根性であの太陽に想いを伝える! (今生梨はじめ視点)
勇気を出して、すごくドキドキしながら、飛び出しそうな心臓を抑えながら、根性部のドアを叩いたけど、これでよかったんだろうか……。
みんなたぶん、面白がってる。
朝日奈副部長なんてあからさまだ。おおきな瞳をキラキラさせて、まるでネズミのおもちゃを見つけた猫みたいに、しっぽをフリフリするみたいにあとをついて来る。
二年の学年アイドルの二人、柏木先輩と神崎先輩も、なんだかスマホの準備を整えながら、仲良さそうに並んで歩いてる。僕の告白シーンを撮影して、結果に関わらずSNSにさらされそうな気がする……。
「今生梨はじめよ」
隣を歩く段田部長が、僕に言った。
「当たって砕けろなどとは言わない」
「でも……」
僕は下を向いた。
「なんだか……砕けそうな気がします」
「しかし、たとえここで砕けたとしてもだ」
段田先輩の声は強かった。
「当たらなければ一生後悔することになる。前へ進むことなく終われば、何もしなかった自分を一生許せないだろう」
「……そうですね」
その通りだと思った。
「彼女に想いを伝えるのは誰のためだ?」
「えっ?」
そう聞かれて、少し考えて、答えた。
「そりゃ……自分のため……」
「彼女のためだと思うんだ」
「彼女の……ため……?」
「そうだ。自分が彼女と付き合えば、どれだけ彼女を幸せにしてあげられるだろうと考えるんだ」
「そ……、そんな自信は……」
「俺もなかった」
「えっ?」
「朝日奈笑に告白した時だ。俺は彼女のために根性を振り絞り、告白した。しかし正直、自分が彼女を幸せにできるなんて自信はなかった」
「じゃあ……、どうやって……」
「それゆえのヤケクソだ。今はそんな自信などないが、付き合うことができたなら、絶対に彼女を幸せにしてみせる! そう自分に信じ込ませ、ヤケクソ根性で突っ込んだのだ!」
「彼女の……ため……」
「自分のためだと思うから『自分が我慢すればいいや』と思ってしまうんだ。彼女を幸せにするためなら、それはしなければならない! と思うだろう?」
「はい! 彼女が幸せになるなら、それはしなければ!」
「よし! その意気で突っ込め!」
テニスコートが見えてきた。
「で!? おまえの想い人の彼女とは、どの女子だっ!?」
高嶺さんの姿が、ちょうど見えた。
栗色の長髪を揺らして、スマッシュを決めたところだった。
僕の視線に気づいて、段田部長が聞く。
「あれか?」
「高嶺白百合さん──」
うわごとのように僕はその名前を口にした。
「同じクラスで──級長をやっています。僕にとって高嶺の白百合です」
「うわぁ……」
背後で朝日奈副部長の声が、諦めたように呟くのが聞こえた。
「あれはかわいいわ……。無理……」
神崎先輩の声も聞こえた。
「あれに告白なんて、無謀……」
柏木先輩が神崎先輩に言うのが聞こえた。
「いやいや……。何事もやってみないとわからないよ」
「見ての通り、超絶美少女ですけど──」
僕はみんなに弁解した。
「見た目だけじゃないんです。中身が本当に──」
「あーーーっ!」
遠くからかわいい叫び声のようなものがあがり、二月の空に響いた。
見ると、高嶺さんがこっちを見ていて、僕を見つけて頬を膨らませながら、駆け寄ってきていた。
「もぉっ! なっしーくん、部活に出てこないかと思った!」
段田部長が僕に聞く。
「なっしーくん?」
わかりやすく説明した。
「僕のことです。『今生梨』だと『根性なし』みたいだからって……。優しいでしょ?」
「なんだ、そんな愛称で呼んでくれる仲なんだ?」
朝日奈副部長がそう言うけど、わかってない。
高嶺さんはみんなに優しいんだ。僕だけにじゃない。
テニス部のみんなにそれぞれ愛称をつけて、その名で呼んでるんだ。僕だけが特別じゃない。僕も自分に言い聞かせてるんだ、『勘違いしちゃいけない』と──
それでも勘違いしてしまいたくなる。
僕をまっすぐ見つめて駆けてくる彼女をこうやって見ていると、太陽に手が届きそうな気になってしまう。
ドキドキして、何かを期待して、胸が張り裂けそうになってしまう!
ラケットを手にしたまま、高嶺さんが僕の前に立ち止まるなり、僕の後ろにいる二人に気づいて言った。
「わっ!? 二年の……柏木先輩と神崎先輩じゃん! なっしーくん、親しかったの?」
僕は破裂しそうな心臓を抑えながら、言った。
「僕……、根性部に入ったんだ」
「根性部? テニス部とかけもちで?」
「うん」
「ふーん……?」
すべての存在を許すような彼女の微笑んだ顔が……眩しい。
斜め後ろから、段田部長が、僕の耳に囁きかける。
『根性だ。今こそおまえの根性を見せてみろ。根性があれば彼女を幸せにできるんだ。行け!』
そうだ……!
僕ほど彼女を想っているやつはいないんだ!
『告白しろ!』
段田部長が僕にけしかける。
『ただし手短にな!』
緊張するとセリフが長くなりすぎる僕へのアドバイスもくれた。
「高嶺さん!」
喉から心臓が飛び出しそうな勢いで、僕は言った。
「前からずっと好きでした! 僕はあなたを必ず幸せにします! 僕ほどあなたを好きなやつは他にいません! 僕なんかにこんなこと言われて迷惑かもしれませんけど……っ!」
『長いっ!』
後ろから部長に制止された。
『要件だけを言え!』
「ぼぼ……僕と……」
握手を求めて手を差し出した。
「付き合ってくださーいっ!」
ぽん、と、差し出した僕の手に、何かが置かれた。
顔を上げてみると、かわいくラッピングされた小さな箱がそこに乗っていた。
もっと顔を上げると、高嶺さんの嬉しそうな笑顔が見えた。
「今日、バレンタインでしょ? チョコレート渡そうと待ってたんだから」
「じゃあ……!」
「気持ち、嬉しいよ。すごく響いた」
「じゃ……、じゃあ……!」
「よろしくお願いします」
高嶺さんが、差し出した僕の手を、握ってくれた。
後ろで先輩たちの「万歳」の声が、僕を祝福してくれた。




