ライバルとの遭遇
僕は普段はいつも教室にいる。
教室でただじっと彼女の姿を見つめている。
だけど、今日はいつもとは違った。
僕は廊下をふらふらしていた。
今まで他のクラスに興味を向けたことはなかった。
同じ中学の奴もいないし、他のクラスに友達はいなかったから、自分の教室以外に足を入れることもなかった。
『僕がこんなこと・・・』
廊下を進むにつれ、知らない顔ばかりになっていくことに僕は恐怖を感じていた。
人見知りな僕は、知らない人と関わることは愚か、人ごみも嫌いだ。
こんな所にどうして僕は一人で来ているのだろうか。
少しして、廊下の端っこに着いた。
この学校には7クラスあって、僕は1組だ。
廊下の端から端まで歩いた。僕にとってはとても遠い道のりだった。
『もう教室に戻ろう』
踵を返そうとした僕の視線の先に、探していたとも言える人物の姿があった。
『あっ!』
相手に聞こえるぐらいに驚いた声を上げてしまった。
そこにいた男子・・・この前彼女に話しかけていた男子は、僕の方を向いた。
『ん?』
少し不思議そうな顔をした後で、彼は窓に顔を向けた。
『あ、あの・・・』
僕は恐る恐る声をかけた。
『誰?俺に何か用?』
彼は少しだけイラついたように聞いてきた。
『あっ、いえ・・・ただ』
一瞬引きそうになったが、これで引いてしまったらいつもの僕と同じだと思った。
『この前、1組に来てましたよね?沙希ちゃんを訪ねに・・・』
僕が彼女の名前を言うと、相手の顔色が変わった。
『だから?もしかして・・・沙希に何かしようとでもしてる?』
彼は明らかに不機嫌そうに言った。
僕はここまで聞いて、勝手に解釈してしまった。
ああ、そうか。
あんなに可愛い子だ。
彼氏がいても可笑しくない。と・・・
『ごめんなさい。何もないです。それじゃあ』
僕は必死に泣きそうな顔を隠して、教室に戻ろうとした。
その時、その足を止めるように彼は言った。
『ああ、いや・・・ごめん。今俺苛立っててさ。明らかにお前がそんなことするような奴には見えないよな』
振り返ると、さっきとは違い笑っていた。
僕は更に困ってしまった。
彼女のことが聞けたらと、声をかけたのに・・・
もう必要がなくなった。
引き止めてほしくなかったな。
僕は心の中で弱々しいことを考えていた。
『言っとくけどさ。俺は別に沙希の彼氏とかじゃあないよ。ってまあ、そんなつもりじゃないか。あいつに話しかけた俺を
不思議に思ったんだろう?沙希の奴・・・誰とも話さないからなあ』
顔に出ていたのか。
彼は弁解するように言った。
『沙希ちゃんとは・・・中学が同じとかなの?』
優しそうな彼に、僕は初対面の相手だということを忘れるぐらいに普通に話すことが出来た。
『幼馴染何だよ。家が隣でな。3歳ぐらいの時から一緒だ。まあ、お互いに本が好きっていうこともあってな。色々と
話しが合って仲良くなったんだ』
『そうなんだ』
やっぱり、彼女と仲良くなるには、本という共通の話題を出さないといけないんだな。
僕は本何かあまり読まないからな。
彼氏ではないということがわかったが、それでも彼が彼女に近い存在だということには変わりはない。
僕何て話したことすら、きっと顔すら覚えていないだろう。
そんな僕と比べたら、大きな距離の違いだ。
僕は心の中でため息を吐いた。
『沙希と仲良くしたいって思ってる?』
彼は突然真剣な顔で聞いてきた。
『うん』
僕も彼に釣られて真剣な顔になった。
実際真剣だ。
彼女のことが可愛いと思っている。
だけど、僕は彼女と仲良くなりたいだけで、別に彼女をどうにかしたいとは思っていない。
『そうか。良かったよ。沙希に友達が出来て、お前なら安心して友達でいらせれるからな』
少しひっかかるところがあったが、要するに彼は幼馴染として、彼女に友達が出来ないことを心配しているのだろう。
