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3「廃墟探索」

「ふぇ~」とあくび。

 天井にある照明が書庫を照らしている。

 気づけば日が落ち、書庫の外はすっかり暗くなっていた。

 本を読みふけっていたせいで、時間の感覚をすっかり忘れていたのだ。


「めちゃ、眠い……」

 瞼をこすりながら呟く。

 どうやらこの体は眠気が訪れるのが早い。

 前世のように昼夜逆転しないよう、ちゃんとベッドで眠らなければ。


 意識はすでに朦朧とし、頭は鉛のように重く、足取りはふらつく。

 辺りは灯りひとつなく、一層暗い。


 そんなことより、と思った。

 家主が、使用人が、誰一人として帰ってきていない。

 私を置いて出ていったのだろうか。

 こんな可愛い子をひとりにするとか……ありえん!


 どうしてだろう――前世でも、子どもをひとりにする家庭は多かった。

 シングルマザー、あるいはシングルファーザー。

 そういうときは、公民館や児童館に一時的に預けられていた。


 寂しい時間をつくらないように。

 知らぬ間に外へ出たり、火を触ったりしないように。

 子どもというのは、誰かが見ていないと、何をしでかすか分からない。


 この世界に、そんな支援の仕組みがあるのかは知らない。

 けれど、ここでは子どもを一人にするのが当たり前なのだろうか。


「……迷った」

 人気のない廊下でそう呟いた。

 壁沿いを適当に歩いていたら又しても迷ってしまった。

 何をしているんだ――私は。


 どうしよう。一度引き返すか。けれど戻れる保証もない。

 書庫の場所に辿り着ける自信なんて、まるでなかった。

 振り返ると、先の見えない闇が続いている。

 その時になって初めて、胸の奥にじわじわと恐怖が湧き上がった。


「( ̄∇ ̄;)ハッハッハ……」

 ……こういうときって、歌を歌うと気がまぎれるはず。


「あるはれた……」

 震える声で歌を絞り出す。


 真夜中に、たったひとり。

 廊下を全力疾走しながら、大声で。

 近所迷惑なんて考えず平成曲を熱唱する元女子高生の姿が、そこにはあった。


 ***


「魔法……みたいに……」

 廊下の突きあたりを通り過ぎようとした時、ふと絵画に目がいった。


 二枚の肖像画が飾られていた。

 一枚は美男美女のおしどり夫婦の絵画。

 もう片方の絵画には一人の少女が描かれている。


 少女の方は私だとすぐにわかった。

 溢れ出る可愛いまでは表現出来ているわけではないないが、この色白の肌と銀髪、瞳の色までも。私の特徴を忠実に再現していた。


 ならと、もう一つ絵画に目を向ける。


「……これが、私の両親」

 父と思われる男は。

 イケメンと呼ぶには少し地味だが、端正な顔立ちをしている。

 柔らかい笑顔は不思議な魅力がある。


 母の方はと言うと。


「……似ている」

 私に。

 いや、逆だ。私が彼女に。

 椅子に座り鎮座している姿は、どこか現実離れした美しさだった。

 二人を並べて見ると、美女と野獣まではいかないものの。

 この男は大物を釣り上げた、ラッキーボーイだったことがわかる。


 しかし、家族三人揃っている絵画がないのは疑問だ。

 私は家族にも嫌われていたのだろうか。

 ……そんなことはないと、思いたい。


 再び歩く。廃墟の中を洋々と、坦々と。

 その心にはもう恐怖心はなく、トレジャーハンターの如く探求心に駆られていた。


 次に見つけたのは、玉座の間だった。


 此処だけ空気が異様に澄んでいる。

 床の大理石はひび割れ、壁の装飾も所々欠けていた。

 玉座は少し傾き、覆う布は色褪せている。

 けれどその形は保たれたまま、静かにこの場所を支配していた。


 この光景を目の当たりにして、

 自分の中にあった違和感に対する解答が浮かんだ。


 考えることを避けていたが。もう、ここは――無人の廃墟なのだろう。

 かつて「城」と呼ばれていた場所。

 一体、この城で何が起きたのか……。


 誰もいない理由も、掃除されぬ埃と崩れかけた壁も、

 過去で何かが起きたことを物語っていた。


 玉座の方に歩ていと。

 ――誰かがもたれかかっているのが見えた。

 一瞬、心に浮かんだ安堵の文字は衝撃という波によってかき消された。


「……!?」

 死体。ミイラだった。


 長く放置されているの、カピカピに干からびていた。

 胸には一本の剣が突き刺さっているが、周囲には戦いの、飛び散った血の痕跡はなく、遺体だけが放置されていた。


 推理をする。

 無人の城。いや、私が一人。

 すると、自ずと犯人が見えてくる。

 犯人は――私しかいない。


 という冗談は置いとく。


 死体を見て驚きはしたが、恐怖まではしなかった。

 あまり実感が湧かない。

 非現実的。映画のワンシーンを見ているかのように唖然としていた。


 無駄だと思うが。安否確認をと、声をかける。


「大丈夫ですか……」

 返事はない。ただの屍のようだ。


 干からびた皮膚は紙のように薄く、骨の輪郭をなぞる。

 目の窪みは深く、そこにあったはずの表情はとうに失われていた。

 誰だったのか――それを知る術は、もうない。


「南無……」

 一応、手を合わせておく。

 いきなり動いたりして、強制戦闘に入るのは勘弁だ。

 この小説にはホラー表現が含まれていますと、書かなくてはならなくなる。


 どうやら、本当に死んでいるみたいだ、バイオのようなゾンビ展開はなかった。

 まあ、可哀そうなので、剣を抜いてあげることにした。


「ぬ、抜けない!」

 剣と皮膚が一体化しているようだ。

 どのくらいの年月が経てばこのようになるのか。


「おりゃーっ!」

 力任せに引っ張ると、勢い余って――転倒。


「いたた……!」

 抜けた剣はスピンしながら私の股の間にズブッ。


 一瞬、心臓が止まった

 その時――耳元で微かな声がした。


『……ごめんよ……』

 顔を上げると、死体は塵となって空気に溶けていった。

 もしかして、ずっとこの場所に縛られていたかもしれない。

 呪縛で地縛。

 今、私は結構良い事をしたのかもしれない。



 良い事したついでに、良い武器ゲット。


「……カッコいい」

 引き抜いた剣は血や錆などは付いていなく、綺麗な金属の光沢を放っていた。

 ゲームマーの私にはわかるこれは物凄くいい剣。

 魔剣とか、聖剣だったりして。

 引き抜いたことにより覚醒とかしちゃたりして……ふふふ。


 ……まあ、そんなことは別段なかった。


 ***


 ゴゴ……ゴゴ……。


 この剣。

 私にはちょっと、いや結構重かった。

 なので、引きずって自室(私が目覚めた場所)に戻ることにした。

 鞘はないので、家紋が付いた布をグルグル巻き。


 この後はどうしようか。

 城の外はどうなっているのかも知りたい。

 でも、もう暗いし、取敢えず明日になったら考えよう。


 この後、自室を探して廃墟の中を彷徨てったが見つけることはできなかった。

 偶然にも書庫には戻ることが出来たので、そこで朝を迎えることにした。



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