意外な人物の助け
しばらく僕はそこに座り込んでいた。
今日ほどこんなことを思ったことはないだろう。
『ああ、もう僕の世界何て終わってしまえばいいのに』
呟くと、何やら声が聞こえた。
『何しけた面してんだ?』
それは聞き覚えのある。だけど誰だか思い出せないような声だった。
『顔上げろ。男がいじいじしてんじゃねえよ』
言われるがままに顔を上げると、声的に一人と予想していた僕の眼には三人の女子が映った。
『何だ・・・』
それは教室ではいつも目にしていたが、関わったことのない愛達だった。
『何だよって何だよ。あいつと仲良くしてたんだろ。ああ、もしかしてフラれた?』
愛は面白そうでもなく、かと言って心配している風でもない声で言った。
僕はその言葉に何も言えなかった。
『愛、フラれた男にそんなに率直に聞いたら可哀想だよ?しかも晃だよ。尚更メンタル強くないんだからさ』
その横で秋が笑顔で言った。
秋は見た目からしていかにもギャルにしか見えない愛や亜美とは違い、おっとりとしている。よくいうと癒し系キャラといわれる奴だ。
まあ、友達の関係など見た目などでは決まらない。ギャルの中に全員ギャルっぽい奴らがいるとは限らない。
女子何て話しが合えば結局どんな奴とでも仲良くなるんだ。
『フラれたとかじゃない。僕が一方的に酷いことをした・・・まあ、フラれた。かな』
僕は秋のおだやかさに、つい独り言のように言った。
すると、その瞬間愛が笑った。
『馬鹿だろ。何したかしらないけどさ。酷いことって言ったって、どうせお前のことだ。無理矢理キスしちゃったとかそんなんだろ?』
『えっ』
あまりにも的を得ていたので、僕は思わず声を出してしまった。
これではそうだと言っているようなものだ。
『やっぱりな。そんなんでいちいち落ち込んでたら、恋愛なんてできねえよ。なあ』
『本当だよ。うちだったら逆に意識しちゃうけどなあ』
話しを振られた亜美は、素直にそう答えた。
『そうそう。恋の始まりなんて誰にもわからないよ?告白とそういうことが逆になることだってあるんだし。いつどうして好きになるなんて誰にもわからない。
気づいたら恋してるんだよ。あたしだって・・・』
『まあ、そういうことだからさ。まずは真剣に沙希に告白してみたらどうだ?どうせ嫌われてるって思ってるんなら、これ以上怖がること何てないだろ?』
秋が乙女のような顔をして語りだすのを、愛は何の躊躇もなく遮って話しを進めた。
『でも・・・彼女は僕のことを避けて、そんな話し何て聞いてくれないんじゃ・・・』
『まあ、そうだな。あの子も絶対に恋愛なんてしてそうにないから、きっと驚いてるんじゃないの?実際誰とも話さないあの子が、晃とは話してる。
その時点で一歩リードしてんだから』
『そうかなぁ・・・』
僕は今まで人と話すのが苦手で、クラスの中でもほとんど健渡としか話してなかった。
ましてや女子と話す何てことはありえなかった。
だけど、今は違う。彼女と日常的に話すようになり、そして愛達とこうして普通に話している。
正直言うと、これが一番の驚きだろう。
愛達は沙希ちゃんのことをいじめていた。
僕はそのことも含めて彼女達が嫌いだった。
だけど今話して初めて気づいたこと。わかったことがある。
それは彼女達は沙希ちゃんのことを嫌っていないということだ。
そして、僕のこともちゃんと見ていたということだ。
いつもいじめていたのは、もしかして話したかったからじゃないのかなあ。
僕は何故だかそう思った。
『あの子は悪い子じゃない。お前もな』
愛は少しだけ照れくさそうに笑顔で言った。
意外な人物に助けられ、僕は少しだけ元気を取り戻した。
色んなことに視点を向けないと、わからないことってあるもんなんだな。
沙希ちゃんという大きな存在を前に踏み出した一歩は、僕が思っていたよりも大きな一歩だったようだ。
彼女がいたからこそ、僕はこんなにもたくさんの経験をすることが出来た。
正直嬉しくないことだってあるけれど、それでも今はいい経験が出来たと思っている。
恋愛にしても、友情にしても、問題を乗り越えてこそ人は成長できるのだろう。
何の問題もなく、平和に暮らしている方がきっととんでもないところで間違えたりするんだ。
それならば、今のうちに知っておいた方がいいのかもしれない。
さっきまでとは違い、前向きに物事を考えることが出来た。
『そうだ。明日沙希ちゃんにちゃんと話そう。自分の思いを伝えよう』
翌日になり、僕は教室に入るといつもの如く沙希ちゃんの席を見た。
彼女もいつものように黙々と本を読み進めていた。
いつもと違うことは、僕に声をかけてきたのが、健渡じゃなくて愛だということだけだ。
授業が始まると、僕は彼女の方を見つめながらどうしようか。と考えた。
自分の思いを伝えるとは言ったが、どういう風に言えばいいんだ?
それ以前に、彼女は僕の話し何て聞いてくれるのだろうか?
今や僕の見方は愛達しかいない。
しかし、愛達は彼女の仲が良いわけじゃない。
他人から見ても、彼女から見てもいじめていたようにしか見えない。
そんな愛達の言葉もきっと彼女にとっては怖いものでしかない。
そこに僕が出てきたら、自分をいじめていた人達と僕がぐるだったと思われて、状況は最悪な方向に進むだろう。
ならばどうすればいい?
授業中僕は必死にそんなことばかりを考えていた。
その日の昼休み。
僕はいつもは健渡とご飯を食べていた。
最近は沙希ちゃんと楷渡君と食べていたこともあった。
しかし、今日はその誰とも食べれない。
一人立ちすくんでいたところに、またもや救いの手が伸びた。
『何だ。お前食べる奴いねえのか?うち達と来るか?お前でも男だし。男と食べた方が楽しいし。秋が』
昨日のように秋に話しを振ると、秋は笑顔でまたスイッチが入ったように言った。
『うんうん。今あたし達皆彼氏いないからさ。男の子と食べてないんだ。だから食べよ、食べよ!』
テンションがかなり上がっている秋に、僕は段々とこの子のキャラがわからなくなってきた。
昨日のおしとやかさや、癒し系キャラというのは忘れた方がよさそうだ・・・