『俺の友達にもなってくれよな』
『えっ、うん』
友達の多そうな彼に、そんなことを言われたから僕は驚いてしまった。
『以外かもしれないけど、俺はこう見えても友達いないからな。というか・・・俺はあんまり学校に行けてないんだ』
『そう、何だ・・・』
どうしてだろうか。疑問が出てきたが、僕はその疑問を心の中で抑えた。
ところが、そんな僕の心情を察してか。
『俺は事情があって学校には行けないんだ。色々忙しくてな。実はお・・・』
彼が何かを言おうとした時に、5時間目の始まりを告げる予鈴が鳴った。
『そろそろ戻った方がいいんじゃない?1組だろ』
『う、うん・・・』
彼の言葉が気になったが、授業に遅れるのは困るので、僕は教室に戻ることにした。
教室に向かって歩いている途中で、僕は大切なことに気づいた。
『そういえば、名前聞いてなかった・・・』
特に何を話したという訳じゃないけど、友達になってと言われた相手に名前を言ってない。それに聞いてない・・・
はぁ。やっぱり僕って人と話すの苦手なんだな。
ため息をつきながら教室に入ると、健渡が少し驚いた顔をしてこっちに来た。
『何処行ってたんだ?お前のことサッカーに誘おうとしたのによ。お前が教室にいない何て珍しいじゃないか』
『えっ、あぁ・・・』
僕がどう答えようかと迷っていると、本鈴が鳴った。
『おっと、やべぇやべぇ』
健渡は急いで自分の席に戻った。
僕は5時間目が始まってからも、また彼女の席を見た。
『えっ・・・』
僕は思わず声をあげそうになった。
隣の席の子が見てきたので、僕はしまっと思いながら口を塞いだ。
それにしても、どうしたんだろうか?
体調でも崩したのかなあ?
それとも、帰っちゃったのかなあ。
どうしよう・・・
僕はその時間中。ずっと彼女のことばかり考えていて、全く授業に集中出来なかった。
『なあ、晃。それでさっきの話しだけどさ』
健渡が近づいてきたが、気にかけている余裕などなかった。
僕は彼女のことしか考えられなかった。
教室を飛び出した。
その時に健渡が心配そうに声をかけているのが聞こえたが、僕はそんなこともおかまいなしに駆け出した。
真っ先に行ったのは保健室だった。
『す、すいません。失礼します!』
僕は保健室だということを忘れるぐらいに、大声で、盛大に扉を開けてしまった。
『こら!保健室では静かになさい』
『あっ、ごめんなさい・・・』
そこで少しだけ冷静になった。
室内を見渡したが、彼女どころか、生徒一人いなかった。
僕は扉を閉めてから、どうすればいいか考えた。
焦った。
どうしよう。
何で。
沙希ちゃんどうしたんだ?
もしかしてあいつらにいじめられて、教室にいられないようになったんじゃ・・・
しかし、そんな僕の心配などよそに、廊下の向こうに彼女が現れた。
僕は彼女に向かって走った。
『沙希ちゃん!』
ゆったりと歩いていた彼女は、僕の声に驚いたように固まった。
『あっ、ごめん』
僕は近づいて謝った。
一体僕は一人で何をしているのだろうか。
何だか恥ずかしくなってしまった。
たかが1時間教室にいなかっただけなのに・・・
僕が恥ずかしげに黙っていると、彼女はきょとんとした顔でじっと見つめていた。
『えっと・・・あの』
僕は俯きながらどうすればいいか困った。
さっきまでの勢い何てなくなって、僕はいつもの僕に戻ってしまった。
『あのさ・・・』
『あっ、もうすぐ授業ですよ』
彼女は消えてしまいそうな声で言った。
『本当だ。ごめんね』
僕はそう言って教室に戻る道を歩いた。
教室が一緒なのだから当たり前だが、何だか二人で同じ道のりを歩いていることが嬉しくてたまらなかった。
二人で教室に入ると、もちろん変な目で見られた。
だけど、今の僕にはそのことさえも嬉しく感じた。
僕はこの時に新たな一歩が踏み出せた気がした。




