根性で身長を伸ばす!
寒風の吹きすさぶ1月に、なぜかうちの高校では身体検査が行われる。
ふつうは春にやるものだと思うんだけど、何の都合なんだろうか──
「朝日奈笑さん、148.2センチ」
保険の牛野先生にそう言われ、あたしは内心で喜びの声をあげた。
『わっ。去年より2センチも伸びた』
「凄い! 笑はまだまだ成長してるんだね。私なんか中三で成長止まったよ」
そう言いながら、後ろから梓ちゃんが抱きついてきた。
「かわいいわー、子猫みたい。でもいつまでもかわいいままでいてね!」
「梓ちゃんは? 変わってなかった?」
「うん。去年とまったく変わらず。168センチ」
「いいなー、高身長。カッコいい」
廊下へ出ると、ばったりコンジョーくんたちと出会った。
「やぁ、お二人とも」
柏木くんがいつも通りの爽やかな笑顔で手を振ってきた。
コンジョーくんがなんだかしおれてる。
よっぽどショックなことがあったみたいな顔してる。
「どうしたの?」
あたしは聞いてみた。
「身長が……」
うつろな目をしてコンジョーくんが答えた。
「まったく伸びていなかったんだ」
「オレ、1センチ近く伸びてた」
柏木くんが陽気な声で言う。
「179越えてた」
梓ちゃんが168──
並んだらすごくベストマッチなモデルのカップルみたいだろうな。
そう思いながら振り向いてみると、梓ちゃんは興味もなさそうだ。イヤフォンでなんか音楽を聴いてる。
「朝日奈笑……」
コンジョーくんがあたしに聞いてきた。
「身長、いくつだった?」
「148.2」と、あたしが正直に答えると、コンジョーくんの頭の上に『ガーン』という書き文字が浮かんだ。
「ぬ……、抜かれる!」
顔じゅう汗でダラダラにしながら、コンジョーくんが拳を握りしめた。
「根性で身長を伸ばさなければ!」
学校帰り、コンジョーくんはあたしと並んで歩くのを嫌がった。
柏木くんのむこうに隠れるようにして歩いてる。
「ちょっとー、コンジョーくん」
一番遠いところから梓ちゃんが声をかけた。
「笑のカレシでしょーが? 柏木とカノジョを並ばせといて、いいのー?」
左から梓ちゃん、あたし、柏木くん、コンジョーくんの順に並んで歩いてる。
歩道を横一列になって歩くと他のひとの邪魔になるから、あたしとしては二人ずつ列になるべきだと思うんだけど──
つまり、あたしとコンジョーくんが一緒に並んで、梓ちゃんと柏木くんが並んで歩くべきだ。
実際にはあたしは二人の高身長に挟まれて、二人の子どもみたいになってる。二人と手を繋いだらブランコできそう。
「根性だ……、根性だ……」
柏木くんの陰から切実な声が漏れてくる。
「根性があれば何でもできる! 根性で身長を伸ばすんだ……!」
「ちょっと……柏木くん、いい?」
「ん? 何、朝日奈さん?」
あたしは柏木くんに断ると、その背中を抜けて、素速くコンジョーくんの隣へ移動する。
「はうっ!?」
そんな声をだし、恥ずかしいところを見られたみたいに動揺するコンジョーくんの、その手をあたしは繋いだ。
「あのね? コンジョーくん」
厳しい目をして言ってあげた。
「コンジョーくんの背が伸びたら、こんなふうに手を繋げなくなるよ?」
「あ……、朝日奈笑……」
あたしは3センチぐらい上にある彼の目を見つめると、にこっと笑ってみせた。
「気にしないで! たとえあたしより背が低くなっても、あたしはコンジョーくんが好きだから」
「て……、天使か」
コンジョーくんが、泣いた。
「俺も好きだぞっ、朝日奈笑!」
よかった。根性で身長を伸ばすことは思いとどまってくれたようだ。
コンジョーくんならできてしまいそうで怖かった。身長を伸ばすならちゃんと栄養をとったりすることでしてほしかった。
無理なことはしちゃいけないんだ。間違ったやり方で身長を伸ばそうなんてしちゃいけない。
そう思いながら、安心していると、コンジョーくんが決意を声に込めて、言った。
「でも……俺、キミよりせめて5センチは背が高くなりたい!」
思いとどまってくれてなかったみたいだ。
「キミに似合うような、立派な身長をもった男になりたいんだっ!」
「根性で身長を伸ばそうなんて、絶対だめ!」
あたしは再び厳しい目をして、彼を叱った。
「そんなことしたら絶対、身体に悪いから! ね? 正しく栄養と運動で頑張ろ?」
「わかった!」
コンジョーくんが強くうなずいてくれた。
「よし! 今日から毎日ウサギ跳びで登下校するぞ!」
間違ってる! 早速間違ってる!
梓ちゃんと柏木くんに救いを求めるように目を向けると、二人が言ってくれた。
「バカ。コンジョー、それは足の骨を痛めるだけだぞ」
「かえって身長、縮んじゃうかもよ? クスクスクス」




