着物の良さを分かって欲しい女子大生の私が異世界転移し、興味を持ってくれた王子と話が盛り上がって、なぜか妙な雰囲気になりました
「私はこの国の王子だ。そなたに……興味がある」
「……ええええ!!??」
「着物、と言ったな、その服は。深い海のような鮮やかな色と、それを彩る気品のあるデザイン。そして、どこか心を落ち着かせてくれる雰囲気……教えてくれ、その服のことを!!」
私の名前は、鈴良ひらり。ごく普通の大学生のはずなんだけど……何で異世界の王子様に突然口説かれているの!!?? あ、いや、私というか着物がなんだけどね。
話は1時間前に遡る。私は自分の部屋で、着物姿で頭を抱えていた。別にこれから卒業式に出るわけでも、お見合いに行くわけでもない。単純に私は……着物が好きなのだ。
「はぁ……もっと着物の良さを分かってくれる人いないかなあ。友達は動きづらいとかスマホ持てないとかコスパ悪いとか言うし、お父さんもお母さんも特別な時だけにしなさいとか言うし」
いや、言いたいことは分かるよ? 実際、着物は今の時代には向いてない。慌ただしくて、コスパやタイパが重要視される今の世の中に合っているとは思えない。だけど……手間や不便さを補って余りあるくらいの魅力が、着物にはあると思うんだけどなあ。
「日本で無理なら、異世界の人に……って何言っているんだろう、私。あれ……?」
その瞬間、私の体は光に包まれ、気を失った。目を覚ますと……見たことのない場所に私はいた。え……まさか本当に異世界に!!?? てか、雑過ぎない?
「常識的に考えれば、日本の違う場所だけど……無理っしょ、あったとしても寝ている間に周りにバレずに運んでくるの。異世界転移しました、の方がよっぽど現実味あるし」
てか、やっぱり着物姿のままなのね。いつの間にか下駄まで履いているのは……ツッコんじゃいけないのかな? とりあえず辺りを歩いてみたけど……やっぱり全然わからない。どうしよう、異世界の地で迷子なんて。
「すまない、ちょっと教えてくれないか?」
「あ、はい、何でしょう?」
「その変わった服は……何というのだ?」
「えっと……着物ですけど」
急に男の人に話しかけられたけど……すっごい美男子、年齢は私と同じくらいかな。しかも何だかこうオーラみたいのがあるし……もしかして、偉い人だったり?
「実は……」
***
ということがあり、今に至るわけで。いや、確かに美男子でオーラがあるとは思ったよ? でも王子って……本当なのかな? でも……着物褒めてくれたからいっか!! 着物好きに悪い人はいない♪
「ほう、そなたは異世界から来たのか」
「えっと……私が言うのもなんですが、信じてくれるんですか?」
「過去にもそういう事例はあったし、何よりそのような服は見たことがない。異世界から来た、と考える方が無難だろう」
「そ、そうですか」
「私はこの国の王子のリソデだ。そなたの名前は?」
「えっと……鈴良ひらりです」
うーん、王子っていうと偉そうで頭が固いイメージがあったけど、この人は腰が低いし理解力があるし、良い感じだな。うん、何だかこの人とは楽しく着物談議が出来そう♪
「なるほど、そなたの国である日本の伝統的な衣装なのか」
「はい。まあ、今は動きにくいとか、着るのに手間がかかるとかで普段着ではないんですけどね。特別な時だけです、着るのは」
「そうか……それだけ美しく気品があるのにもったいない」
「綺麗で気品があるというんでしたら、プリンセスドレスがあるんじゃないんですか?」
「確かにあれも美しい。しかし、この着物にはそれにはない何かがある。どこか心が落ち着くというか、穏やかで趣を感じるというか」
分かる分かる!! 派手で豪華なお姫様ドレスも女の子として憧れるけど、着物はそれとは違うベクトルの良さがあるんだよね。日本らしい調和がとれた静かな美しさっていうか、わびさびっていうか、風流っていうか。
「これと似たもので浴衣っていうのもあるんですが、こちらは着物よりも着る機会が多くて、お祭りや温泉地で着るんです。あ、温泉っていうのは要はお湯につかる場所で」
「なるほど、湯浴みか。確かに祭りや湯浴みの場に合うかもしれん」
「ですよね!!」
「ちなみに、その深い海のような色は何というのだ?」
「瑠璃色です。ラピスラズリって宝石がありまして、その色に似ているんですが」
「なるほど、実に美しい」
うーん……私じゃなくて着物を褒めているのは分かっているんだけど、こんな美男子に言われるとちょっと照れちゃうなあ。でも、やっぱり瑠璃色って綺麗だよね、一番好き。そういう意味でも、この人とは話が合うなあ。
「この国でも、国民が着物を着てゆっくり楽しむ機会を作れたら良いのだが……叶わぬ夢か」
「そうなんですか?」
「今、この国の情勢は……不安定だ。戦は絶えず、政治は灰色で、国民の生活も楽ではない。衣服に趣を求める余裕など……ないのだ」
「……」
「私もそんな状況下で、どこか目指すべき指針を失っていたが……見えたような気がする。そなたの着ている着物、それを心置きなく楽しめるような、そんな国にしたい!!」
「あはは、何だか大袈裟ですね」
でも……的外れではないのかもしれない。私は日本っていう平和で豊かな国にいるから……着物を楽しめているんだよね。
「ありがとう、ひらり。君に会えて……良かった」
「そ、そうですか」
「転移魔法で、今から君を日本に戻してあげよう。この国でもっと一緒に話したい気持ちもあるが……君は日本が好きなんだろ?」
「……はい」
「やはり……な。さらばだ、また……会う時まで!!」
***
あれから数年経ち、私は社会人になっていた。異世界に行ったのはあれっきり、ほんの数時間だったけど……今でも頭の中に強く印象に残っている。
「リソデ……何しているかな。案外着物を国中に広めちゃっていたりして……あはは、さすがにないか」
……着物の良さを理解してくれた人。彼のことが頭にあるからか、今私は恋人はいない。異世界にいる以上会うのは難しいだろうし、そもそも彼は王子だ、身分が違いすぎる。でも、もし会うことが出来たら……あれ?
「嘘……どうして」
「今日は着物は着ていないんだな」
「いつも着ているわけじゃないから……それでも私だって分かったんだ」
「当然だろう。着ているそなたも魅力的だから……美しいのだ」
「そっか……」
興味を持ってくれたのはあくまで着物であり、私じゃないって思ってた。でも……ちゃんと私自身のことも見てくれていたんだ。
「あの後、何とか国の情勢を安定させることが出来た。今では国民も着る服を楽しむ余裕を持てるようになっている、そなたの……おかげだ」
「私は……何もしてないよ」
「いや、そなたが着物という存在を教えてくれたおかげだ」
「……うん」
私も着物の良さを分かって欲しかったから……嬉しいな。だから、自分に誇りを持てたんだろうし。
「私としてはこれから着物を我が国に広めたいのだが、なにせ私は着物に詳しくない。だから、そなたにご教授願いたくてこの世界に来たというわけだ」
「あはは……凄い情熱」
「まず、そなたが言っていた、温泉地で浴衣を着るというのを体験させてくれないか?」
「もちろん!! 今度の休みでも、一緒に行こう」
「出来れば……初めて会った時に着ていた瑠璃色の着物を着た姿を、また見たいのだが」
「任せて!! 今、着てくるから」
彼は王子だからずっと日本にいるわけにはいかないだろうし、恋愛は難しいかもだけど……もし少しでも可能性があるなら、夢見ても良いよね。




