プロローグ
日差しが皮膚を刺し、身を焦がすそんな暑い夏の日。
少女が現状を受け止められず、現実逃避のためか、
クーラーのきいた部屋で一人、本を読む姿がそこにはあった。
私だ。
私は女子高等学校に通う普通の女子高生。
青春と引き替えに人生の半分を読書と二次元しか愛せない体にされてしまった女の子である。
冗談だが。
暇さえあれば常に本に顔を埋める日々。
埋めすぎて、誰とも会話せずに1年間が終わちゃった。てへぺろ☆(・ω<)。
そんなドジっ子性能持ち合わせているのが私だ。
自分で言っていて胸が痛い。
まぁ、そこに目を瞑れば普通の女子高生である。
友達作りに失敗した私は、学校では自分の絶対領域を形成した。
読書をすることでATフィールドを展開し、相手の会話を謝絶。
チャイムと共に、一年間で磨き上げた帰宅部スキルを存分に発揮し即帰宅。
誰とも目を合わせず、
誰とも会話せずに、
誰にも気づかれずに。
いつしか私は、そこにいて当たり前だが、そこにいなくても当たり前。
そんな怪異みたな存在だとまことしやかに囁かれていた。
色々あって、現在進行形でぼっちライフを謳歌する……はずだった。
「マズイ!」
もうすぐ二年の夏が始まるというのに、
何事もなく、予定もなく、友達もいないと。
ふと、自分の立たされている状況に危機感を覚えた一人の少女がいた。
やはり私だった。
このままでは友達もできないまま、一人寂しく卒業してしまう。
高校生という青春の真っ只中を、
『ちょっとそこ通りますよ』的に一般通過してしまう(汗)。
実にマズイ。
今から部活に入る?
いやもう部活体験とかする時期はとっくに過ぎた。
別に入部できないわけではないが、
今から入部しても、部活内でもある程度グループやヒエラルキーが成立しているかもしれない。
しかも、私は二年だ。
一年ならまだしも、二年が入るとなると入れるスペースは限られる。
ましてや陰キャのオタクの私が入部するとヒエラルキーの最底辺に君臨し、一生を雑用として過ごすかもしれない。
来年の自分にまかせるか?
否、無理だ。
来年は受験シーズンだ。友達を作るとか、そういう話ではなくなる。
なら来世か?
いや駄目だ、人間に転生できるかどうかはわからん。
いや、別に猫や犬なら大歓迎だが。
根暗でジメジメしている所さ好きそうだからといって、蟲にされてしまいそうだ。
蟲は好きではない。
害虫の王『G』との戦いから、
私は思いだした、今までヤツらに支配されていた恐怖を…。
そんなこともあって蟲は嫌いだ。
断固拒否。
あれ、何の話だっけ?
そうそう、青春という名の荒波を一人で航海、後悔したくない、
という話。
私は別に生まれてから今までボッチだったわけではない。
なんなら小学生の時は、学年全員と友達だったぐらいだ。
私はクラスの中心で、いつも周りには友達がいた。
当時は絵がうまく、じゃんけんが強かった。
絵に関しては賞をもらったぐらいだ。
それだけだったが、それだけでよかった。
小学生の友情関係とは算数のようなものだ、高校の数学とは違う。
和差積商のシンプルさ。
あの時が一番いい思い出だった。
だが、異変が起きたのは中学のときだ。
中学入学と同時に事故に遭った。
高齢者運転による判断力低下の運転操作ミス。
ペダルの踏み間違えだ。
私は右足を骨折しただけでよかった。
『私はだ』
私ともう一人、その事故に巻き込まれた。
あったことも、見たこともない。
ましてや名前も知らない人だ。
私を庇って死んだそうだ。
その死を知らされるまで3年かかった。
両親が隠していたのだ。私に責任を感じさせないために。
驚いたりはしたものの、深くは落ち込むことはなかった。
3年もしたら傷跡共に、倫理観も消えていったのか。
それとも、孤独か受験の疲れでいっぱいだったのかもしれない。
戻るが、結局、完治するまでの2か月入院していたためか、クラス内のグループは出来上がっていた。
