高級チョコがいっぱい
生物学室の実験用テーブルを囲んで、みんなでお茶を飲む。
テーブルの上にはチョコレートがいっぱい置かれた。柏木くんがふるまってくれる高級チョコレートだ。ゴディバ、リンツ、レオニダス──目を楽しませてくれる意匠を凝らしたお洒落なチョコレートが立ち並ぶ。
「そういえば──今日はバレンタインだったわね……」
梓ちゃんが睨むような目つきになって、言った。
「あんたもしかして──これ、ファンから貰ったやつ?」
あっ……と思った。
そういえば……。確かに……今日って、バレンタインデーだった。
さっぱり忘れてた。
コンジョーくんのほうを見ると、彼もどうやらさっぱり忘れてたらしくて、驚いた顔をしている。
二人で顔を見合わせて、ククッと苦笑いをしていると、梓ちゃんが柏木くんにまた言った。突き刺すように──
「心をこめてファンがくれたチョコを他人に食べさせるなんて、最低」
すると柏木くんが柔らかく笑って、鞄の中からそれを取り出した。
かわいくラッピングされた箱が、サンタクロースの袋みたいな鞄から、どっちゃり現れた。
「ファンから貰ったのはこっち」
優しい笑顔で、梓ちゃんを安心させるように言う。
「中身はたぶん手作りチョコレート。ありがたく味わっていただくよ。そこに並べたのはオレが自分のカネで買ったやつだから、安心して食べて?」
あたしはココナッツを着たプラリネをひとつ手に取ると立ち上がり、コンジョーくんの前に歩いていって、差し出した。
「ごめんね、忘れてて」
「いいんだ、朝日奈笑。その気持ちだけでじゅうぶんだ」
あたしの指から直接食べてくれた。
ちっちゃいお猿さんみたいでかわいい。
フン、と腕を組んで横を向いてる梓ちゃんに、柏木くんがなんだか心配そうに聞く。
「ところで神崎は誰かにあげたのか?」
梓ちゃんが即答した。
「笑にだけ」
そっか……。
珍しく板チョコ学校に持ってきてて、お昼休みに一緒に食べたけど、あれってバレンタインチョコだったのか。
「コンジョーくんは笑の彼氏だし──」
梓ちゃんがなんだかいつも以上にツンツンしてる。
「あんたにあげて勘違いされても困るしね」
あたしたち四人が仲良くお茶をしている横の隅のはずれで、新入部員の今生梨くんが寂しそうにしてるのに気づいて、あたしははっとして声をかけた。
「今生梨くんは? 誰かからもらった?」
「ぼくは……」
照れくさそうにうつむいて、答えてくれた。
「毎年お母さんからだけです」
「げ、元気を出せ少年」
コンジョーくんがうつむいて励ました。
「俺も同じだったし、今年も……」
『ごめん!』
今年も、お母さんから……いやお母さん、死んじゃってもういないから、今年も一個ももらえなかった、彼女ができたのに──そう言いたそうな口を途中で止めた彼に、あたしは心の中で謝った。
『来年は忘れないから!』
慣れてなかったのだ。
今まで男子にチョコレートなんて、義理でもあげたことがなかったから。
それほどまでに恋愛に疎かった自分を責めた。
「段田先輩!」
今生梨くんが、コンジョーくんに聞いた。
「根性があれば、チョコレートをもらうことって、できますか?」
「根性があれば何でもできる!」
恥ずかしそうに横を向きながら、でも声は自信たっぷりに、コンジョーくんが答えた。
「バレンタインデーにチョコレートをもらえなかったとしても、根性で我慢することができるんだっ!」
思わず泣いてしまったあたしの頭を、梓ちゃんが撫でてくれた。
「も……、もらえないんですね?」
幻滅したようにうなだれる今生梨くんに、コンジョーくんが言う。
「男は根性だ! 根性さえあれば何でもできる! しかし他人のすることはどうにもならない! できるのは自分が我慢することだけなんだ!」
「でもさ、コンジョー」
柏木くんが横から言った。
「おまえ、根性でオレと仲直りしたことあるじゃん?」
「そうなんだ?」
あたしは顔を上げ、興味津々になったけど、他のみんなはどうでもいいみたいだ。
コンジョーくんが続けて言った。
「根性ではどうにもできない恋の距離……。できるのは自分のことだけだ。しかし! 自分の想いを根性で相手に伝えることはできる!」
「おお……っ?」
今生梨くんの顔にまた期待の色が戻った。
「待っていてはいけない、ということですね?」
「そうだっ! 根性で押すんだっ!」
そしてコンジョーくんが、みんなが興味津々になることを、今生梨くんに聞いた。
「おまえが想いを寄せている女子というのは、どんなやつだ?」
梓ちゃんの目が輝いた。
高級チョコをもぐもぐしながら、今生梨くんの返答を待ってウズウズしてる。
柏木くんも身を乗り出した。
今生梨くんはもじもじすると、すぐには答えず、こんなことを聞いてきた。
「男は根性……なんだとしたら、女は何ですか?」
「何っ!?」
コンジョーくんがびっくりしたように背筋を伸ばす。
「男は根性、女は◯◯」
今生梨くんがクイズを出すように、みんなに聞いた。
「◯◯には何が入ると思いますか?」




