかった表情があったのだから。

『ごめん。えっ、本当にごめん。だから、泣かないで・・・』

何でだ?何でだ?

今の何処に泣く要素があったのだろうか?

いや、確かに泣かせることはしたけれど・・・えっと・・・

焦りもあり、僕は頭が混乱してきた。

『あの・・・さ、沙希ちゃん?』

僕が名前を呼んでも、何を言っても彼女はただ泣き続けていた。

僕はとうとう参ってしまった。

そんなところに、タイミングが良いのか、悪いのか。

誰かが入ってきた。

僕は驚いて扉の方を見ると、そこには楷渡君の姿があった。

沙希ちゃんにあんなことをした事実も知っている楷渡君が、今沙希ちゃんが泣いている姿を見たら・・・

僕は更に焦った。

絶対に殴られる。

いや、殴られるだけじゃすまない。

『沙希』

楷渡君は教室に入るなり彼女の名前を呼んだ。

泣いていた彼女は、ゆっくりと楷渡君の方を見つめた。

楷渡君は彼女を見るなり何故か笑顔を浮かべた。

そして、そのまま僕達の方に歩み寄ってきた。

『沙希。やっぱりそうなんだな』

僕は楷渡君の言葉も、沙希ちゃんの驚いたような反応も理解出来なかった。

『そうか。それなら、俺が何を言ったって仕方ねえんだよな』

楷渡君は寂しそうな顔で呟いた。

それがどういう意味なのかはわからないが、楷渡君のその言葉は、沙希ちゃんに言ったのか。僕に言ったのか。それとも二人に言ったのか。

誰に言ったのかわからないような言い方だった。

それは、自分の心に言い聞かせているようにも思えた。

『どういう・・・こと?』

今の状況に僕一人だけが取り残されているようだ。

この話しの一番の原因は僕じゃないのだろうか?

そんな変な疑問を浮かべていると、楷渡君がこちらを見て微笑んだ。

『ごめんな』

『えっ?』

何故楷渡君が謝るのか。

僕には何も思い当たるふしがなかった。

『俺、お前が酷いことしたって言ったから、内容も聞かずに怒っちまって。本当に悪かった』

そういえば・・・

確かに楷渡君には何も内容を話していなかった。

だけど、この言い方では、沙希ちゃんか誰かに聞いたに違いない。

それなら、どうして謝るのだろうか?

僕が謝ることがあっても、楷渡君が謝ることなんてないのに・・・

『楷渡君・・・』

今の疑問を聞こうとしたが、どうしてか僕は聞けなかった。

視界の隅に悲しそうな彼女の顔が見えたからかもしれない。

彼女の悲しみの意味何てこの時の僕にはわからないはずなのに、まるで僕は彼女の表情の意味を知っているかのように

口をつぐんだ。


『あたし・・・』

消え入りそうな声が、今日はいつもより大きく聞こえた気がする。

その沙希ちゃんの方を向くと、こっちを見ていた彼女と自然と目が合った。

そのまま真剣に見つめていたら、見つめすぎていたのか、彼女は合わせていた目をあからさまに逸らした。

それから顔を真っ赤にして教室を飛び出して言った。

『沙希ちゃん!』

あまりにもいきなりだったので、驚いた。

しかし、あんな沙希ちゃんを放ってはおけない。

僕も沙希ちゃんの後に続いて駆け出そうとした。が・・・

『楷渡君?』

『待ってくれ』

飛び出そうとした僕の腕を力いっぱいに握ってきた。

楷渡君はとても真剣な表情をしていた。

そんな楷渡君に負けて、僕は黙って椅子に座りなおした。

『真剣な話しなら、長くなるよね?楷渡君も座って』

『ああ・・・』

尚も表情を出さない楷渡君に僕は少し心配になった。

何をそんなに真剣になるような話しがあるのだろうか。

僕のことは解決したのに、それ以上の二人の問題とは何だろうか?

その疑問に答えるように、楷渡君は口を開き始めた。

『お前・・・沙希のこと、本気で好きなんだよな?』

『・・・うん』

真剣な話しというのが、またこの話しなのか。

僕の話しはマダ終わってないのか。

いや、でも・・・

楷渡君の言葉に疑問を浮かべていると、相手はそんな僕もおかまいなしで、否むしろ言ってくれて良かったのだが、

僕が疑問を浮かべているとも知らずに話しを続け始めた。

『そうだよな。だから、俺は沙希に言ったんだ。お前もそうなら素直に言ったらいいじゃないかって。だけど、

だけどそう言ったんだけどな。俺の中で何か腑に落ちないものがあったみたいなんだ。

ずっと何かわからなかった。だけど、今日ここに来てわかった』

まるで独り言のように話し始める楷渡君に、僕は何が何だかわからなかった。

沙希ちゃんにお前もそうなら?どういう意味だろうか?

