親友は心配(神崎梓視点)
まるで猿に無理やり引っ張られるようにして、それでも仲良さそうに遊んでいる猫みたいな親友を、私は少し離れた休憩スペースから眺めていた。
「クリームソーダとたこ焼きって、合うよね!」
目の前ではそんな共感できないことを言いながら、チャラ男が笑っている。
「心配だわ……」
そいつに言ったわけではなく、独り言が口をついて出た。
「あの子……初めてのカレシだから……男の子に慣れてないからとても心配」
「あのさ……」
チャラ男が真面目な表情になって、言った。
「コンジョーはいいやつだよ。オレが保証する」
チャラ男の保証なんて信用できない。
これでもこの神崎梓、学年1のモテ女子をやっている。男を見る目には自信のあるつもりだ。
でも、あの段田紺青とかいうやつは、わからない。
すごく純真無垢ないい子にも見えれば、下心満々の動物にも見える。
あんなのに大事な親友の笑を任せてもいいものか──
そう思っていると、向かいの席に座るチャラ男がたこ焼きを食べる手を止め、唐突に言いだした。
「根性があればなんでも出来る! 出来ないのは根性が足りないからだ!」
「……は?」
頬杖をついたまま、そいつの顔を、バカを見る目で見てやった。
「あんた昭和のオヤジ? そんなわけないでしょ?」
「うん。ふつうならそうだよね。出来るわけがないことは、いくら根性があっても出来ない」
チャラ男の顔が、優しくなった。
「でもね、あいつは──コンジョーは、本当にそうなんだ。根性を出せば、なんでも出来てしまうんだ」
「なんでも?」
思わず笑ってしまった。
「たとえばビルの最上階から飛び降りても、根性で死なないとか?」
「うん、そうなんだ」
チャラ男が真顔でうなずいた。
「なんでも出来てしまうんだ。ただ、根性が発動するのには条件があってね──」
超人かよと心の中でツッコみながらも、黙って聞いてあげた。
「自分の欲望のためには発動しないんだ。誰かを助けるためなら、そしてその誰かがあいつにとって大事なひとであればあるほど、あいつはでっかい根性を発動できるんだ」
鼻で笑ってツッコんであげた。
「笑に告白する時、『根性ー!』って叫んでたけど、あれ自分の欲望のためだったじゃん?」
「あぁ……」
チャラ男がくすっと笑った。
「柏木さん……キミも親友なら気づいてるだろ? 朝日奈笑さん──彼女もすごい能力もちだよね?」
そう言われて、うなずいた。
「笑は誰もを笑顔にする。特に愛に恵まれないひとを見ると、心から興味をもって優しくする。誰でもを笑顔に出来る。……それで危ない感じの陰キャたちから大人気。『天使猫』とか呼ばれてる」
「そう。そんな朝日奈さんを、コンジョーは尊敬して、前から好意以上の想いを寄せていたんだ。それで、自分が付き合えば、朝日奈さんの力になれる、彼女を幸せに出来るって言って──」
「何それ」
興味がなさすぎて、私はそっぽを向いた。
その時だった──
「事故だーーー!」
誰かが叫ぶのが聞こえた。
見ると、ジェットコースターが逆さまになった状態で止まっている。
乗客はみんな髪を逆立てて、苦しそうだ。落ちてしまいそうなひともいる。
その中に、並んで座っている笑と段田くんの姿も見えた。
「笑!」
思わず立ち上がった私の手を、チャラ男が掴んだ。
「大丈夫、コンジョーがついてる!」




