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騙り神の忘却  作者: 不透明 白
遅咲きの桜は式典にさよならを

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11/15

 〈 に 〉



「えーここが職員室です!」

 縦に長い部屋にドアが三か所。そのドアの上部に付いているモザイク窓からは白い光がぼやけて透けている。

 職員室から廊下を挟んだ窓の外を見てみれば、野球部、バスケ部、サッカー部などの運動部の部室が連なった小さな棟が見える。

「手前の机が一年生の担任、その奥が二年生の担任で、一番奥が三年生の担任。用がある二年生は大体みんな、二番目の扉から用件を伝えることが多いよ」

「なるほど」


「はい、ここが体育館です!」

 中ではバスケ部やバレー部が練習していたので、扉の外までの紹介だった。

 骸井は呟いた。

「慣習の温床……」

「え、なになに?」

「いや……何でもない」


「ここが普段使われない別棟のコミュニケーションルームです!」

 本校舎と比べて、比較的に綺麗な外観をした二階建ての建物を指してそう言った。

「コミュニケーションルームってなんだ?」

「うーん、多分この名付けに意味なんかないと思うよ?」

「そういうものか」

「そういうものだよ」


「……それで、これが桜の木です!」

「桜の木……何故、桜の木?」

 それは、グラウンドの端っこにひっそりと植えられたまだ開花しきっていない一本の桜だった。

 何かの特徴があるわけでもない、ただの桜の木。

 それに、桜の木は校舎の周りに結構な数植えられているわけで、骸井は本当にその意図を測りかねていた。


「骸井君は知っている? 桜の木の下には……」


「梶井基次郎だな」

「そうだけど、でも違うよ。その場合は画数が多い方の「樹」を使わなきゃだもん!」

「口頭じゃあわからないだろう」

「じゃあ次から「樹」って使うときは、『き』の部分を強調して言うことにします! 《き!》……ってね。はい、これでいい?」

「なんでこっちが悪いみたいな感じにさせられているんだ……」

 ――骸井は嵯峨野から理不尽に少し嫌われた!


「……んで、なんだよ」

「だから! ……えーっと?」

「おい」

「冗談、冗談! ちょっと意趣を返したくなっただけだよ。こほん。……この桜の木、変じゃない?」

「変? 変だってそんな風には……」

 でも、よくよく見ると確かにこれだけ雰囲気が違う気がする。

 その直感が合っているのか間違っているのかはわからない。

 でも小さな違和感はあった。

 それは例えるなら、「何か変わったのに気付かない?」と付き合っている彼女に詰め寄られるも、全くもって見た目の変化が見られず口ごもり、結果として理不尽にキレられるようなそんな些細なものだった。

 それで詳細が「前髪を五ミリ短くした」という難解ミステリーで、その小さな変化は四捨五入してゼロになるだろうと呆れかえるような……そんな違和感。

 と、仮想の彼女を勝手に妄想してげんなりする骸井。

 そんな様子の骸井を見て、嵯峨野は心配そうに口を開いた。

「顔色悪そうだけど、どうしたの?」

「何でもない。続けてくれ」

「そう? えっとね……って、そっちが答える番でしょ!」

「あぁ、そうだった。と言っても、この木自体は普通だし、無理矢理何かないか探したとしても、それは木の個体差かただのこじつけにしかならないような答えしか浮かばない」


「ふっふっふ……骸井君もまだまだだね」


 普通ならいらいらしそうなセリフも、嵯峨野が言うと不思議と気にならなかった。

「それで、答えは何なんだ?」

「花だよ花。お・は・な!」

 そう言われたので、骸井は木の枝に近付いてよく見てみた。

 しかし、どの枝を見ても小さな蕾がなっているだけで、まだどれも開花していない。

「まだ咲いてないじゃないか」

「うん。そうだよ」

「はぁ?」

 骸井は一瞬、理解に苦しんだが、すぐに嵯峨野が言いたいことを理解する。


「逆だ……何でこの木だけ一つも〝開花していない〟んだ?」


 他の桜の枝にも蕾はあるが、一つも開花していない桜は、目の前のこの木以外に一本も見当たらない。

「そうなんだよー、不思議だよね」

「これ本当に桜の木で合っているのか? もしかしたら実は〝梅の木〟で、咲く季節がズレているだけなんじゃないのか?」

「いや、それは無いよ。だって一年前の四月後半、この桜の木が全開に咲いていたのを私はこの(目)(目)で見たからね」

 ここで嘘を衝く意味がないはずなので、ひとまずはその意見を飲み込む骸井。

「じゃあ、仮にこの木が桜だったとして。そして、他に植えてある桜とは別の種類であるとするならば、だ。それ以上の情報が何かあるっていうのか? それともただ自慢したかっただけか?」


「勿論! そんな事は無いから安心して考えてどうぞ」


 その物言いから察するにおそらく「何らかのメッセージがあるから推理して当ててみろ!」という事を遠回しに言っているのだろう。

 そして、嵯峨野のその笑顔から思い浮かぶのは、掌の上で踊らされている自分だ――と、骸井は動揺したが、彼女に察される前にむりやり思考を前傾させる。

「――この木の種類を聞いてもいいか?」

「ヒントなら出せますよ!」

「……もうちょっと考える」

 骸井の中で『ヒントを貰う』という事は(イコール)『僕は自分で考えても答えが導き出せない馬鹿なので助けてください』と同意であった。

 なのでおいそれと、ヒントを貰う事など、あってはならないのだった。


2024/04/04に初投稿。本文は当時の文章から加筆・修正を加えての投稿になります。

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