根性デート
あたしと梓ちゃんは『美人のキツネとかわいい猫のコンビ』と呼ばれてるらしい。
もちろん美人は梓ちゃんのことだ。
あたしは確かに猫だと自覚してるけど、かわいくはない。
美人といつも一緒にいるついでにかわいいということにされてるのだろう。
ありがたいことだ。
梓ちゃんと並んで遊園地へ行くと、すれ違うひとたちが梓ちゃんをチラチラと見る。美人と並んで歩くと鼻が高い。
「あっ、朝日奈さーん!」
ゲート前の広場で、柏木くんがあたしたちを見つけて手を振った。段田くんはその後ろに隠れるように立っていた。
「待った?」と、梓ちゃんが聞く。
「全然! オレらも今来たところだよ」と、柏木くん。
なんだか二人のデートにあたしたちがついて来たみたいな絵柄だ。イケメンと美人が遊園地にとても映える。
あたしと段田くんはお互いの親友の後ろにペットみたいにくっついてた。
「改めて今日はよろしく! 自己紹介、まだだったよね? オレは柏木陽翔」
「知ってる。バンドでギターボーカルやってる人気者じゃん? あたしは興味ないけどさ」
「アハハ! キミ、神崎梓さんだよね? 学年トップアイドルの──」
お似合いだ。
本当に、柏木くんと梓ちゃんがこれからデートするみたいだ。
帰ろうかな……。あたし、お邪魔虫だよね?
段田くんを見ると、柏木くんの背中から、そんなあたしを心配するように見ていて、あたしと目が合うと、思い出したように叫んだ。
「こ……、根性ーーー!!!」
「ひっ?」と、梓ちゃんがびっくりして叫ぶ。
柏木くんの背中から抜け出して、段田くんがあたしのほうへ、ズンズンと歩いてきた。美人の梓ちゃんのことはまったく見てない。あたしだけをまっすぐ見つめて、やって来ると、手を繋いできた。
「やったな、コンジョー!」
嬉しそうに柏木くんが声をあげる。
「根性で手を繋げたじゃないか!」
彼の手は固くて、力強くて、でも優しかった。
そのまま段田くんは、あたしの手を引っ張り、柏木くんと梓ちゃんを置き去りにする勢いで、遊園地のゲートへ私を連れて行った。




