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男子は根性 〜 根性があればなんでもできてしまう男の恋物語 〜  作者: しいな ここみ
論理的な根性論! の巻

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24/29

俺の女に手を出すな

 梓ちゃんと柏木くんが帰ってきた。黒と赤の忍者服のまんまだ。その格好で町を歩ける二人のことをあたしは尊敬した。


 なんか二人とも疲れてる。

 部室に入ってくるなり、実験机に突っ伏すようにへたり込んだ。


 あたしは梓ちゃんの耳元にヒソヒソ声で聞いてみた。

「スパイ活動お疲れさま。どうだった? 吊り橋効果で恋とか産まれた?」


 柏木くんと二人、ドキドキするはずの隠密行動をやったのだ。

 絶対、何かいいこと起こったはず。その証拠には二人ともありえないぐらいに疲れてる。これは激しすぎる恋が産まれて、燃え上がりすぎたからじゃない? わくわくしながらそう思っていると、梓ちゃんがどーでもよさそうに言った。


「火事場のバカ力、出しすぎちゃった。……あと、産まれてるわよ、恋。ストーカー的な──」


「へっ?」


「なんだって!?」


 向こうでコンジョーくんの驚く声がした。

 あたしと梓ちゃんと同じように、向こうでも机に突っ伏した柏木くんがボソボソなんか言ってる。


「……そうか、ハルト。そいつは素晴らしいやつのようだな」

 何を聞いたのか知らないけど、コンジョーくんがすごく嬉しそうだ。

「よし、わかった! 俺は引っ込み思案の恥ずかしがり屋だが、朝日奈笑の素晴らしさを共有できる仲間となら話せそうだ!」


 なんだかわからないけど、今度はコンジョーくんとあたしとで英愛学園に行くことになった。



====



「根性オォォーーー!!!」


 英愛学園の校門を睨みつけるように、コンジョーくんが叫んだ。向こうの生徒さんたちがびっくりしてこっちを見てる。

 その視線を感じて恥ずかしいのか、コンジョーくんはさらに大声で叫びはじめた。


「こ……、根性ッ! 根性! 根性! 根性があればなんでもできる!!!」


 彼は一人でコンビニに入ることもできない恥ずかしがり屋さんだ。

 そんな彼が見知らぬ他校に入って行くなんて、相当のストレスなのだろう。

 あたしはその背中を優しくぽんと叩くと、微笑みかけて、言ってあげた。


「大丈夫だよ、コンジョーくん。あたしがついてるよ」


「て……、天使猫……」

 彼の頬がピンク色に染まる。

「俺は、キミのためなら、知らないやつと会話できる!」


 その必要以上の張り切り方が、かわいかった。



 アポイントメントは取ってあった。

 情報処理室の前へ行くと、コンジョーくんが気持ちを落ち着かせようと深呼吸をはじめる。


「よし、入るぞ!」


「うん!」


 そこまで気合いをこめる必要はまったくないと思ったけど、あたしとコンジョーくんは拳を握りしめて精神統一すると、二人で扉を開けた。


 目の中にたくさんのあたしが飛び込んできた。


「おおーーーっ!」

 コンジョーくんが感動して、叫んだ。

「朝日奈笑がいっぱいだ!」


 広い室内の、奥の壁一面に、あたしの写真が貼られまくってあるのだった。

 体操着のあたし、お弁当を食べるあたし、にっこり微笑むあたし──なんだこれ。いつの間に……


「や……っ、やあっ!」


 部屋のどこかから男子の声がしたので探した。

 すると机の陰に隠れてたひとが立ち上がった。背の高い、銀ぶちメガネをかけた、細身のイケメンだった。


「ま……、待っていたんよ」

 イケメンはメガネを指でくいっと上げると、自己紹介してくれた。

「僕が噂の倶府田ぐぷた双星ジェミニなんよ。噂の『対受験問題プログラム』を作成した、天才の──」


「よろしくっ!」

 コンジョーくんが握手を求めた。

「朝日奈笑の素晴らしさがわかるやつに会えて嬉しいです!」


 いや……、待ってよ。

 あたしは壁一面の写真を見ながら、震えた。

 怖い……、怖いよ、これ、盗撮だよね?


