30秒チャレンジ!(神崎梓視点)
そのお店にはなんとも魅力的なパフェがあると、ネットや取り巻きさんたちの話で、前々から知ってはいた。
でもまさか……食べられる日が来るなんて、思ってもみなかった。
高級メロンを使った『王様パフェ』!
それが今、私の前に、どーん! と置かれた。
あぁ……。何? この常識を覆すような緑色のパフェは?
入れ物が半分に切ったマスクメロンなのよ!? なんてこと! ぜんぶ食べられちゃうじゃない!
そこに載せられたカットメロン! マカロンや生クリームがまるでオマケみたい! これはまさにお菓子とクリームでお化粧されたメロンのかたまり!
私はスプーンを持つと、すぐには突っ込まず、まずはその素晴らしき勇姿をしっかりと目に焼きつけた。
「すごいね」
テーブルの向かいから、そんな声がした。
忘れてたわ。そういえば柏木と向かい合って、カフェの席にいるんだっけ。
コイツの奢りじゃなくて、笑と一緒だったらもっと美味しそうだっただろうのに……
「いいこと思いついた」
対面のクソイケメンがなんか言い出した。
「そのパフェ、30秒で食べきることができたら一万円もらえる──っての、どう?」
「は?」
思わず柏木の顔をしげしげと見てしまった。
あんまり見すぎてはいけない。綺麗な顔に見とれてしまう。
「食べきれなかったら?」
「ペナルティーはなし。続けてゆっくり食べてもらえばいい」
バカな提案だ。
暑い夏ならともかく、初旬とはいえ12月にそんなチャレンジしたら、体が冷えきっちゃうじゃない。
柏木が財布から一万円取り出し、ピラピラと見せつけてきた。
「どう? やる?」
一万円……あの一万円があったら……
四千円のこのパフェ、ふたつ注文できちゃうじゃない!
今度、笑を誘って、奢ってあげられるじゃない!
頭の上に、笑が口のまわりにクリームをいっぱいつけて、メロンを猫食いしてるかわいすぎる絵が浮かんだ。
「やるわ!」
「おお……」
柏木がなんか感動したような声を出す。
「でもそれ、相当な量だよ? 器まで食べきらないといけないし……できるかな?」
「私様を誰だと思ってらっしゃるの?」
私は思わず立ち上がり、見栄を切った。
「根性部の切り込み隊長、2年A組! 神崎梓よ! 根性があればできないことはない!」
柏木がなんかうっとりしたみたいな笑顔でビリビリ痺れてる。なんだ、コイツ。
柏木がスマートフォンでストップウォッチをセットした。
「……じゃ、行くよ?」
「おう」
「Go!」
合図とともに私は高級パフェに顔を突っ込んだ。
スプーンなんか使ってたらとてもじゃないけど30秒で食べきるのは不可能!
ならばッ! 吸う! 吸い込むのみッ!
カットメロンをつるりと飲み込み、クリームを掃除機で吸うように片付け、残りはあっという間に器のメロン果肉だけとなった!
みっともないのはわかってる。
たぶん他のお客さんたちがびっくりしてこっちを見てる。
構うものか! どうせ知らないひとたちだ! 知り合いは目の前のクソイケメンだけ! コイツにはどれだけみっともないところを見られたって恥とは思わない!
「根性オォォーーーッ!!!」
25秒で高級メロンパフェを食い切った。
顔を上げると、柏木が感動に打ち震えてる。
私は紙ナプキンで、顔じゅうについたメロン果汁とクリームを拭き取ると、言ってやった。
「すごい?」
「すごい!」
柏木がすごい笑顔で、叫ぶように言った。
「相変わらずキミはすごい! カッコいい! その根性、オレにも分けてほしいぐらいだ!」
そうして私は一万円をゲットした。
うふふ。今度ここに来る時は笑と一緒。ゆっくり楽しい時間を味わっちゃおっと。
でもちょっと無理しすぎちゃった。体の芯まで冷たくなってしまった。暖房程度じゃあったまらない……。
「寒くなったんじゃないの?」
勘がいいやつだ、クソイケメンが心配そうに私の顔を覗き込む。
「オレの上着、羽織る?」
「いいわよ。自分の羽織るから」
脱いでいたフェイクファーのコートに袖を通しながら、彼の前に置かれたコーヒーを見ながら、言った。
「それにしてもあんた、質素ね。一番高いコーヒーでも頼むのかと思ったら、一番安いブレンドコーヒーって」
「ハハハ……。オレが無尽蔵にカネを持ってるとでも思ってる?」
私はうなずいた。
「うん、思ってる」
「オレ……、親父から小遣いは貰ってないんだよ?」
綺麗な顔にコーヒーを一口運ぶと、柏木が言った。
「自分でバイトしたり、バンドのライヴチケット売ったりしたカネを小遣いにしてるんだ」
「ハァ……? なんで?」
「自分の力で生きたいから」
目が真面目だった。
「ふーん……。意外と──」
意外と──なんだろう。その続きの言葉が見つけられなくて、私は黙った。
柏木が言う。
「見直してくれた?」
「フン!」
私は睨みつけた。
「自分の力で生きたいなら、もっと根性つけなさいよね!」
あれ……? なんか、へんだ。
私、コイツには心からツンツンしてるから、外面は逆にツンツンなりすぎないよう、気をつけてたはずなのに……
今、心とは裏腹なツンツンしちゃった。