『俺・・・』

楷渡君は一度目を閉じてから、意を決したように僕の目を真剣に見つめて言った。

『沙希のことが好きみたいだ』

『えっ』

僕は間抜けた声を出した。

それも無理のない話しだ。

まさか話しの内容が楷渡君が沙希ちゃんをどう思っていたかって話しとは思わなかった。それに、

そんなことに気づいてないことにも驚いた。あれだけいつも一緒にいて、それは幼馴染だけど、

ただ幼馴染で高校生になっても毎日こんなに気にかけないだろう。

それに気づいていなかったなんて・・・

僕は楷渡君の言葉にしばらく呆然としていた。


それが楷渡君には違う風に取ったみたいで・・・

『いや、晃。すまん。そういうことじゃないんだ。俺はただ自分のもやもやした気持ちを言いたくて、確かに

そういう気持ちもあるけど、でも沙希がお前のことが好きだって言ってんだから仕方ないよな。

俺が止める余地何てねえしな。だってそうだよな。幼馴染だもんな。人を好きになるのも、何をするのも

年月何て関係ねえんだよな。互いがどうかって話しだもんな』

楷渡君は照れたように早口で話しだした。

僕はそれにまた間抜けた・・・今度は顔をしてしまった。

『楷渡君・・・色々と言わせてもらっていいかな?』

僕がそう言うと、楷渡君は罰が悪そうに『ああ』とだけ言った。

『まず、楷渡君が沙希ちゃんのことを好きってことに気づいてないことに驚いた。てっきり好きだからこんなにしてると思ってた。

最初は彼氏だって思ったよ。だけど、幼馴染って聞いて安心した。でも3人でいると楷渡君の気持ちわかっちゃうよ。

それなのに僕あんなことをして、本当に悪いって思ってる。それと、一つだけ聞いていいかな?』

僕が顔を真っ赤にすると、それまで真剣に聞いていた楷渡君が不思議そうな顔をした。

僕だって自分からこんなことを聞き返すのは嫌だけど・・・

だけど、聞いてしまったものは仕方ない。

『沙希ちゃんって・・・僕のこと、その・・・好きなの?』

恥ずかしくて楷渡君の顔を見れず、僕は俯き続けた。

さっき沙希ちゃんに謝った時と同じだ。

『ああ、ていうか・・・逆にお前気づかなかったのか?つっても、俺もわかったのはああいうことがあってからだけどな』

『そう・・・なんだ』

気まずさにまだ顔を上げることができず、声も出なかった。

僕はまるで自分を励ましてるかのような、小さな呟くような声しか出なかった。


『あ~あ、恋愛ってめんどくさいよな』

少しの間の後に、楷渡君が突然そんなことを言い出すものだから、僕は思わず吹き出してしまった。

『何だよ!何でそんなに笑うんだよ』

楷渡君は椅子から立ち上がると、顔を真っ赤にさせて言った。

もしかしたらずっと前から赤かったのかもしれない。

お互いに今日はとても恥ずかしいことを言ったと思う。

そう思うと、僕も少し顔が熱くなってきた。

『恋愛小説書いたことのある楷渡君が、そんなこと言うからだよ』

『小説と現実は違うっての。俺が恋愛するわけじゃねえんだしよう。それに・・・俺恋愛何て今まで、いやもしかしたら

ずっと前から沙希のこと好きだったのかもしれねえけど・・・俺は恋愛をしたことがないんだ!』

『そうなんだ。それなら僕も同じだよ。僕も沙希ちゃんが初めて好きになった相手だよ』


何だか、沙希ちゃんにあんなことをしてしまったことも、愛たちに相談をしていたことも、健渡に殴られたことも、

楷渡君と喧嘩したことも全部馬鹿みたいに思えてきた。

恋愛は複雑でとても面倒だけど、友情は簡単に繋がりを取り戻す。

だけど、きっと恋愛だって簡単に繋がりができるって信じてる。


『晃、沙希のことを頼んだぞ。泣かせたりしたら承知しねえからなあ!』



そうして僕にとって長い一日は終わりを迎えた。

放課後までの長かった時間も、放課後を迎えるとその時間はあっという間に過ぎた。

そして、明日僕は沙希ちゃんに自分の想いを伝える。

沙希ちゃんが僕のことを好きでいることが事実ならば、沙希ちゃんの傍にずっといたい。



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