ヒエラルキー的なものはなかったが、自分の居場所を見つけられず馴染めずにいた。
私が学校に復帰し1ヶ月経った頃。
一人でクラスに馴染めない私を哀れに、惨めに思ったのか。
先生が部活に入るように勧めてきた。
入りたい部活もないため、断ろうとしたが。
「入りたいのがないなら、文化部に入りなさい」
と私の言葉を遮るように言ってきた。
それが転機だった。
いや、悲劇の始まりかもしれない。
***
言われるがままに、文化部の戸を叩く。
「どうぞー」
返事と同時にドアが開く。
私は目を疑った。そこにあったのは文化部という名を聞いて、
品行方正が思い浮かぶような、いかにもお嬢様が正座をし、お茶を嗜むような空間はそこにはなかった。
そこにあったのは、部室を埋め尽くす本の山。
部員はたった一人、小柄な女の子。
彼女は不気味な笑みを浮かべて言った。
「どうぞ、どうぞ。此処は推理小説からSF、少年漫画からライトノベルまで全部揃っているよ。君の好みはどれかな?」
この一言から始まった。
地のない底なし沼。
足を踏み入れたら最後…。
***
今となってはもう気にしていない。
現在進行形で泥沼に体どころか頭までつかり、
100メートル自由形も息継ぎなしで泳げるぐらいだ。
「そうだ」
何を血迷ったのかスマホを持ち、何処かに電話をかける。
トゥルルルル…。
カッチ。
「もしもし。こちら、あ…」
「杏ちゃん師匠!」
相手の言葉を遮り、言う。
「遊びに行きましょう」
「え?」
***
私はスマホ片手に、全力疾走。
夏の暑さなんて関係ない、あるのはそう荒波を越えるためのオールのみ。
額の零れる汗は、きっと蒸発してこの世界を循環する。
だが、私のところには帰ってくるな。
向かう先は、中学時代の先輩、いや師匠のとこ。
今は専門学校に通っているらしいが、学校という割に宿題とか行事とかは特になく、毎日を暇で、暇で、暇しているらしい。
師匠も同じく友達を持たない。いないのではなく、作らないらしい。
なぜ作らないのかと聞いたところ、
『人間強度が下がる』とか言っていた。
ひゅー、かっこいい。
私と師匠の関係だって?
決して友達とかではない。
格が違う。
何の?と聞かれれば、BLも百合もいけるオールラウンダーで、
守備範囲が広いとこかな。
そう考えているうちに目的地はすぐ目の前。
足取りは軽く、駆ける速度は見る間に鋭くなる。
横断歩道を横断し終える。
――その時だった。
信号は青だった。
確かに青だった。
車がアクセルをかけ突進してくる。
避けようとする。
だが、思うように動けなかった、動かなかった。
今まで、運動をサボっていた罰か。
それとも、今になって足の怪我が疼いたのか。
バン!!
私は車と共に数メートル先まで跳ね飛ばされ、
宙を浮き、そのまま地面に叩き付けられる。
「いっ……」
痛くは……ない。
意識もある。
夏の暑さのせいか……熱中症のせいか痛覚は感じなかった。
だが、体は微動だにしなかった。
骨が折れ、肺が圧迫されたのか呼吸が徐々に苦しくなる。
死ぬ……のか?
ヤバイ。ヤバイ。ヤバイ。
このまま、何もないまま死ぬのは嫌だ。
『……やり直し……いやだ。』
喉までせり上がった言葉を、首を振ってかき消した。
私は陰キャで、根暗で、眼鏡で…、二次元の美少女に目がない生粋のオタクだ。
やり直してもまた同じ運命を辿るのだろう。
それならやり直したくはない。
やり直すぐらいなら、このまま死んだほうがまだましなぐらいだ。
『……生まれ……変わりたい』
『来世は東京のイケメン男子にしてください』などと強欲なことは言いません。
蟲は嫌だ!せめて、犬や猫のような誰にでも愛されるような……。
『でも……やっぱり、青春した……』
***
『本日未明、交差点付近で乗用車の暴走事故が起きました。
原因は、高齢者によるアクセルとブレーキの踏み間違えによるもので、
重傷者1名、死者1名を……』




