デートじゃないんだからね!(神崎梓視点)
12月の風は冷たい。
でも私は外を歩く、あてもなく。
みんなにこのかわいい私を魅せたいからだ。
──でも、今はあまり見られたくなくて、でも自信なさげにうつむくこともできず、なるべく横を向いて歩いた。隣を歩くクソイケメンの、反対側を──
「サンキューな、付き合ってくれて」
そのクソイケメンが、私の頭の後ろから、爽やかな声をかけてくる。
「……べつに、あんたと並んで歩きたいわけじゃないわよ。笑の喜びそうなものを選んであげるだけなんだからね」
街には気の早いクリスマスの音楽が流れてる。
柏木は根性部のみんなに贈るプレゼントを一緒に選んでほしいと、私に頼んできたのだ。
「コンジョーへのプレゼントは何が喜ばれるか、簡単にわかるんだけど、朝日奈さんが何を喜んでくれるか、わからなくてね」
それは私も選びたかった。
自分が笑に贈るぬいぐるみは既に買って用意してあるけど、あと10個ぐらいプレゼント候補があった。その中から……何を選ぼうかな、何を選ぼうかな♪
幸い、金に糸目はつけなくていい。
あでも……。あんまり高いものを贈ったらあの子、引いちゃうかもだな。よし、そこそこ安価なものを選ばせて、付き合ったお礼に何か高価なものを買わせよう。
「ところで──」
顔を背けたまま、私は柏木に言った。
「あんまり近づいて歩かないでよね。ファンのひとに見られたら誤解されちゃう」
「同じ根性部の部員なんだから平気だよ。部の買い出ししてると思ってもらえるだろ。だから平気」
呑気な声が返ってきた。
「少なくともオレはね。ファンに見られても全然構わないよ」
「ところで──さっき、『根性部のみんなにプレゼントを贈る』って言ってたけど、私にはいらないからね? 私もあんたへのプレゼントなんて用意してないし」
「え……。いらないの?」
「きっぱり、いらん。その代わり、今日付き合ったお礼に本物の毛皮のコート買ってくれたら、それでいいから」
「知らないのか? 本毛皮は今、動物愛護の観点から不人気だよ?」
「そ……、そうなんだ?」
庶民の無知をさらけ出してしまった、恥ずかしい。
「そのフェイクファーのコート、似合ってるから、そのままでいいんじゃない? 着るひとがカッコいいと、なんでもカッコいいよ」
歯の浮くようなセリフをサラッと言う。これだからイケメンという人種は……
「あ、ここ?」
私が店の前で立ち止まると、柏木がアホみたいな声を出す。
キャラクターショップ『ねこねこワールド』──ねこ系のキャラクターグッズ専門の雑貨店だ。つまりは笑に似合いそうなモノで店内が溢れている。
よだれが垂れてしまいそうになりながら、私はつい、柏木の手を握ると、引っ張った。
「あ。積極的だな、嬉しいよ」
なんかそんなことを歯の浮く声でクソイケメンが言ったけど、そんなの気にしてる場合じゃない。早く入りたいだけなんだから。早く店内に入って、この興奮をさらに高めねば! ハァハァ……
入るなり、笑そっくりのキャラクターたちに取り囲まれた。
「ね……、ねこねこーー!」
思わず甲高い声をあげてしまった。
『くちゅり屋のひぽりごと』のねこねこ、『ねこねこのこのこしたんたん』のねこのこのこ、ねこじゃないらしいけどねこっぽい『にぃかわ』のナナワレ──笑そっくりのキャラクターたちのマスコット、文房具、その他さまざまなねこがキラキラもふもふと私を迎えてくれた。
「へぇ、かわいいね」
背後で柏木も感動の声をあげる。
「オレ一人じゃさすがに入れない雰囲気だ。付き合ってもらって、よかったよ」
「ふひゃーん」
クソイケメンはほっといて、私はねこキャラさんたちと戯れはじめた。
「笑だ、笑だ! 微笑みがいっぱぁーい!」
「ところでどれがいいのかな?」
商品を眺め回しながら、柏木が困ったような声を漏らすので、迷わず私はそれを勧めた。
「これ! これよっ! 笑に絶対似合う!」
ねこ耳つきのカチューシャ──
これを頭につけた笑を思い浮かべると、愛くるしさで悶絶しそうになってしまう。
「うーん……。でも、身につけるものをオレが贈るのって、へんじゃない?」
確かにそうだ。柏木の言う通りだ。私が贈るならともかく、クソイケメンの贈ったねこ耳を頭につけて嬉しそうに笑う笑を思い浮かべたらなんかムカついてきた。
「これがよくない? クッキー。親友のカノジョに贈るものだから、形として残らないものがいいんじゃないかな」
あっさり選びやがった。私はこの前、迷いに迷ってカチューシャを選んで、だけどやっぱりぬいぐるみのほうがいいかなって、二時間ここの店内にいたというのに!
これだからイケメンは嫌いなんだ。何の苦労もなく、スマートにあっさりと、物事を決断しやがる。
心がないんだ! うわべだけなんだ!
あぁ……。もう、サッサと別れてもう、家に帰りたい。
「今日はありがとう」
キャラクターショップを出ると、柏木が言った。
「助かったよ。何かお礼をしないとだね。何がいい?」
私は即答した。
「パフェ!」
ちょうどこの近くのカフェに、ものすごいパフェがあるのを思い出したのだ。四千円もするから一生食べることはないだろうと思っていたが、今がそのチャンスだと思いついたのだ。帰るのはとりあえずやめだ。
なんかデートみたいになっちゃうけど、これはけっしてデートじゃないんだからね?
金持ちの奴隷を使役する庶民のお嬢様みたいなことなんだから!




