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騙り神の忘却  作者: 不透明 白
遅咲きの桜は式典にさよならを

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9/15

 〈 ろ 〉


「骸井君、二人に初めて会ってみた感想はどう?」

 柔らかい口調でそんなことを聞きながら、神下は空になったマグカップを洗面台へと置いた。

 それに対して骸井は、文庫本に目を通しながら淡々と、

「正直、彼女たちが悪霊退治とやらに向いている気がしない。特に新井リコ、あいつは絶対無理だ。というか、それ以前に性格が普通にめんどくさい。僕とは真反対過ぎて絶望的に相性が悪い。だから幸先なんかまったく見えていない」

 と答えた。

「ふーん……なんだか、仲良くなってくれたみたいで良かったよ」

「耳が腐っているのか? ――足手まといになる可能性が拭えないから、個人行動を願いたいというのが僕の感想だ」

「君の言葉はいつもオブラートがないね」

「……オブラートを実際に見たことはないが、それって実際に飲みやすくなるものなのか?」

「それはまぁ、薬を包む技術次第かもね。京都の人とかは上手なんじゃないかな」

「……そういえば、忘れていたけど君も京都出身だったな」

「え、違うよ?」

 神下はわざとなのか、天然なのか、少し困惑した笑顔でそう答えた。

 あまりにも短すぎる顔合わせ会で浮き出る「人となり」など指先ほどでしかなく、また、これから始まる「学校生活」という未知の概念に対してどう接していいかもよくわからなく、ただただ未確定事項が滞積する現実を目の前に、骸井はとりあえず考えることを辞めた。

 そして、目の前を見る。

 白いベッドの周りを囲むように付いている白いカーテン、白い壁に白い天井の部屋であることを確認する。そして、白衣を着た白い肌の男がいる。

 身近な現状把握という小さな関心への集中により、頭をスッキリさせて心を落ち着かせる。


「骸井君は『原存』が何か……知っているかい?」


 神下は何でもない雑談みたいなテンションでそう言った。

「それは……どういう意味で訊いているんだ」

「別に、そのままの意味だよ。君も自分自身が「原存」だと自覚したいつかの日があるはずで、それで言うと、最初から『原存』の自覚があったなんて奴は、いままで関わってきた中で一人もいないんだ。だから不思議に思ってね」

「それは僕に、僕なりの「原存」というものの〝解釈〟がどうなのかを訊いているのか?」

「そうだね」

 骸井はしばらく口を閉ざして、思考した。

 その間、神下は急かすこともなくゆっくりと骸井の言葉を待っていた。

「能力が、一般の人々と比べて少しだけはみ出した存在であり、だから偉いとか凄いとかは無い。『原存』だと自覚してはいるけど、ただそれだけに過ぎない。初めて自覚した時は、自分の知らない一面を知れたあの時みたいな感覚に似ていて、些細だし唯一無二とは程遠い、ごくありふれた感覚の一つだった」

「うん」

「だから、神に選ばれたとか、全能感とかそういうんじゃない。人間だったら……いや、【日本という歴史的に見て特異な島国に生まれた】という条件に当てはまっていたのならば、いつ誰が原存というものになっても変じゃないと、僕は考える」

「俺も近い考えだね。もしかしたら、一種の病気なのか、はたまた君が言ったみたいに日本という〝島国の特殊性〟による歪みでそうなってしまったのか、は定かではないけれど、でも、そこに「何者かから選択された」という意思は感じない」

「神下はどう考えるんだ」


「うーん、進化の予兆かな」


「進化の予兆……」

「突然変異がその時代に生き残るには、淘汰を()ね除けて環境に適応する必要がある。そして、君とか新井姉妹みたいな突然変異が、〝この時代と環境に淘汰されていなくなる〟という想像が俺にはできなくてね」

「そう考えると〝僕が最近になって目を覚ました〟っていうのも何か関係がありそうなのが何とも」

「まぁ、どういう経緯があったにせよ、君みたいなのがこの時代まで淘汰されていないのが、俺の考える進化というものの論証の一つなのか、それとも君が特殊事例なだけなのか……なんていくら考えても埒が明かないか」

「まぁ、それはそうかも知れない」

「……うん、ありがとう! 重要参考情報として今後の考証に役立たせてもらうよ」

「好きにしてくれ」

 そして、神下は穏やかな表情のまま、窓の外に流れていくまばらな桜雨を目で追った。

 しばらく時間が経過して、お開きの合図かのように、校舎の遠くの方で管楽器の音合わせの旋律が鳴り始めた。

「じゃあそろそろお暇させてもらう。この後は……学校の構造とか調べるために散歩してから帰ることにしようかな」

 こうやって現状把握の範囲を広げていくことが、問題解決の近道へと繋がるのだ、と心の中で自問自答して、神下の返事を待つ骸井。

「わかったよー……あ、この後、保健室で先輩の先生と学校生活での勝手とか、作法とか掟とかその他諸々を教えてもらう会が開かれるから、俺に用があったらメールにしておいてくれるとありがたいかな」

「了解……じゃあな」

「あぁ、またな」

 そう言い交わして、骸井は保健室を後にした。


2024/04/04に初投稿。本文は当時の文章から加筆・修正を加えての投稿になります。

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