 なんか言ってやってほしいのに、コンジョーくんはフレンドリーに握手なんかしてる。

 嫉妬とかもしてくれてないようだ。心からのすごい笑顔だ。


「あっ……、朝日奈笑さん!」


 倶府田くんが首をこっちに回して、コンジョーくんと握手をしたまま、話しかけてきた。


「はっ……、はい!」


 怯えながらあたしが返事をすると、こんな話を持ち出してきた。


「『対受験問題プログラム』をシェアしてほしいんだよね? シェ……、シェアどころか、キミにあげよう!」


「それは……ありがとうございます」


「ただし……! 交換条件があるんよ!」


「交換条件……?」


 コンジョーくんと握り合った手を、興奮したようにぶんぶん振りながら、倶府田くんが切り出した。


「僕……、キミのことが好きなんよ! ファンなんよ! だから……僕と付き合ってくださいっ!」


 情報収集能力……

 ないんだろうか──

 あたしとコンジョーくんが付き合ってること、知らないんだろうか──

 でも……、そのプログラム、欲しい──

 どう返事をしようか、あたしが迷っていると……


 握手した腕をぶんぶん振っていた倶府田くんの動きを、コンジョーくんが止めた。すごい力で止めた。


「朝日奈笑のよさをわかるのは素晴らしいことだ……。だが!」

 あたしのほうをじっと見ていた倶府田くんの顔を、ぐりんと自分のほうへ向かせると、コンジョーくんが言った。

「俺の女に手を出すな」


「……ひっ!?」


 コンジョーくんがどんな表情をしてるか、あたしからは見えない。でも、倶府田くんの怯えっぷりからなんとなく窺えた。


 いつもはかわいいコンジョーくんが、なんかカッコいい。


 なんだか殴りかかりそうな気配がした。彼を止めるためにも、あたしはぺこりと頭を下げると、自分の口から返事を伝えた。


「ごめんなさい倶府田くん。あたし、あなたが今、握手をしているそのひとと、付き合っているんです」


「ひ……、ひぃっ!?」


「根性オォーー!!」

 コンジョーくんがいきなり壁の写真をすべて一瞬で引っぺがすと、言った。

「ゆえにこれはぜんぶ俺がもらう! いいな!?」


「うん!」

 あたしはなんか嬉しくなって、うなずいた。

「コンジョーくんにぜんぶあげるよ!」


「そっ……、そんな!」

 倶府田くんが泣き叫ぶ。

「『対受験問題プログラム』はいらないのかいっ!? 欲しいなら、僕と……」


「そうだ。聞いていなかったが、それはどんなものなんだ? 勉強しなくても百点が取れるのか?」


 コンジョーくんの質問に、倶府田くんが答えた。


「今のところ……百点は無理なんよ。でも……これを使えば必ず60点は取れるという、まさに天才が作った優れもの!」


「なにっ!? ろ、60点も取れるのか!?」

 コンジョーくんが興奮して、あたしのほうを見た。

「す、凄いぞ朝日奈笑っ! 凄い発明だ、これは!」


 あたしは倶府田くんにぺこりと頭を下げると、言った。


「ごめんなさい。いりません」




 二人並んで英愛学園の校門を出た。


「いいのか? 朝日奈笑」

 コンジョーくんがあたしを気遣うように言う。

「60点も取れるんだぞ、勉強しなくても? そんな素晴らしいプログラムを諦めて──」


「いいの、いいの」

 あたしはにっこり笑顔を見せてあげた。

「無駄足だったかなと思ったけど、楽しかったね!」


 ここでコンジョーくんが手を繋いでくれたりしたら、もっと楽しかったんだけど──


 なんだかちょっとだけでも進歩した感じのする二人の関係に、あたしはご機嫌だった。





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― 新着の感想 ―
天才が作ったプログラムの微妙な仕様に笑いました。 タダならほしいかもしれないけど、結局、いらないよね……。 あの天才、ちょっと取り締まったほうがいいんじゃないかなとか。
更新だ!更新だ!新しい話だ! 作者様ありがとうございます!(*´∀`*) 何かどっかズレているのに勢いよく進んで幸せの着地♡ 楽しく読ませて頂きましたー!!!m(_ _)m
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