根性信者たち(柏木陽翔視点)
コンジョーはやっぱり凄い。
重いコンダラなんてトレーニングアイテム、オレは聞いたこともなかった。
神崎もやっぱり凄い。そんな都市伝説みたいなアイテムを知っていたとは。
しかも今日の学校帰りには自分があれを引いて帰るんだと言ってウズウズしている。さすがは根性系女子──
オレなんて、まだまだだな……。
やはりあいつらへの憧れが止められない。
部室で一人、そんなことを考えていると、顧問の瓢箪丸先生がガラッと入ってきた。
「おや、イケメンくん。一人かひっ?」
「ええ……。みんな、まだやることがあるらしくて──」
「苦手克服はクリアしたのかなはっ? キミは確か……ピアノを弾けるようになることだったよねへっ?」
「忙しくて、なかなか……」
「何が忙しいのかしら?」
音もなく部室に入ってきていたるんちゃん先生がいつの間にかそこにいて、地の底から響くような声で言った。
「……この前、神崎梓とデートしてたわよね?」
まるで見ていたように言うるんちゃん先生に、オレは笑顔で弁解した。
「あれはデートなんかじゃないよ。みんなへのクリスマスプレゼントを選ぶのに付き合ってもらっただけ」
弁解するのがなんだか悲しかった。
「ボクのところへ……音楽室へはちっとも来てくれないくせに、キャラクターショップなんかには行くのね? しかもあんなブスと一緒に。ボクへのプレゼントはなかったくせに……」
「あ。クリスマスには渡せなかったけど、あの時るんちゃん先生へのプレゼントも買ったんだ。今度レッスンしてもらう時に渡すよ」
オレがそう言うと、鬼神のようだったるんちゃん先生の顔が、ピンク色のラナンキュラスの花のように、ぽんっとかわいくなった。
「ほんとぉっ!? ボク、期待しちゃうからねぇっ!?」
そう言いながら、ピンク色のほっぺたをおさえて逃げるように部室を出ていった。
おもしろい先生だ。でもなんかちょっと怖いので、一人で音楽室に行くことはなかなかできていなかった。
クリスマスの時にもどこにいるのかが不明だったから渡せなかったけど、さすがに渡してあげないとな。朝日奈さんのと同じ、ねこ缶入りのクッキー。
「そうだ、そうだ。イケメンくん、クリスマスの時はプレゼントをありがとう」
瓢箪丸先生がオレにぺこりと頭を下げる。
「嬉しかったよ、あれは私の大好物だからねっ」
妖怪ねこむすめのフィギュア、すごく気に入ってくれたようだ。
部室の扉が開き、ようやく部員が一人、入ってきた。
神崎だ。
オレを見つけると、まっすぐに近づいてくる。
「ねぇ、柏木」
話しかけてきた。なんだかドキドキしてしまう。
「笑に頼まれたんだけどさ、あんた、コンジョーくんに言ってあげてくんない?」
「え……。何を?」
「あまり無理するなって。身長を伸ばしたいなら、きちんとしたやり方でやれって」
「ええ!?」
意外な発言に、オレは驚いてしまった。
「きちんとしたやり方? あの『重いコンダラ』にキミも心酔してたじゃない? コンジョーは根性でなんでもできる。だから身長を伸ばすにも根性でやるのがあいつなりのきちんとしたやり方だろ?」
「うん。私もそう思ってた」
神崎が素直にうなずいた。かわいい。
「でも、笑に言われて考えてみたら、それは昭和の時代の間違ったやり方だなって……。たとえ根性で身長が伸ばせたとしても、体に無理がかかっちゃうよなって、思って──」
「あ……。確かに」
オレもそう言われてようやく気がついた。
「無理して身長伸ばして、引っ張られて骨が伸びすぎて、洗濯物みたいになっちゃったら大変だな」
プッと神崎が笑った。笑ってくれた。
やった! オレ、神崎のこと、笑わせたぞ!
「なんていうかさー」
照れたように笑いを消すと、神崎が自分の長い髪をいじりながら、横を見ながら言う。
「私たち、根性信者になりかけてたかもね」
「根性信者?」
「コンジョーくんの、あまりに根性でなんでもできてしまうのを見てて、人間の潜在能力を信じすぎてたっていうかさ──」
「確かに……。そうかも……」
オレはうなずきながらも、心の中ではツッコんでいた。
オレが根性信者になっていたとして、オレをそうさせたのはコンジョーだけじゃなく、キミのせいでもあるのだと。
「とにかく──、コンジョーくんに言ってあげてよ。無理して身長伸ばさなくていいって──」
「ああ、わかった。でも、なんで朝日奈ちゃんが直接言わず、言伝をキミに頼んだの?」
「そんなの知らないわよ」
神崎がツンと横を向いた。
やばいな……。
神崎のことが実物以上に可愛く見えてきた。元々がアイドル級に可愛いのに。
「でも、コンジョーのやつ、やる気満々だよ? どうやって思いとどまらせよう?」
「じつはね」
神崎が何か意味ありげに笑った。そして──
「耳、貸して」
瓢箪丸先生に聞かれたらまずいことなのか、神崎が耳打ちしてきた。
オレの耳元で、神崎の唇が、動いた。
神崎の吐息がかかる。
クラクラしそうになりながら、でも、彼女の言葉はしっかり理解した。
自分で言うのも何だが、オレだってイケメンと呼ばれる男だ、神崎の吐息なんか何でもないように振る舞って、彼女の言葉に笑ってみせた。
「かわいいね、朝日奈ちゃん」
余裕の微笑みを浮かべて、言った。
「嫁になっちゃえばいいのに」
「でしょー?」
うなずいて笑う神崎が、不思議そうな表情になった。
「何真っ赤になってんの? 顔、りんごみたいに真っ赤だよ?」
「え……。なんでもないよっ!」
「いいねえっ」
瓢箪丸先生がふふふと笑った。
「青春だねえっ。ふふふふふ」




